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近づきたい一心で・・・

 「おはよー」

 零に声をかける。

 「おはよう」

 窓際に立っている零がだるそうに挨拶をしてきた。

 さっくんが零に、どうしたんやなんかしんどそうやなと声をかけていた。

 「バスケ部に入れと兄貴がうるさいんや、パワハラや、朝から喧嘩になった、くそ兄貴」

 零は眉根を寄せちょっと歯がゆそうにしゃべった。

 咄嗟にん~?これはチャンスかも、零が入部してくれたら公然と見に行ける。ここは零を焚きつけてクラブに入ってもらおう。なんとしても。

 「入るん嫌なん?」

 「兄貴おるし・・・入学して大分経つしな」

 「やったらええやん?」

 「じゃ真皇も一緒に入ってや」

 「な・・なんで?出来るわけないやん」

 何いきなり云い出すねん、やったこともないのに恥かくだけやん、類の前で恥かきたくないわ、云いたくても口には出せない。

 「真皇マネージャーしたらええんや、帰宅部やろ、真皇はいったら女子も見に来るし」

 「なんやそれ」

 チャイムが鳴った。考えといてやと云って零は自分の席に戻った。

 マネージャーは女子の仕事やろ、なんで俺がせなあかんのや、でもマネージャーになったら類のこと近くで見放題やん、見ているだけで満足できるやろか?類さんに触れたい、触れられたい。あわよくば・・・。

 セックスに一番過剰反応するお年頃の俺、妄想が激しく展開していく。創造と妄想の間を行ったり来たりしている。もっぱら今の餌は遠目に隠し撮りした類のぼやけた写メだ。夜な夜な布団にもぐって妄想に明け暮れて自家発電作業をしている。

 誰とも触れ合ったことがない、世間でいうところの童貞君だ。女の子を好きになれるかもしれないと頑張ってみたこともある、だけど一ミリもときめかない。俺のは全く反応しなかった。俺は皆とは違うのだと確信し出口のない迷路を未だ彷徨っている。


 零との帰り道、どうしても一緒には無理かと、マネージャーやから大丈夫やで、昼飯おごるからとずっと横でほざいている。そんなに入部したいなら一人でどうぞと云ったが途中入部やし一人は嫌ややねん、零は一見どっしり構えてええ男ぶっているが人見知りだ。

 一週間この話ばかりでついに俺も根負けしてしぶしぶOKをだした。だけど一つだけ条件を出した。マネージャーがいないと云うので、女子のマネージャーは入れないでくれとお兄さんに確約をとってほしいとお願いした。俺がするならとマネージャーになりたいと入部してくる女子がいるのは目に見えているし、そんなことで他の部員ともめたくない、それに類の良さに気づいて告白されたら人生の終わりだ。見事無残にひとめぼれはひらひらと散っていく。類さんが俺を好きなってくれる可能性はゼロに近いけど、もしかしたらほんの一ミリぐらいはあるかもしれない、できるだけ女子を類に近づけたくない。


 零は学校から帰ると冷蔵庫からアイスクリームをとり、ベージュ色の三人掛けソファーに寝転んで類の帰りを待った。

 「ただいま」

 リビングに類が入ってきた。

 「類、入部するわ」

 「ほんまか」

 「うん」

 類は嬉しそうに眼を細めて口角を上げてにやりとした。でも条件がある、真皇との話をした。類も真皇がマネージャーになるなら、女子のマネージャーは入れないことをキャプテンに明日云ってみると承諾してくれた。とりあえず週明けから部活に参加すると類に伝えた。

 翌日、類は弟の事と真皇のマネージャーの件をコーチとキャプテンに伝えオッケーをもらった。零は中学時代から、県選抜に選ばれる実力で、兄弟で二年と三年の時は代表に選ばれ一目置かれていた。専門雑誌に小さいが写真付きで兄弟揃ってインタビューされたのが掲載されたこともあるらしい。

 バスケットもかなり頑張ったし違うことやりたいしとのらりくらりと類には入部しないと云っていたが、毎日のように類に口説かれてしかたなく条件付きで引き受けた。


 週明けの月曜日、母が遅番の時しか朝練には参加できない理由を事前に伝えていたので、早番の母が出て行ったあと皇樹を見送りいつもの自転車にまたがり学校へと向かった。まだ体育館では朝練をしているので、類も見たいし少し覗いてみることにした。体育館に入り見ていたコーチのもとにまず挨拶をしに行く。

 「マネージャーになった綾瀬です」

 「おう、あとで説明するからマネージャーの仕事」

 「わかりました」

 コーチが皆に集合を促す。三年八名、二年十二名、一年十名、零もいた。お互い目で合図した。コーチがマネージャーの綾瀬君と紹介してくれ、一言と促されたので、一年の綾瀬真皇ですと真顔で挨拶をした。

 朝練が終り各々の教室へと向かう。俺は零と渡り廊下を通って教室へ向う。

 「ありがとう」

 零が少し照れ臭そうにボソッと呟いた。


 昼休み、さっくんは放送部に弁当を持って今日は当番やと、少しめんどくさそうに踵を返し教室から出て行った。案の定、女子たちが俺と零が昼を食べているところにやってきて、零にバスケ部のマネージャーやりたいと云い寄っている。

 「あっ無理、女子マネとらんから」

 零はあっさりと答えた。女子たちは口々になんでーとぼやいてる。この頃には、ほかのクラスからもよく口実を付けて真皇を見に女子たちが教室を覗いていた。中学でも毎年最初の二か月ぐらいはこんなことがあったので真皇は別段気にしていない。三か月もたてば見に来なくなる。

 「真皇ほんま顔可愛いし、背もそこそこ高いし、愛想ええしモテるよな。彼女作らんの?」

 「めんどくさいし、べたべたされるの好きいじゃない、零は?」

 「彼女ほしいわ、真皇といたら全部もってかれるわ」

 そういう零もそこそこモテる。先月も隣の組の女子に告られていた。

 「先月告られてたやん。どしたん?」

 「断った。タイプちゃう」

  

 俺は類と付き合いたい、類の彼氏になりたいんやほかの誰かでは嫌や心の中で呟いた。

授業が終わったら初のマネージャー仕事だ、ちょっと緊張する。だけど類と会えることの方が俺には重要で心が昂揚した。


 一年は上級生より早く体育館にいきモップを掛ける。マネージャーも同じようにモップを掛けボールを準備室より出す。そこに上級生がぞろぞろと麒麟の群のようにやってくる。身長もありガタイのいい人が多いので真皇には麒麟の群れのように見えた。

 「こんちは」

 「コンチハ」

 一年生たちが挨拶をする。上級生はそれぞれ「ういっす」と云いながら、荷物を体育館の壁際にある椅子に置き準備を始める。一年生の荷物は床に直置きだ。

 類がこちらを見て近寄ってきた。心臓が無駄にバクバクと動き出す、眼が泳ぐ、直立不動。

固まる、固まる、固まる。


 「マネージャーありがとうな、なんか困ったことあったら云うてな」

 「あ・・っりがとうございます」

声が上ずってしまった。顔が見る見るうちに赤く染まっていく、思わず静止できずうつむき目を逸らしてしまった。類は踵を返して三年生のほうに挨拶に行った。類を眼が追いかけていた。

 初めてのマネージャー業は疲れた。ボール拾いやコーチとのやり取り、スコアー付け、片付けは一年生も一緒にしたが、思ったよりも数倍いや数十倍忙しかった。

類と仲良くなりたい一心で引き受けたのは間違いだったかもしれない、全くといっていいほど類に関われるチャンスはなかった。ふらふらになりながら自転車にまたがり、零と話すこともなくじゃまたと声をかけ家路を急いだ。帰宅してすぐにお風呂に入りご飯を食べ疲れてその日は夢を見ないほど爆睡した。

 

 朝から皇樹が母親にバッシュが欲しいと嘆願している。

 「まだ履けるやろ、贅沢言うな」

 母はくそ忙しい朝にと怪訝そうな顔をして皇樹を見る。

 「足痛いねん、サイズが合わん」

 このところ急激に身長が伸びだし、成長痛に悩まされている皇樹はきっと足のサイズも大きくなっているに違いない。ついこないだまで一六十センチぐらいしかなかった弟が今俺の目線に近づいてきた。

 「おかん、そら成長期やし無理あるで」

 皇樹が大きくなっているのを上から下まで目で確かめて、

 「もーしゃないな、バッシュ買いに一緒に行ったりええな」

 なんでや、なんで俺が付いていかなあかんのと思いながらも弟を溺愛している俺はしぶしぶ頷いた。

皇樹を見ると先ほどまでとはまるで違うテンションの上がり方で、反抗期はどこやら、いつ買いに行くのと目をキラキラさせ俺の周りにまとわりついている。キラキラビームが鬱陶しいので早々に今週末ショッピングセンターに買いに行くことになった。

  

 学校に着いて朝練に少し顔を出す。零がおはようと声をかけてきた、朝から元気がいい。諸先輩方に挨拶をし、それぞれにシュートやパスなどをしているのを壁際に立って見ているとボールが足元に転がってきた。思わず拾ってパスしようかと思ったとき類がこちらに向かってきた、朝から眩しい。夏の太陽を直視したときぐらい眩しい。眩暈を覚えるほどキラキラしている。

 「昨日しんどかったやろ」

 類を前に緊張しすぎて、愛想笑い百点の俺なのに、ひきつった笑顔で不審者丸出しの俺、ヤバイやん。

 「ちょっと、でも大丈夫です。」

 「なんかあったら云いや」

 「あっあの~、」

 ここぞと思い話を何か、一瞬で頭の中は高速回転を始めた。朝の弟の件を話そう。ショッピングモールに買いに行くことは決まっていたが、聞くのはこれしかない。

 「バッシュを買いに行くんですが、弟が中一でバスケ部で、どこのブランドがお勧めですか?」

変な文章になっているかなり纏まりがない、顔が見る見るうちに茹でタコになってしまった。色白の俺はかなり目立つ。やばいと思わず右腕を肘から折り口元を隠した。

 「体育館暑いな」

 俺の顔が赤くなっているからフォローしてくれたんだろう。顔が赤いのを変に思われたんじゃないかな。いや今日は暑い、きっと暑い。そう思うことにした。

 「類さんって呼んでいいですか?えっとえーと、零と苗字一緒だから」

 おかしなこと云っているかな俺。

 「ええよ、なんやったら類でもええし。零も類って呼ぶし」

 びっくりした俺は声が出ず大きくかぶりを左右に振った。そんな呼び捨てなんて罰当たりや。もう絶対に呼び捨ては無理、無理無理無理。

 「類さんって呼ばしてもらいます」

 類は軽くうなずき、バッシュの話やったなと答えてくれた。

 「バッシュはどこのがええとかは人それぞれやけど、俺はナイキが好きかな」

ありがとうございます。弟に伝えますと軽く会釈をした。類はうなずいてシュート練習に入っていった。

後ろ姿もかっこいい。見とれていると綾瀬ボール拾いと声がかかった。慌ててボール拾いに参加した。


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