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綾瀬・・・

 期末テストでクラブは休み、自宅に帰ると零のスニーカーともう一つスニーカーがあった。誰が来てるのかな、階段を上がり零の部屋に声をかけ扉を開ける。

 綾瀬がいた。

 なぜかドキッとしてしまった。綾瀬が笑顔で挨拶をしてくれた。俺の心臓はどうかなっているかもしれない、バクバクと早鐘を打っている。なんて可愛い顔なんや、今まで見た人類の中で群を抜いている。俺は思わず勉強を教えると云ってしまった。

 綾瀬とやり取りをして、思わず綾瀬の頭をポンポンしてしまった。踵を返し零の部屋を出た。綾瀬は男やと呟く。

 自分の部屋に戻り、俺は女が好きなはず、なんで綾瀬をみてソワソワするのか心臓が落ち着かないのかわからない。自分の気持ちがわからず悶々としていた。

 次の日から俺は好きになれそうな女子を探してみる。きっと俺は同性を好きになることはないと今までも女子としか付き合ったことはない。ただ自分から告白をしたことはなかった。告白されていい子だな程度で付き合ってきた。俺は俺の気持ちが迷路に入ってしまったことに焦り、どうしたら抜け出せるのだろうか?自問自答を繰り返す。

 今日の帰り自転車置き場に綾瀬がいた。横に数人の女子がいて、中の一人がお付き合いしている人いないなら付き合ってほしいと告白していた。俺は気づいていないふりをしながら、綾瀬の返事が気になり耳をダンボにして聞く。

 「ごめん。好きな人いるから」

 綾瀬はそう云うと自転車にまたがり向きを返した。俺に気づきアッという顔をしながら、俺に近づいてくる。綾瀬が好きな人がいると云ったのを聞いてしまって俺はなんとも言えない気持ちになってしまった。足元がぐにゃりと歪んだ。

 「こんにちは、類さん今帰りですか?」

 「おう」

 引き攣った表情を悟られないように笑顔で精一杯の言葉を告げた。少し声が上ずったに違いない。

 「そこまで一緒していいですか」

 もちろんと頷いて自転車にまたがり一緒に学校を後にした。



 自転車置き場で告られているところを類さんに見られていた。そこまで一緒していいですか?と俺にしてはよく云ったと自分で自分をほめてやりたい。少し戸惑った感じに見えたけど一緒に帰宅できるしこれを機会に、初デートを取り付けたい。付き合っていないのでデートにはならないかもと思いながら、一世一代の勇気を出す。

 「あっあのう・・類さん、今度一緒に買い物行きませんか?俺プレヤーじゃないけど、バッシュ買いたいのでもしよかったら・・・」

 緊張で類の顔を見ることができない。戸惑っているのか、いやそうな顔をしているのか、表情を見たいけど怖くて見ることができない。

 「そやな、俺も見たいし行こか、期末テスト終ったら」

 心の中で盛大にガッツポーズを決めた。足が二センチは浮いた。よろしくお願いしますと大きな声で云った。

 道が二股に分かれているところで、類は右俺は左へと挨拶をして別れた。

 やったー大きな声で叫んでしまった。思わずまわりを見て誰もいなくてよかったと胸を撫でおろした。ウキウキで前をしっかり見ず田んぼに落ちかけた。

 恋する乙男ほんと単純な俺。

 家に着くなり部屋に駆け上がり、クローゼットを開けて服のチョイスをする。その前に自転車についているストラップを握りしめた。類に貰ってから必ずやっている儀式だ。

 鏡の前であれこれ数少ない服を合わせてみる。派手なのより落ち着いているほうがいいな、このピンクのトレーナーに暖パン履いていこうかな、アウターは黒のダウンジャンバーでいいか。テスト勉強をしないといけないのに全く勉強が手につかず浮かれた一日になった。


 今日も零の家でテスト勉強をする、何が何でも赤点は取れない。補習なんてかっこ悪いことはできない。何としても類さんとの初デートにケチが付かないように頑張らねば。

 階段を上がってくる足音がした。類の帰宅だ。部屋のドアが開き、俺も一緒に勉強するわと入ってきた。

 えー、類にくぎ付けになる。ノートを見ることができない。いやノートを見ているけど焦点が合わない文字はピンクのハートだ。ノートを見るふりをして、類の指先をひたすら見てしまう。目線が固まる。

 「綾瀬、なんかわからんのか?」

 「えーと、これどうしたらいいのかな?」

 とりあえず類に質問をしてみる。類がノートをのぞき込んできた。だめだ、近すぎる、心臓の爆音に気づかれてしまう。零は何も気づかずひたすら社会の年号をぶつくさと暗記している。サンフランシスコ条約ぶつぶつぶつ、日ソ共同宣言ぶつぶつぶつ。

 「これは、こことここを入れ替えて考えたらええんや」

 「なるほど、ありがとうございます」

 これを云うのが精いっぱいだった。類から何とも言えない甘い香りがする。類の匂いだろうか、柔軟剤の匂いだろうかそんなことを考えて集中できない。好きな人はいるのだろうか悶々としてきた。落ち着かない。

 類は勉強もできるし、バスケも上手だし優しい、モテるのは間違いない。惚れてしまうやろ、どこかで聞いたギャグを心の中で叫んでいた。

 絶対にデートで告白すると固く誓った一日だった。


 今日から期末テストだ。今までになく頑張ったと思う。絶対に赤点はないはずだ。

 ふらふらになった二日間の期末テストが終わった。

 とりあえず今までにない出来だったと思う。類さんが親切丁寧に教えてくれたのだから赤点だけは取れない、取ってはいけない。

 今日からまたクラブが始まる。いつも通り体育館に零と向かう。並んで歩くまた零は身長が伸びたようだ。たけのこかよと思うほどぐんぐん育つ。体育館に一礼をしてはいる。準備室からボールかごを出してセンターライン置く。二年生が一礼をしてコートに入ってくる。ノートと鉛筆を持って体育館の隅に立つ。一連の流れ。

 「集合―」

 類の大きな声で、入ってきたコーチのもとへと集まると新人戦が年明けに始まるので、それに向けての練習メニューに今日からシフトチェンジしていくから、スタメンは後日発表するとのことだった。いつものメニューに加え、実戦さながらの練習やフリースロー百本決めるまでなどのメニューが増えた。

 一日が終り自宅に帰ってお風呂に入り、夕飯を食べて部屋でバスケ関連のユーチューブを見ていると、ピコン♪ライン音が鳴った。手に取って画面を見ると類からだ。思わず俺は携帯を両手で高く上げ拝んでしまった。そっと今までで一番優しく画面をタッチする。

 ―こないだ云っていた買い物日曜日にどうかな?クラブも休みやしー

 よろしくお願いしますと文字を打つより早く声で答えた。慌ててラインに文字を打った。

 ―大丈夫です。お時間も類さんの都合で大丈夫ですー

 携帯を握りしめてじっと返事を待った。数分だけどすごく長く感じられる数分が経って返事が来た。

 ―姫路駅に十時でええかな?お昼もどこかで食べて帰らへんかー

 やったーデートやん、これデートやで。携帯を持つ手が震える。震える指をぐっぱをして何とか抑えて簡単な返事を打った。

 ―はいよろしくお願いしますー



 何だろう、俺は綾瀬が気になって仕方がない。今日、思い切って綾瀬にラインをした。こないだ付き合ってほしいと頼まれていたからだが、綾瀬と二人で買い物にその後ランチも誘ってしまった。女子相手でも自分から誘ったことはない。ドキドキとわくわくしている自分がいる。これが何なのか知りたい。見えない自分の気持ちをハッキリさせたかった。


 俺は今まで女子を好きになってきたけど、自分から好きになったことはない。今までとは全然違う心の葛藤に苛まれている。綾瀬は俺の事どう思っているのだろうか、あの体育祭で聞こえた「好き」は何だったんだろうか?心が迷宮入りしてしまった、難解な事件だと刑事ドラマでは短髪の強面の刑事が呟くだろう。

 

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