5月20日 王子と絶叫の事情(8.5k)
「お腹大きくなってきたな。予定日まであと2カ月ぐらいか」
「そうね。早く出たいのか、最近中でよく動くわ」
「男の子かな。女の子かな。どちらにしろ、この国で強く生きて欲しいな」
「きっと強い子よ。【魔法】が使えるかもしれないわ」
「……そうか。それは楽しみだな。大きくなって適性を発揮したら、近所の混血者の集会所に連れて行こう。私達では【魔法】は教えられないからな」
「適性、強いといいわね。【魔法】が得意な子はどこ行っても重宝されるから」
………………
…………
……
木箱の中での居眠りで亡き妻との在りし日の会話を思い出していた私は、ロイ総統率いる【第三帝国】所属のカミヤリィ外交官。
【首都】に常駐して、2週間に1回ぐらいの頻度で【魔車】で【魔王城】に戻り、情報交換の仕事をしている。
最近仕事が少なくて、ちょっとヒマな外交官だ。
【終戦】から約9カ月。
私の仕事が減るぐらいに国の復興は順調だ。
川沿いの工業地帯の消滅と技術立国だったエスタンシア帝国との断交により、電信網も鉄道網も自動車も失った。
そのため、物流や情報伝達網の復旧は見通しが立たないが、それら無しで事足りるように国全体の制度設計をしている。
限られた地域内で生活必需品の自給自足を成立させる【コンパクトシティ】構想だ。
そして、【新時代事業】による情報操作も順調だ。
【獣人】【鬼人】【エルフ】【外洋人】は禁止用語とされ、公の場で言ってはいけないことにした。
【魔法】適性の発現条件は未解明で、使える魔法の属性は生まれつきでランダムに決まるということにした。
国土荒廃の原因は【魔王】率いる【第三帝国】で、【魔物】が暴れたことで世界が滅茶苦茶になったということにした。
とんでもない御都合主義だが、上手くいっている。
民衆は1年前の歴史すら見事に【無かったこと】にしてくれた。
当初、行政メンバーの中には、【新時代事業】の成功を疑問視する声もあったが、私は成功すると確信していた。
元議員の私が言うのも何だけど、【民意】なんて御都合主義だと散々学んできたからだ。
ガコン
私の入っている木箱が地面に降ろされた感触。
【魔王城】から【首都】に向かっていたはずだけど、到着にはちょっと早い。
「…………」
地面に降ろされたけど、木箱の蓋が開かない。
到着時は外側から開けてもらう手筈なんだけど、どうしたんだ?
「……坊ちゃん?」
呼びかけてみるけど、返事は無い。
いや、【魔物】は喋れないから、返事が無いのは当然だけど、箱の外に気配が無い。
ギィィィィィィ
内側から箱を開けようとすると、ロックが外れていたのか普通に開いた。
この箱は外観が【棺桶】に似ているから、箱から出る様子を誰かに見られたくない。
そう思って、周囲を確認するが、誰も居ない。
時間は日没前。場所は草むらの中だ。ちょっと離れた場所に街が見える。
街のシルエットより、おそらくラグーンシティ。
【魔王城】最寄りの街だ。
「坊ちゃん?」
箱から出て呼びかけてみるが、【魔車】係の坊ちゃんも居ない。
置いて行かれたのか?
私が入っていた木箱の近くに、大きいリュックサックがあった。
それに何か紙が貼ってある。
【カミヤリィ外交官 任期満了に伴う クビのお知らせ】
…………
日没後。仕事を終えた労働者達でにぎわうラグーンシティ市街地の酒場にて、カウンター席で1人しんみりと呑む。
「私も、クビですか……」
リュックの中には【退職金】の金貨がどっさり。
随分前から【魔王城】は人員整理をしていたので、いつかこんな日が来るんじゃないかと思っていた。
「まぁ、確かに最近ヒマだったし、役割を果たしたと思えば、悪くないかな……」
「あらまぁ、カミヤリィさんじゃないですか。奇遇ですわー」
カウンター席の隣に、かつて首都で一緒に仕事をしていたグラマラスな【エルフ】が来た。
「やぁ、【タヌキ】さんですか。お久しぶりです」
『ニャギャァァァァァァァァ!』
名前を読んだらいきなり絶叫。
叫び声の中に脳内に響く何かの波動も混じっている気がする。
酒場の中の視線が集中するので、気にするなのジェスチャーでフォロー。
「どいつもこいつも! なんで私が【タヌキ】なんですか!」
勝手に激高する彼女。
首都で【都知事代理】をしていた頃も彼女は【緑のタヌキ】と呼ばれていた。そして、そう呼ばれる度に職員に文句を言っていた。
誰もがツッコミを我慢していたところだけど、いちいち叫ばれたらうるさいので、ここはきちんと言っておこう。
「だったら、どう呼べばいいんですか? 種族名は禁止用語ですよ」
「えっ、それは、その……」
彼女が【エルフ】であることは皆知っている。だけど、【新時代事業】で【エルフ】という呼称は禁止用語になったから、外でそれを口に出すことはできない。
「名前も名乗らないし、他に呼び方が無いから【タヌキ】って呼んでたんですよ」
『ニャギャァァァァァァァァァァ!』
また絶叫。
酒場の視線が集中するから、またフォロー。
本当に、賑やかな嬢ちゃんだ。
「そもそも、種族名で呼ばれてたのがおかしいでしょう。名前は無いんですか?」
「同族は私一人だからそれで不便はなかったのです。でも、その呼び名が禁止されちゃったから、【タヌキ】にされていたのですね」
もしかしてそうじゃないかと思っていたけど、【エルフ】は彼女一人しかいなかったのか。どういうことなんだろう。せっかくだから聞いてみよう。
「同族が一人しかいないって、どういうことですか?」
「元はたくさん居たのですが、皆さんの祖先がここに来た時に彼等の一部と空に帰りまして」
「空? 海じゃないんですか?」
「皆さんの祖先は【星の海】から来たんですよ。まぁ、突拍子もないから【海】ってことにしましたが」
言葉に気を付けながら【エルフ】から昔話を聞いた。
我々【外洋人】の祖先は別の星から来たとのこと。
故郷の星を戦争で汚染した彼等は【箱舟】の船団で【星の海】に旅立った。そして、この星に漂着して【獣人】達の支援を受けて開拓と定住を始めた。
定住の見通しが立ち始めた頃、彼等の一部が故郷の星に残る生存者の救援を発案。
高い技術力と【魔法】の力を持っている【エルフ】達がそれに同調し、【箱舟】を修理改造して【救援部隊】として彼等の故郷の星へ旅立ったと。
「修理に成功した【箱舟】は2隻で、即席で作った【環境浄化装置】を搭載して旅立ちました。今はもう残っていませんが、カランリア近くの丘にある斜面に発射用の【質量加速器】があったのですよ」
「そこに、同族の皆さんは全員乗ってしまったんですね」
「そうですの。皆この地で生きるのにも飽きていましたし、なんせ新しい物好きだったので、彼等が持ち込んだ技術に夢中になりまして。まぁ、私だけは留守番として残されましたけど」
「あー、つまり【乗船拒否】されたと」
『ニャギャァァァァァァァァァァァァ!』
再び絶叫。
でも酒場は誰も気にしていない。
「ナゼ! 100年も生きてないような若造の癖に! まるで見てきたかのように真相を把握しているのです!」
「いや、わかりますよ。一緒に船旅なんて絶対したくないですから」
『ニャギャァァァァァァァァァァァァァァ!』
性懲りもなくまた絶叫。
酒場全体から注目を集めるけど、皆さんもう慣れたようだ。
なんか哀しさを感じるけど、私は間違ったことは何一つ言ってない。
この【タヌキエルフ】の突発暴挙癖は【仮設都庁】で働く皆の悩みの種だった。
皆で作った予算の計算書を紙飛行機にして堀に飛ばしたり、庁舎の屋根に上って水を撒いて雨漏りで事務所を水浸しにしたり、それを止めようとした職員を【風魔法】で吹っ飛ばしてケガさせたり。
もういいや。聞きたいことを聞いておこう。
「えーと、過去の件はもういいので、名前と年齢を教えてください」
「パラワルクと申します。年齢は今年で1024歳になりますわ」
小柄でグラマラスなとんがり耳のパラワルク嬢。風貌は24歳ぐらいに見えるけど、1000年が足されてるのは【エルフ】だからか。
何処から突っ込めばいいかわからないので、スルースキル使ってもう普通に話そう。
「パラワルクさんですか。最初からそう名乗ればよかったように思いますが、あと、年齢はどんなサバ読みですか? もしかしていつぞやの【紙の砲弾】に書いてあった【千年喪女】と関係ありますか?」
「【千年喪女】は私ともう一人居たのですが、新月の雪山で獣を待っていたのは私の方ですの。寒かったですわ」
【千年喪女】は本当に居たんだ。そして、二人も居たんだ。
「ちなみに、もう一人の【千年喪女】は何処に居るんです?」
「先に喪女を卒業して、子供を残して逝きましたの。今の王妃様ですわ」
「いや、王妃様生きてますが」
「あの娘は頼まれて私が用意した【替え玉】です。2月頃から私はずっとこっちに居たので現場見てませんが、出産成功の知らせは届いたので本物は逝ったはずですの」
ヨー王から聞いた【極秘情報】。純血の原住民は出産時に死亡する。
でも、先週首都で行われた【出産祝い】パレードでは、赤子を抱いた王妃様がパレードフロート上に居た。
遠目でしか見てないから分からなかったけど、あれは【替え玉】だったか。
「また先を越されましたの。また【行き遅れ】ましたの。寂しいですの」 グビグビ
パラワルク嬢がヤバイ飲み方を始めた。
この御方は酒癖も悪いので、キープディスタンスしないと危ない。
ガシッ
「カミヤリィさん。独身ですよね」 ギラッ
「今は独身ですが、亡き妻との思い出を胸に天寿を全うする所存であります」 キリッ
捕まった。ヤバイ。
「【魔法】が使える子供に興味はありませんか?」 ニヤリ
「…………」
実はちょっと興味ある。強い子供が欲しいと思うのは親の願い。
亡き妻は魔法適性のある子供を産む予定だった。
自分の血を引いてない子供を意図して作るというのは、男として釈然としない思いはあったけど、これも子供の人生のためと思って耐えるつもりだった。
「私の種族の持つ【魔法】は、他の【魔法】とは異質のものですよ」
「……異質の【魔法】? どういうことですか?」
「一般的に【魔法】と呼ばれている物は、魔法の力の源から物質や熱を生み出す物。だけど、私達はそれに加えて【動かす力】を作り出せます。今この魔法が使えるのは私だけですの」
「もしかして、【仮設都庁】で職員を吹っ飛ばしてたアレですか」
「そうですわ。上手く使えば空を飛ぶこともできますし、過去にはそれを使って【箱舟】を空に打ち上げました。見た目は【風魔法】に似ていますが別物ですの。この力を受け継ぐ持つ子供。欲しくないですか?」
私の血を引く、強力で稀な能力を持つ子供達。
確かに、惹かれるものがある。しかし私は……。
「もうすぐ私は40代ですよ。若いのを探したらどうです?」
「ドゥフフフフゥ……。今の純血の若い男は大半が種ナシですの。だから、カミヤリィさんぐらいの男が丁度いいのですわ」
「なんだって! どういうことですか!」
「【豊作1号】のもう一つの副作用ですわ。魔法適性を持たない男性の生殖機能の成長を阻害する作用がありまして、成長期に長期服用すると種なしの成人男性になってしまいますの」
【豊作1号】の連用は9年前からだ。割高な【国産無農薬小麦】にこだわっていた層も少数居たけど、安価な輸入小麦は庶民の間で広く普及していた。
ということは、今の結婚適齢期の純血の【外洋人】の多くが、成長期に【豊作1号】が残留した小麦を主食として食べている。
純血の外洋人の夫婦が魔法適性の子供を授かる例は古くから一定数あったが、近年それが急増していたのはそういうことか。
種なしの夫の体面を守るため、妻がやむなく【混血者】の男に協力を求めた結果だったのか。
「パラワルク嬢。何故それを知っているのです? もしかして【豊作1号】の開発に関与していたのですか?」
「あの薬剤は私が提供した技術を基にしていますの。分解生成物の植物毒性の件はちゃんと伝えて、連用するなと念押ししてはいましたが、生殖機能への毒性を話したのは今が最初ですわ」
なんてこった。
【豊作1号】に起因する悲劇は全部パラワルク嬢が発端だったのか。
「ひどいことをしたと思うでしょうね。でも、これも【艦長】に頼まれていたことでして」
「【艦長】というと、パラワルク嬢を【箱舟】に乗せなかった【艦長】でしょうか」
『ニャギャァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
何度目か忘れたけど、また絶叫。
後ろを見たら、いつの間にか酒場に人が集まってて満員になってる。
もしかしてこの叫び声、町中に聞こえているのか?
「心の古傷を抉らないでくださいまし。1番艦のネモ艦長は本当にステキな方でした。ここに定住する皆さんの未来を心配していました」
「はぁ…………」
200年以上前の古傷ですか。千年以上生きるってどんな感覚なんだろう。
「2番艦のジム艦長は、まぁ、多才で優秀な方でしたね。なんかたまにダメなことするのが困ったところでしたが」
それ、パラワルク嬢にだけは言われたくないと思う。
「まぁ、そのネモ艦長から子供を預かった時に、【過ちを繰り返さないように導いてくれ】と頼まれまして。それで、今まで陰でいろいろ頑張っていたわけですわ」
「そうだったんですか」
「【不道徳が限度を超えた時は滅ぼしてくれてもかまわない】とも言われていたので、【根絶作戦】とかやり出した時はどうしてくれようかとも思いましたが、いつか分かってくれるだろうと信じて我慢したのですよ」 グビグビ
王子から聞いた【原住民】の【根絶作戦】。
気付いて怒っている【原住民】も居たんじゃないかと思っていたけど、本当に居たんだ。危なかったんだ。
「それでまぁ、【道徳心】の大切さを身をもって知ってもらうために、【豊作1号】の基になる技術を提供したのですが、もう、不道徳に不道徳を重ねて皆して【破滅】に転がり出して、本当にもう……」 グビグビ
あー、殺虫剤の【豊作1号】を利権化して、農地をダメにして飢饉を創り出して。
薬剤の性質にも問題あったと思うけど、大概あれはひどい人災だったなぁ。
「なんかもう本当に【戦争】スレスレの所まで来ちゃったから、ユグドラシル王国の政治中枢に内密に協力者を作って、被害を最小限に収めつつ、多数の利害関係者が納得できる落としどころに持っていこうと頑張ったのですよ」
民衆の怒りの矛先がエスタンシア帝国に向かないように【薬害】の事実を執拗に隠蔽したり、代替食料として【昆虫食】を推進したり、【豊作1号】を止めても【利権組織】が暴走しないように【魔力発電】による利益を広く配分しようとしたり。
一連の動きはパラワルク嬢の差し金だったのか。
「【戦争】だけは回避しようと頑張っていたのに。カミヤリィさんが余計なことしてくれたおかげで全部台無し。結局世界は滅茶苦茶に……」 シクシク
グサッ
「【薬害】の真相を暴露すれば相手が素直に謝るとでも思ってましたか? 【政治】と【外交】は子供の喧嘩ではありませんの。イイ大人の癖に、それが危険だって気づきませんでしたか?」 ギラッ
グサグサッ
「現場も現実も知らない政治家が空気読まずにバカしたせいで、精鋭揃いの二個師団が緒戦で血の海に。空で泣きながら見届けましたわ」 メソメソ
グサグサグサッ
「でもまぁ、【女子更衣室】に侵入した日、指示通り王子を見殺しにしたのは及第点ですわ。あの時逆らったら、もう【餌】にするつもりでしたから」 ギラッ
グサグサグサグサッ
【木箱梱包】で【女子更衣室】に運び込まれた日。
パラワルク嬢から、クリーク王子は即位前に死亡する可能性が高いことを知らされた。そして、それを本人に話してはいけないとも念押しされた。
私は王子に話さなかった。
そして、王子は【終戦】と引き換えに死亡した。
私は王子を裏切ったのだ。
【100人を生かすためなら、1人を殺す】
あの時、私は政治家としてそれを初めて実践した。
「本当に【滅亡】の瀬戸際まで行ってしまいましたが、何とか持ち直して皆の意志で世界は新しい歴史を歩み始めました。とりあえず一安心ですわ」 プハー
「確かに、今思えば【滅亡】スレスレまで堕ちてましたね」
あの時ヨー王が首都に来なかったら、本当に危なかった。
「私は役割は果たしましたし、私達は【なかったこと】にされた以上、今の姿で何百年も生き続けるわけにはいきません。だから【世代交代】をしたいのです」
「でも、それをするとパラワルク嬢は死んでしまうのでは?」
「千年生きました。友人も皆逝きました。もう十分ですの。獣の血を混ぜたくは無いですし、【艦長】の願いを託すなら末裔のカミヤリィさんとの子供が一番適任ですわ」
「もしかして、私はそのネモ艦長の子孫なんですか?」
「ドゥフフフフゥ……。そうですわ。あの御方は本当にステキな方でした。預かった子供もイケメンに育ちました。でも私は役割果たすため我慢しました。何世代も面影を強く残している末裔を密かに追っかけながら我慢しました。そして、ついに、私の番が来たのです。血筋的に成功率高いのは検証済みですの。きっと沢山産めますわ」
ゾッ……
「えーと、流れは読めてきたし、使命感みたいのも沸いてきたし、悪い話じゃないとも思いはします。でも、昔の想い人の面影を世代を超えて追いかけてました的なこと言われると、正直怖いです」
『ニャギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!』
またまた絶叫。
いやでも、叫びたいのはこっちだよ。
世代を超えてストーキングされてて、血筋的な成功率まで検証済みとか【千年喪女】怖すぎだよ。
「ドゥフフフフゥ……。ここまで言ってもノッてくれないなら仕方ありませんの。【闇魔法】の【魅惑】を使ってオトしてやりますわ」 クワッ
「なにそれこわい! 笑い方もこわい!」
アレか。その【グラマラス】な部分を活用する【魔法】か?
恐いけど何か期待してしまう。そんな私はもうすぐ40代なオッサン。
『女性からの【プロポーズ】に即答できないヘタレが居る街は、【巨大竜巻】で吹き飛ばされてしまいますよー!』
ガタッ ガタン ガシャン ズドドドドドドド
「結婚おめでとうございます!」
「カミヤリィさん! 【結婚式】ですよ!」
「イイ奥さんですね! おめでとうございます!」
「さぁ! 新居を準備しましょう!」
「夫婦で是非市長に就任してください!」
パラワルク嬢の物騒な宣言を聞いた酒場の連中が、殺気立って取り囲んできた。
気持ちは分かるけど、言いたいことはある。
「ちょっと待ってください。いくらなんでも強引でしょう」
ヒュゴォォォ ガタガタガタ ガタガタガタ ミシミシ
謎の強風に煽られて、酒場の建物が軋む。
『風が強くなってきましたねー。このまま風が強くなったら、皆で再建したラグーンシティはどうなってしまうんでしょうねー』
ガタガタ ミシミシ
「それは【魅惑】じゃない! 【脅迫】だ!」
明らかにパラワルク嬢の仕業。
なんて無茶苦茶な女だ。【嵐を呼ぶタヌキ】だ。知ってたけど。
「カミヤリィさん! さぁ、男らしい返答を!」
「ここまで愛されてるなんて、男冥利に尽きるじゃないですか!」
「準備します! 今すぐ【結婚式】準備します!」
「元議員さんでしょ! これこそが【民意】ですよ!」
「【民意】です! 【民意】を尊重してください!」
酒場に集まった市民が無茶苦茶言ってくる。
元議員だけど言える。
やっぱり【民意】なんて御都合主義だ! デタラメだ!
でも、パラワルク嬢の血を引く強い子供達を、世界を守る力となるよう育てる余生。
それ自体は悪くないなとは思った。
●オマケ解説●
カミヤリィ氏も、その前妻も純血の外洋人。【魔法】適性は無い。
でも、妊娠中に妻が子供の魔法適性について言及したということは、つまりそういうこと。
【外洋人】の出身地。
まさかの海の向こうではなく、【星の海】の向こうだった。
連れ帰った【エルフ】達による故郷の救援、間に合っただろうか。
まぁそれは別の話。
このグラマラス【エルフ】のパラワルク嬢。
カミヤリィ氏と結婚し、数年後に命と引き換えの出産で6人の子供を産み落とす。
彼等は各地に散り、【エルフ】の血を引く多くの末裔が残る。
辛辣長、キャスリン、ウィルバー、エレノア……。
魔王歴80年代にそれっぽい人、何人か居たね。
魔王歴82年の【フロギストン理論】では触れられなかった、フロギストンを【運動エネルギー】に変換する特殊な魔法。
使えるのは【エルフ】の血を引く者だけ。先祖返り級に色濃く能力を受け継いだキャスリンは、【試作2号機】の姿勢制御、【模擬砲弾】の発射など密かにいろいろ活用していた。




