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 1月 1日 俺様 提案した(3.2k)

 新生ユグドラシル王国の初代国王として、国の復興と新体制の安定化を頑張っている俺は、体質的にビッグマッチョでちょっと腕力が強い普通の男。通称【ヨー王】。


 【新時代事業】により【原住民】と【外洋人】の歴史は封印され、【混血者】と言う呼び方も禁止された。だから今の俺は普通のビッグマッチョな王ということにしている。


 【獣人】の存在は【無かったこと】にはされたけど、俺の子を身籠った【獣人】の女達は王城区画内に隠れて生活している。


 これから半年以内に彼女達は、命と引き換えの出産をする。

 そして、それにより純血の【獣人】は絶滅する。

 

 その代わり、強い身体能力と魔法適性を持った子供が100人近くここで産まれる。この国の未来を支える強い子供達だ。


 国の希望ともいえる彼等を無事この国に迎え入れるため、【獣人】の出産立ち合い経験のある産婆さんと、魔法適性を持つ子供の保育経験がある【保育士】を王城区画に集めて準備をしている。

 最終的には、彼等は【戦災孤児】として国内各地に分散して引き取られる予定だ。


………………

…………

……

 

 今日も王城区画外にある仮設都庁で王の仕事を終えた後、日課である彼女達への食事の配布を行い、最後にキツネの部屋に来た。


「調子はどうだ?」

「快調よ」


 小さめのハイテーブルの前で真紅のドレス姿のキツネが立って待っていた。

 帽子を被っていないので、大きなキツネ耳が頭の上でピンと立っている。

 俺はいつも通り、ハイテーブル上にキツネの食事を置く。


「今日の分だ。量は足りるか?」

「十分よ。食料事情の改善が分かって毎日楽しいわ」


 キツネ耳が少し外側に傾いた。

 これは安心した時の動き。今日の献立に満足したのだろう。


 キツネはいつもハイテーブルで立ったまま食事を摂る。

 座って食べないのか聞いてみたことがあるが、尻尾が邪魔で椅子に座るということができないとのこと。

 ドレスの中がどうなっているのか、そもそもどうやって寝ているのか。気になることはあるけれど、それは聞かない。

 酷い目に遭わされ続けたので、俺もさすがに言動に気を付けるようになった。


「昨晩の怪奇現象については何か分かったかしら」

「カミヤリィ外交官が教えてくれたよ。まぁ、【魔王城】ではよくあることで、心配いらないらしい」


 昨夜未明。北の空が明るく光るという怪現象が発生した。

 気にする人は多くなかったが、一応調査だけはした。


「まぁ、あのの仕業でしょうね」

「もしかして、キツネはエヴァ嬢の事を知ってるのか?」


「長く生きてるからね。【獣人】は皆顔見知りよ」


 そう言うとキツネは、コーヒーを用意しだした。

 

 【獣人】は手に入れた食べ物を手放すことはできない。だから、キツネは俺のために料理を作ることはできない。

 でも、キツネはコーヒーを飲むと体質的に中毒を起こす。つまりコーヒーはキツネにとって【食べ物】に該当しない。

 だからキツネは俺にコーヒーを出すことができる。


 カチャ


「まぁ、コーヒーでも飲みなさい」


 ハイテーブルにコーヒーのカップを出されたので、促されるままに飲む。


 香ばしいホットコーヒー。香り立つブラック。

 キツネの淹れるコーヒーは美味い。今の俺の好物の一つだ。

 でも、キツネがこうやってコーヒーを淹れるときには、必ず何かあるのだ。


「あの貴方あなたより年上よ」


 ブーーーーーーッ ゲホッ ゲホッ


 やっぱりやられた。

 俺が飲んでいるのを見計らって、噴き出すようなことを言う。

 先代の王がやっているのを見て覚えたらしいが、悪趣味極まりない。

 しかも、予見していても引っかってしまうようなネタを持っているだけに厄介だ。


「エヴァ嬢は年上だったのか! 百年か、千年か!」

「2歳上よ。大して変わらないわ」


 良かった。

 何がいいのかよくわからないけど、まぁ良かった。


「ということは、エヴァ嬢は入植後に産まれたのか」

「そうよ。それで純血だから彼女は珍しい存在ね。実際、かなりの異端児よ。人間の村に入り浸ってたわ。可愛がってくれる人が居てね」


 俺もキツネも普段から【獣人】や【混血者】等の禁止用語は避けて話すようにしている。【外洋人】は【人間】と呼ぶようにした。

 少し話しにくい時もあるけど、次の世代に伝えないと自分達で決めたことだ。俺達が率先して守らないといけない。


「エヴァ嬢と仲良くしていた人間が過去に居たのか」

「そうよ。ダニラさんっていう近くの農村の責任者で、彼からいろいろ教わったおかげで、あのはちょっと腹黒に育っちゃったの」


 腹黒はちょっと心当たりあるな。【話し合い】の件とか。

 あれは外洋人の入れ知恵だったか。


 かつてのエヴァ嬢の言動をいろいろ思い出す。

 なんかつらくなってきた。


 窓の外に視線を移す。

 綺麗な夕焼けが見えた。


 エヴァ嬢のことは気がかりだが、【王妃】であるキツネと過ごすゆっくりとした時間も悪くない。

 今、俺は幸せだ。

 エヴァ嬢のことは忘れよう。


 キツネの動向に注意しつつも、コーヒーの残りを飲む。


 ブハッ ゲホッ ゲホッ


 キツネの耳が急に平たく伏せたので、またむせてしまった。

 【耳芸】だ。


「キツネめ」

「キツネよ」


 キツネは俺にコーヒーを噴かせるのが楽しいらしい。悪趣味だ。

 そのうちあのキツネ耳にぶっかけてやろうか。


 いや、やめておこう。

 そんなことをしたら、また【掘られて】しまう。


「そういえば【タヌキ】は元気にしているかしらねぇ」

「キツネが追い出したんだろう。まぁ、元気にしているんじゃないか?」


 キツネが【タヌキ】と呼ぶのは、あの、緑のドレスを着たグラマラスな【エルフ】の事だ。

 何故【タヌキ】なのかは未だに謎だが、【お食事会】の発端となった【不祥事】を理由に、彼女はキツネにより王城から追放されたそうだ。


 でも実は彼女は、俺の昼の仕事場である【仮設都庁】で仕事していて、俺は毎日会っている。キツネにそれを言わないのは口止めされているからだ。



 国を24の自治区に分割し、その【領地】を各地の【領主】が治める。ユグドラシル王国の新体制が始まったことで、各地の【領主】に任命された元議員や市長達は【領地】に帰った。

 当然、何かと頼りになったソンライン領主もヨセフタウンに帰った。

 

 そのおかげで、やっぱり首都は人手不足。

 人材育成は進めているが、急場しのぎとして【タヌキ】と【魔王城】のカミヤリィ外交官に行政の運営を手伝ってもらって居るのだ。


 王城区画から出ないキツネも、【知恵袋】として頼りになる存在だ。

 政治面で経験や知識が少ない俺が【王】として活躍できるのもキツネのおかげだ。

 こういうのを【内助の功】というのかな。


「私はもう長くないんだから、見つけたら捕まえておきなさいよ。厄介だけど使い方次第では役に立つわ」

「そうだな」


 大丈夫だ。ちゃんと役立っているよ。


 コーヒーで汚れた床を雑巾で拭きつつ、キツネの姿を見る。

 ドレスの中がどうなっているのかは分からないが、お腹が少し出ているのが分かる。


 妊娠期間は外洋人とあまり変わらず10カ月程度。

 純血の【獣人】は出産時に死亡するので、キツネともあと半年程度でお別れだ。


 キツネ達の出産に備える中で、【獣人】の出産を扱った経験のある産婆さん達と秘密の情報交換をした。

 産婆さん達は、【獣人】が出産時に死亡するのを【医療事故】と思っていたので、真相を聞いた時には驚いていた。


 彼等の話、【ぼう】を妊娠したエヴァ嬢が今生きている現実、それらを踏まえて、俺は【ある可能性】を考えていた。


「キツネ。提案があるんだが」

●オマケ解説●

 飲食勧めてから、噴き出すようなことを言う。

 そういえば先代の王もやってたな。

 友達失くすやつだから、良い子は真似をしないでね。


 ダニラ村長の家に通っていた獣脚娘。

 動物扱いだったのか、娘扱いだったのかは定かでは無いが、腹黒教育を受けた獣脚娘は【話し合い】の解釈が少しズレたようだ。


 キツネの【耳芸】。

 獣耳ってけっこう柔軟に動くんだね。


 そして、王はどんな可能性を見出して、どのような提案をしたのやら。

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― 新着の感想 ―
ヨライセン君、かなり学習効果が出てきてますね。失言しなくなっている!! ちょっと遅かったかもですが。(笑) 確かに坊を産んだエヴァ嬢が生き残っていることからなにか方法があると考えるのは自然な考えですね…
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