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気づく俺

 体育祭の日、朝から類の足首の様子はどうだろうかと気になって仕方なかった。昨晩類にラインをしたら、治った、大丈夫と返信が来ていたが類を見るまでは落ち着かない。朝ご飯もまともに喉を通らない、俺はいつもよりかなり早く家を出た。校門の近くで類を待つことにした。

二人三脚で肩と腰を組むだけなのだが、俺はこの上なく幸せで、なのに幸田のやろうふざけんな、足が痛くて選手交代になったら一生恨んでやる。末代まで祟ってやる。

 類が自転車に乗ってやってきた。類の前に立ったけど何を聞けばいいのか、素直に足の具合はと聞けばいいのか、俺を庇ったばっかりにごめんなさいと先に謝った方がいいのか、目線を合わすことが 言葉が出ない。簡単なひと言なのに簡単なひと言なのに、大丈夫ですか?の一言がうまく言えない。言葉が出ない。簡単なひと言なのに簡単なひと言なのに、大丈夫ですか?の一言がうまく言えない。

 「捻挫気にしとんか?大丈夫や」

俺の頭を大きな手で迷子の子をあやすようによしよしと撫でてくれた。類は後でなと踵を返し教室へと向かっていった。

 足を引きずったりはしていない。


 各クラス応援団の声が響き渡る。いろいろな衣装をまとい応援団が威勢よく手を広げ旗を振り応援している。うちの学校は応援団にも順位が付く為、気合が尋常ではない。いろいろな種目が繰り広げられる中、クラブ対抗二人三脚の順番になった。

入場門から体育部、文化部選手たちが入場する。俺はもちろん類の横に並んで心音が聞こえるのではないかと思うくらいドキドキしながら入場した。

 「足のこと気にせんでええからな、めいっぱい走るで」

 「ハイ」

 精一杯の返事をした。

 一組目がスタートラインに着いた。よーいの掛け声とともにバンとピストルの音がした。

 順番は次の次、類の脚と自分の脚をしっかりと類が結ぶ、鼓動が聞こえるほど大きくなる。順番が来たスタートラインに「いちにいちに」類が声をかけながら進んでいく。

 前者のたすきが類へと渡る。

 いちにいちにと掛け声とともに走った。

 あっという間の幸せな時間は間もなく終わる。

 次の走者にたすきを渡すと同時に足がもつれつまずきかけた俺を類が思わず抱える。力強い腕に俺の心は一瞬で天国へと駆け上った。類の顔を見ると目線があった。

思わず小さな声で思わず「好き」と云ってしまった。

 類には聞こえなかったのだろうか、目じりを下げ口角を上げにっこりと微笑まれる。

 「頑張ったな」

 「類さん足大丈夫ですか?」

 やっと云えた。ずっと心配していたのに類を目の前にすると言葉が出てこなかった。

 「平気やで」

 ホッとした。俺の中では順位なんてどうにでも良くて、「好き」って聞こえたか聞こえてないか確かめるのも怖くてありがとうございますと心の底から伝えた。

 

 二人三脚は見事バスケ部が優勝した。


 今日は曇り。

 いつもと同じ時間に起きる。

 昨日は色々考えてしまって三時間ぐらいしか寝ていない。昨日の体育祭で、綾瀬が「好き」と云った。何かが好きと云うシチュエーションでもなかった。

 ―まさか俺? ―

 俺は女子との恋愛はそこそこしてきた。それなりに告白もされて一通りの経験も済ませた。高二で経験済みは早いのかもしれない。初体験は高一の時に高三の女子バスケ部の先輩と、先輩に告られて、三か月ほど付き合った。先輩の卒業まじか勢いで先輩の家にお邪魔、家族の人は誰もいなくて、先輩の部屋でキス、流れから初体験。先輩が卒業し大学生になり自然消滅した。それからも数人の女子に告られてお付き合いをするが半年足らずでお別れになる。俺はどうも長続きしないようだ。告られるのに必ず振られる。なんで?と思うが振られる時の言葉は必ず、私の事好きじゃないでしょ。確かにそこまで好きではないけど、嫌いじゃないしどちらかと云えば好きだから付き合ったのに、必ず私の事すきじゃないでしょ云われて一方的にふられる。女子の気持ちが理解できない。      

そんなこんなで今はフリー。

  

 放課後、クラブ活動に参加すべく体育館に行く。綾瀬の姿を探すがまだ来ていない。少しほっとした。

体育館の隅に荷物を置いて、赤いバッシュをいつも通りに履いた。

 足首の痛みはテーピングで何とか収まる程度には回復した。無理はしないようにとコーチからは云われているので後三日は個人での基礎練習を中心にしたメニューをすることにした。

 「こんにちは」

 一年生が個々に挨拶しながら体育館に一礼をして入ってきた。綾瀬も入ってくる。思わず注視してしまったがいつも通りに皆にういっすと声をかける。綾瀬はいつも通りバスケットボールの入ったキャスター付きのかごをセンターラインに用意した。その後体育館の隅、定位置にノートとペンを持って立つ。三年生も順にやってきた。あと二か月で三年生は引退する。キャプテンの支持のもと、柔軟体操、ランニング、パス回し、レイアップシュートと順番にこなしていく。俺はここから別メニューをする。キャプテンに足の具合を聞かれて大丈夫ですとだけ答えた。今日、コーチは会議で来ない。キャプテンの号令で三対三、五対五と続きクールダウンをして終った。俺は体育館の隅でドリブルをしたり壁相手にパスの練習をしたりしながら過ごした。壁を相手に綾瀬の云った「好き」を繰り返し考えていた。あれはどういう好きだったんだろうか?



 俺はいつも類を目で追う。たまに目が合うとそれだけで心臓が爆音を告げて、思わず目線を逸らしてしまう。好きと云ってからもなにも状況は変わらない。きっと類には聞こえなかったのだろう。改まって想いを伝えるには勇気がない。ヘタレの俺がここにいる。


 今日は三年生との引退試合。

幸田は類の怪我以降大人しくしている。新しい彼女ができたようで幸せオーラをまき散らしている。単純なやつだ。俺はいつも幸田に戦闘態勢で殴る用意はしている。いつか絶対一発殴ってやる。

 三年生が今日で引退。

 うれしくてしかたがない。

 何かとぐちぐちと云ううるさ方が揃っているので解放感が半端ない。引退試合は三年生対二年一年の混合チームになる。もちろん俺は類のみ応援で、ほかの人は目に入らない。引退試合には多くの女子や男子生徒も見学に来ている。圧倒的な人気は、類と零の兄弟コンビ。零は不思議と男子に人気がある。たぶん誰に対しても態度を変えることなく優しいし見かけも悪くない。身長は成長期真っただ中、日々高くなっている気がする。類は男女共に人気がある。よく笑い回りへの配慮もすごい。顔面偏差値もかなり高いしスタイルも抜群だ。惚れ惚れしているのは俺だけではないようで、女子たちの黄色い声援もすごい。

 「るいー、頑張って」

 色を付けるならピンクの声援。黄色い歓声ではなくピンクだ。

 なぜか知らないが、得点つけをしている俺への声援も半端ない。

 「真皇く~んこっち見て!キャー!」

 なんじゃこれは、頭を抱える。今日ぐらいは三年生を応援してよと心の中でつぶやいた。俺は揉めたくないのよ。嘘でもいいから三年生の応援をしてくれ。

 試合はピン差で三年生の勝ちになった。キャプテンが最多得点王。試合が終わって、コーチを囲んで皆が整列する。コーチからの三年生へのねぎらいと、二年一年への鼓舞する話が終り、三年生が順次挨拶をする。ありきたりの言葉が並んでいく。最後にキャプテンが話しをして、次期キャプテンを決めた。二年生一年生がそれぞれが三年生にお礼や感謝を述べて、握手をしたりハグをして恙なく三年生を見送った。

 次期キャプテンは類に決まった。



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