エピローグ ヤンデレ王妃と長身貧乳女性騎士(5.5k)
魔王歴64年5月10日。
【英雄】と呼ばれた初代国王が亡くなられて25年。
3代目国王となる、ワフリート・ソド・ユグドラシル王が即位して3年。
ヴァルハラ川沿いに出来た大都市【リバーサイドシティ】が、日常的に【魔物】達と小競り合いをしているのが気がかりだけど、だいたい平和なユグドラシル王国。
御者のゴダードと共に王妃のナスターシャ様に連れ出されて、【魔王城】の裏側で途方に暮れる私は、王宮女性騎士団所属の騎士メアリ。
別に騎士団団長とかそういう要職ではないけど、王妃様が外出する時に指名で必ず連れ出されるようになったのは深い理由がある。
私は身長が高いけど貧乳。
騎士の制服だと普通に男と間違われる。
【長身はモテ要素では無い】と言ったのは誰だろうか。
身長の高い私はとにかく男にモテない。
いや、身長だけが原因でないとは分かっている。
王妃のナスターシャ様は、身長は私とそんなに変わらないけど、グラマラスでナイスバディ。
つまり、私がモテない原因は身長以外にもあるのだ。
嗚呼忌々しいこの格差よ。
日頃からそんなことを考えていたからか。
お見合い破談後のやけ酒中に、王妃様が【長身でも結婚できる】と慰めてくれた時。
宿敵であるグラマラスナイスバディに心無い一言を言われたことでついカッとなり、【だったらソド王くださいよ】と言ってしまった。
しまった。不敬だな。と思ったけど、王妃様はその時は笑顔でスルー。
でも、翌日の訓練で【真剣】を出されて、全治10日。
騎士団の中でも最強の王妃様。
華麗な剣さばきで、私を生きたまま【ひらき】にしてくれた。
丸見えの【心臓】を剣先で撫でながら【不倫はダメですよ】と笑顔で懇々と諭され、私は【刻の涙】を見た。
内蔵まで丸裸の姿でドクターストップかかるまでしっかり反省させられた後、8人がかりの【回復魔法】で全治10日。
そしてそれ以来、王妃様が外出する時は必ず一緒に連れ出される。
実は、ソド王に普段から無茶苦茶する王妃様の監視役を頼まれていたりするのだけど、あの件以来、報告は書面で行うことを徹底している。
長身イケメンなソド王との会話。
以前は心がときめいたけど、今では生きた心地がしない。
マジで。
そして今回の外出。
いつものように王妃様が気まぐれで旅行したいと言い出して、いつも通り御者兼医者のゴダードが操縦する馬車に乗り監視役として同行。
今回は何処へ行きたいのかと思いつつ、ヴァルハラ川上流の山のふもとに馬車を停めて、言われるがままに山歩きをしていたら【魔王城】のすぐ裏まで来てしまった。
当然、周囲には【魔物】がうろうろしている。
ここまで【魔王城】に近づいているのだから、侵入者の排除ぐらいしてもよさそうなものだけど、襲ってくる気配はない。
まぁ、そもそも【魔物】は向こうから襲って来ることは滅多に無い。
戦うとなるとかなり手強い相手ではあるが、ゴミをポイ捨てしたり国境線を越えようとしない限りは無害なものだ。
でも、それを知っていたとしても、平気で接近できるような人間は多くない。
騎士団で戦闘訓練を受けた者か、恐怖よりも好奇心が勝るような頭のネジが外れた人間ぐらいだ。
そう。目の前に居る二人のような、頭のネジが外れた人間ぐらいなのだ。
「ねぇゴダード。コレ何かしら!」
「ナスターシャ様。それ何かに似てますよ! 何だったかなぁ なんかこう、ちょっと前に似たような形のもの見た気がするんですよ!」
【魔物】が居る林を抜けて【魔王城】の裏側から近づいたら、井戸のようなものがあった。
頭のネジが外れた二人。
王妃様とドクターゴダードがその井戸を覗きこんだら、井戸の中から突風が吹いて、大きな肉塊のようなものが飛び出してきた。
王妃様が器用にキャッチして、それをお腹に抱えている。
「あー、でも、この重量感なんか懐かしいわぁ」
「あっ! ナスターシャ様! 分かりました! それ人間の子宮ですよ」
「えぇっ!? でも言われてみれば確かに、臨月近くの子宮の重量感だわ。コレ暖かいけど、中で生きているとか!?」
確かにそう言われると、そう見えなくもない。
でも、だとしたら何でそんなものが井戸から出てくるのか、そして、何故その状態で生きている可能性があるのかさっぱり分からない。
正直、帰りたい。
「メアリ。コレ開けるからナイフ貸して」
「汚れそうだからイヤです」
「帰ったらオリハルコンの剣を買ってあげましょう」
「どうぞ」 スチャッ
ずっと欲しかったオリハルコンの剣。
私の給料じゃ高くて手が出なかったけど、それを買ってもらえるならこの意味不明な仕事を頑張ろうと思う。
「あ、一応私医者なので、私が執刀してもいいですか」
「じゃ、ゴダードお願い。中身切らないようにね」
地面にシートを敷いて、ドクターゴダードが肉塊の表面をナイフで切る。
サクサク ブシュー
お湯のようなものが噴き出して、さらに切り開くと、人間の胎児らしきものが入っていた。
私はちょっと直視できない。離れた場所で見守る。
「おー。胎盤付き胎児。初めて見た」
「ナスターシャ様、二人も産んでるのに初ですか?」
「いや、胎盤付いてるところは自分じゃ見えないでしょ」
「それもそうですね。じゃ生きていそうなので、へその緒切りますよー」
サクッ
ゴプッ ギニャァァー ギニャァァァー
「わー。産声出たー。やっぱり生きてたのね」
「じゃ、今の時間を出生時刻として、【出生届】作っておきましょう」
羊水らしきものを吐き出して産声を上げる、黒髪の赤子。
それを聞いて、とっさに浮かんだ言葉。
「産声が、変だ」
「産声が」
「変!?」
王妃様とドクターゴダードが、ぎょっとした表情で私を見る。
ギニャァァー ギニャァァァー
「いや、なんか変でしょう。良く知らないけど、普通はオギャーとか、そんな感じでは?」
「メアリ、貴女頭のネジが外れているのではなくて?」
「可哀そうに、疲れてるんでしょうか」
王妃様にだけは言われたくない。
疲れているのは確かだけど、誰のせいだと思っているのか。
ギニャァァァァー ギニャァァァァー
「な、何がおかしいんでしょうか……」
「メアリ。よく聞いて。赤子はね、井戸から生まれたりはしないのよ」
「独身で出産経験無いからって、女性としてそこまで無知なのは問題ですよ」
しまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「井戸から出てきた肉袋から赤子が産まれたのに、それ見て最初に気にするのが産声なんて、ちょっと上司として心身の健康状態が心配よ」
ギニャァァァー ギニャァァー ギニャァァー
「い、いや、王妃様。その子が冷えてしまいますよ。赤子は冷やしてはいけません。何かでくるんであげないと」
「じゃメアリ。下着貸して」
サラシでいいか。貧乳だからあっても無くてもいいし。
シュルシュルシュルシュル
「どうぞ」
「メアリ大胆ねぇ」
ギニャァァー ギニャァァー
やらせておいてそれを言うのか。
それはそれとして、王妃様は手際よく赤子を包んでいく。
さすが二人も産んでいるだけあって、お世話スキル高い。
「ナスターシャ様。名前どうします?」
「女の子だけど、メアリ考えて」
「無理です」
王妃様の無茶ぶりは毎度の事。
それを華麗にスルーするのも毎度の事。
これが王妃様と私の日常。
「この子宮の外側に名前書いてないかしら」
「そんな無茶な」
「……あった。なんか文字が刺繍された布の切れ端が張り付いてる」
「うわぁ。何て書いてあります?」
「えーと、朽ちていて読みづらいけど、【ヨライセン】、【エヴァ】って書いてあるわ」
「両親の名前でしょうか」
布を見ると、かなり古い。何十年も経過していそうだ。
この井戸の中一体どうなってるんだろう。
いや、そもそもこの娘一体なんなんだろう。
「【エヴァ】は【イブ】とも読めるから、頭文字取って【イヨ】でいいや」
「じゃぁ、出生届の名前は【イヨ】にしておきますよ」
【イヨ】と名付けられた黒髪の女の子は、王妃様の腕の中で寝ている。
近くで見たくなったので、王妃様の傍まで行く。
「ねぇゴダード。なんとなくだけど、この子は魔法適性がありそうな気がするわ。王宮に連れ帰って魔導士団に預けようかしら」
「いや、王妃様が拾い子を堂々と城に連れ帰るのは問題があるでしょう。下手したら不倫を疑われません」
妻が突然赤子を連れ帰ったら不倫を疑われるとか、それどんな理論だ。
でも確かに王宮に直接連れ帰ったら、それ見たソド王が【残念なオーラ】を出して【環境化学研究所】に逃避しそうではある。
「うーん。ソド王なら許してくれそうな気もするけど、確かに苦労を増やすのも悪いわね。だったら、辺境の孤児院に一旦預けましょうか」
「それがいいですね。私の地元のヨセフタウンにいい施設があります」
「成人した時に王宮に来て欲しいから、手紙付けておこう。魔力アリで器量ヨシに育ったなら、将来うちの子に妾として囲わせてもいいし」
「名案ですね。ユーリ第一王子はモテない男になりそうな気がしますし、イェーガ第二王子は女性で苦労しそうな気がします」
「やめてゴダード! 私もそう思うけど、言葉にすると本当になりそうで怖いわ!」
口には出さないけど、私も同感。
6歳になるユーリ第一王子は母親似なところがある。
だからこそ切実に思う。
この母親がたまに出す【闇入り愛情表現】だけは絶対に受け継がないで欲しい。
伴侶の【心臓】を丸見えにして愛を感じるような【神級変態屑王子】に育ったりしたら、国家存亡の危機だ。
マジで。
「手紙書きたいから、メアリ、ちょっとこの子持ってて」
「はい」
赤子を抱いたのは初めてだ。
ちょっと目が開いた。黒目だ。黒目黒髪。南方出身かな。
私は未婚で出産経験は無いけど、育児本は読んだことがあるから、普通の赤子の大きさや重さは知ってる。
その知識と比べて、気になったことがつい口に出る。
「この娘、顔は可愛いけど【でかい】のが残念ですね」
抱いているイヨちゃんが、ぎょっとした表情で私を見てきた。
「メアリ。赤子でも耳は聞こえてるのよ。もうちょっと優しくて役に立つような言葉をかけてあげて頂戴」
優しい言葉。役に立つ言葉。私の経験からイヨちゃんに言えること。
「女の子は私みたいにあんまり【でかく】なるとモテないよ。【イイ女は小柄に限る】とか言われるから、あんまり【でかく】ならないようにね」
「やめてあげてメアリ! 本当に聞こえてるのよ。将来【大惨事】になったらどうするの」
「いや、私はイヨちゃんのためを思って……」
「前も言ったけど、貴女がモテない原因は長身貧乳筋肉質のせいじゃないの。そのたまに出る極めて不適切な言動のせいよ。自分のコンプレックスをイヨちゃんに植え付けないで頂戴」
イヨちゃんが泣きそうな顔で私を見ている。
なんかこう、申し訳ない気分になってきた。
「あー、大丈夫よ。もし【でかい】女になっちゃっても、両脚を斬れば」
ゴチーン
王妃様に剣の鞘で頭を殴られた。
「メアリ。いい加減にしなさい」
「はい。ごめんなさい」
王妃様は手紙を書いた。
その封筒には、その子の名前と、開封するタイミングの指定。
【イヨ 成人し門出の時に渡すように】
中身は、王宮への招待状。
孤児院育ちの女の子が、成人の時に王宮への招待状を手に入れる。
ちょっとしたシンデレラストーリーだ。
出自がちょっと意味不明だけど、イヨちゃんの将来には無限の可能性がある。そんな小さな命を抱えて、思ったことがつい口から出る。
「この手紙が開封される時、私は何をしてるかなぁ……」
「メアリは……。男装して宿屋の主人とかどうかしら」
王妃様は無体なことを言いだす。
長身貧乳筋肉質故に、女性にしかモテない私。
開き直って引退後は男装で生きるのもいいかもしれない。
だったら、王宮魔導士団のスミスを誘ってみよう。小柄で童顔で女声な彼は女装が似合うはずだ。
性別と名前を交換して、辺境の宿屋でひっそりとした余生。
悪くない。
何年後になるか分からないけど、その時は成長したイヨちゃんを孤児院から引き取ってウェイトレスにしてみようか。
成人して門出の時、この手紙を見てどんな反応をするか楽しみだ。
「まぁ、イヨちゃんを拾ったから【魔王】に会いに行くのはまた今度にしましょう」
「そうですね。じゃぁ、最寄りの町の病院で授乳した後、ヨセフタウンに行きましょうか」
ナスターシャ様は【魔王】に会いに行こうとしていたのか。
だったら先に言って欲しかった。
いや、でも言われたら止めたかな……。
「ちなみに王妃様。【魔王】に会って何をするつもりだったんですか?」
「リバーサイドシティを襲うのやめて欲しいってお願いしようと思って。あの街【魔物】のせいでやたら軍備増強に走っちゃって、このままだと【魔物】より厄介な集団になりそうなのよ」
●オマケ解説●
この【メアリ】は身長175cmの女性騎士。
彼女はこの数年後、男装して【スミス】を名乗りサロンフランクフルトの管理人になる。
つまり、サロンフランクフルトで大活躍したあの【メアリ】とは別人。
特異な出自を持つイヨちゃん。
かつて【坊】と呼ばれていたあの子は実は女児だった。
大きくて強い子と願われた彼女の出生時体重は、およそ5,200g。
お腹の中で母の願いを聞いて大きく育ったけれど、産まれた直後に【残念】扱い。
このトラウマがあの【呪い】に繋がり【金色の滅殺破壊魔神】誕生の遠因となる。
そういう意味では、このメアリの罪は重い。
実際【でかく】育ってしまったイヨちゃんの逆襲はこちらの話。
↓↓↓
「退役聖女は脚なんて飾りと思っている(転生技術者の葛藤/退役聖女の逆襲)」
https://ncode.syosetu.com/n9274ib/
※あの手紙、開封されなかったね……。
そして、今回最終話です。シリーズ完結です。
長い物語、ご愛読ありがとうございました。




