新しい時代(1.1k)
8月15日 ユグドラシル王国首都
首都にて【終戦】と【建国】を祝う式典が、各地から集まった来賓を加えて盛大に行われた。
市中を行進するパレードフロート上にて、王の正装に毛皮のベルトとマントを加えた姿で、剣ではなく杖を持ち、王妃を傍に従えて毅然と立つヨー王の姿は、国が平和になったことの象徴として国民に勇気を与えた。
戦争を終わらせ、新しい時代の礎を造った王、【グリーク・ヨー・ユグドラシル】は、【英雄】として、新しい国の初代国王として、歴史記録に残ることとなる。
そして、この日発布された【憲法】により暦は【魔王歴】となった。
新しい歴史を飾る最初の事業として【新時代事業】が施行された。
これは、原住民根絶作戦や、エスタンシア帝国との戦争等の、負の歴史を消去するための大規模な【焚書】事業であった。
歴史記録を抹消することに対しては、一部の学者から強い反発はあった。
しかし、魔法適性の遺伝に関する不都合な真実や、入植時に定住を支援してくれた原住民を根絶した過去等、後世に語り継げない多数の黒歴史を抱えていた国民の大半は、この事業を好意的に受け入れた。
これにより、【鬼人】【獣人】【エルフ】の存在と、漂着して入植した【外洋人】がこの地で重ねてきた歴史は、記録から抹消された。
8月15日 エスタンシア帝国首都 カランリア
エスタンシア帝国国内は、同時多発的に武装蜂起した反政府組織同士の戦闘が続いていた。
反政府組織同士を戦わせて消耗させるため、エスタンシア帝国政府が巧みな情報操作で扇動した結果であったが、これにより戦禍は拡大。
国内全域で工場地帯は壊滅し、生産能力と工業技術を喪失した。
ユグドラシル王国から帰還したアレク中尉率いる残存部隊は、【魔物】達の支援を受けて各地で内乱を鎮圧。
最終的に首都であるカランリアに到達し、戦争終結と生活の安定を望む市民達の支援を受け、クーデターを敢行し政権を奪取。
アレク中尉が初代の【首相】に就任した。
交流が途絶えていたにも関わらず、【終戦】と【建国】を祝う式典は同じ日に行われた。
新しい暦も同じく【魔王歴】。
大規模な【焚書】事業の実施も同様。
焼け野原となったカランリアから、エスタンシア帝国は再出発することになった。
8月15日 ヴァルハラ川
ヴァルハラ川流域では【魔物】達による流域の地形修復工事が続いていた。
そしてこの日、下流域の川底の掃除と、中央ヴァルハラ市跡地の大穴埋め立て工事の終了に伴い【災害ダム】に構築した水門が開門された。
水門からの放水は同日中に下流側で海水と合流。ヴァルハラ川は5カ月ぶりに川としての姿を取り戻し、両国の国境線は大河により分断された。
ヴァルハラ川と【魔物】により国境線を分断された2国は、お互いの存在を一旦忘れる形で新しい歴史を歩みだした。
●オマケ解説●
3日前に掘られた【王】は、立つことも歩くこともできなくなっていた。
【式典】日程をずらすことはできないので、やむなく【杖】を持たせて、キツネの尻尾で後ろから支えて、カカシ状態でパレードフロート上に固定して式典に挑んだ。
毛皮のベルトに見えたのは、カカシ状態を支えていたキツネの尻尾。
この後【国宝】とされる【杖】は、街の職人が即席で作った安物。
【英雄】と呼ばれた王の毅然とした表情は、治まらないお尻の激痛に耐えてこわばっていた表情。
この日の二人の姿は後に絵画や彫像となるが、王はそれを見るたびに内側から響くお尻の痛みを思い出したとか。
そして、国家ぐるみでの原住民の存在そのものの【隠蔽】。
イイ話っぽくまとめてるけど、都合が悪いことを【無かったこと】にしたがる困った国民性の原点でもあり、そのせいでまた後で困ったことにもなったりするんだが。
まぁ、この日から【魔物】の国境分断による2国の平和が始まったわけです。




