8月 6日 俺様 報いを受けた(5.5k)
ユグドラシル王国の【王】として、キツネにシバかれながらも次世代の国民が幸せに生きられる国を創る仕事を頑張っている俺は、シーオークと外洋人の混血の王。通称【ヨー王】。
国の再建は順調だけど、エヴァ嬢の状況は気がかりだと思っていたら、今朝カミヤリィ外交官がエヴァ嬢の村からの手紙と荷物を届けてくれた。
手紙の内容は、建国宣言と宣戦布告だった。
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【第三帝国建国宣言】
政治的無策により世界を破滅に導いたユグドラシル王国、エスタンシア帝国両国の無能さを大いに憂い、美しい大地と世界の秩序を守るために【魔王】としてヴァルハラ川流域に【第三帝国】を建国する。
己が欲望のために食べること、生きること、働くことの意味を忘れ、大地を汚し、醜い争いを再び起こすのであれば、【魔物】の群れが両国国民に裁きの鉄槌を下すであろう。
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物騒な手紙だった。
行政実務メンバーで対応を協議した結果、宣戦布告と言いつつもすぐに攻めてくる気は無さそうなので、ヴァルハラ川流域への接近禁止令を出して様子見という判断になった。
そして、この物騒な手紙に同封されていた【国家改革要望書】という表題の分厚い資料は、【経済政策】と【環境政策】に関する要望だった。
ユグドラシル王国が目指している国の姿に近い形が記載されており、参考になる面も多かったので、現在作成中の新しい【憲法】に取り込むことにした。
一緒に届いた荷物の方は俺宛てとされていたので、塔の屋上に持ってきて開梱している。
ガサガサ ゴソゴソ
荷物の木箱に入っていたのは【絵】だ。
薄赤色のメイド服を着てベンチに座ったエヴァ嬢の姿。
その隣には、カーキ色のワイシャツをビシッと着た、薄い七三分けとチョビヒゲが印象的な中年のオジサンが描かれている。
【肖像画】だ。
二人の絵のタッチが違うので、お互いの姿を描き合ったようだ。
それにしても、このヒゲのオジサン誰だろう。手紙に書いてあった【魔王】かな。
【肖像画】の下にメッセージカードが入っていたので、それを開けて読む。
【私達結婚しました】
ゴフッ
…………
「……貴方。居ないと思ったらこんなところで何してるの?」
塔の屋上で夕日を浴びながら北の空を眺めていたら、背後からキツネの声。
「キツネか」
「キツネよ」
エヴァ嬢から贈られた【肖像画】とメッセージカードを見て、つい呆けてしまった。
これを、俺に贈る意味は何だ?
俺は確かにエヴァ嬢に酷いことをした。その仕返しか?
そして、隣に居るヒゲのオジサンは一体誰なんだ?
ベチーン 「痛てっ!」
キツネの尻尾で顔面を叩かれた。
「……何するんだキツネ」
「今日何してたのよ。食べ物が無いって皆困ってたわよ」
しまった! 呆けてて日課をすっぽかしてた。
もう夕方だ。今から集めて間に合うかな。
「今日は食べ物はいいわ。今夜は別の事で埋め合わせしなさい」
「すまん。それで今夜は何をするんだ?」
「久しぶりの【大奥】よ。前回誰も身籠らなかったから、そろそろと思ってたのよ」
ゴフゴフッ
…………
王宮メイドに扮して王城区画内に隠れていた【獣人】の女達は、【鬼人】シーオークの血を引く俺との混血を産むことを望んでいるそうなので、斬られた両腕修復の見返りとして協力している。
今日は第二回の【大奥】ということで、またあの地下室に連れてこられて、手術台のような台の上に寝かされた。
寝てる間に全部済ませてもらって、俺は2日後ぐらいに目を覚ます予定。
エヴァ嬢の【結婚】の事は、寝て忘れよう。
『ニャギャァァァァァァァ!』
「うおっ!」 ガバッ
とんでもない悲鳴が枕元で聞こえて、飛び起きる。
手術台の脇を見ると、俺の隣に緑色のメイド服を着た【エルフ】が腹ばい状態で転がっていた。
その前にはキツネ。
他の獣人娘達は、遠く離れた地下室の壁際まで離れて、こちらの様子を伺っている。
俺は患者着を着せられているから、全部終わったわけではなさそうだ。
「キツネ。これは一体どんな状況なんだ?」
「この【タヌキ】が余計な事をしてくれたせいで、【大奥】が台無しになったところよ」
スパァァァァァァァァァン
『ニャギャァァァァァァァァァ!』
【タヌキ】と呼ばれた【エルフ】がキツネの尻尾でお尻を叩かれて悲鳴を上げる。
分かる。どういう仕組みか分からないけど、コレ痛いんだよなぁ……。
「余計な事とは何ですか! 前回誰一人命中しなかったから、【強化改造】してあげたんじゃないですか!」
「誰がそんなことしろって言ったの! あんな風にしちゃったら手に負えないでしょ!」
【強化改造】ってナニしてくれてるんだ!
そして、あんな風って、どんな風になったんだ!
恐くて確認する気になれない!
「あそこまで【強化】すれば、全弾命中間違いなしですわ」
「じゃぁ、貴方が最初に何とかしなさいよ!」
キツネが緑の【エルフ】と口論してるけど、俺を巻き込まないで欲しい。
そして、何とかって、ドウするつもりだ!
「あんな【超☆兵器】無理ですわ。相手にしたら【臨死】ですの」
「この【タヌキ】!」
スパァァァァァァァァァァァン
『ニャギャァァァァァァァァァァァ!』
あー、やっぱり叩かれたー。
本当に、痛いんだよなぁ……。
「酷いですわ。それに、私は【タヌキ】じゃありません【エルフ】です! そもそも、なんで私が【タヌキ】なんですか!」
「【緑】だからよ!」
スパァァァァァァァァァァァァァン
『ニャギャァァァァァァァァァァァァァ!』 ガクッ
【タヌキ】と呼ばれた【エルフ】はどうやら痛みで昏倒した模様。
なんか酷い。
そして、なんで【緑】だと【タヌキ】になるのか、俺にも分からない。
「【タヌキ】のせいで台無しよ。とんでもない【強化改造】は1カ月ぐらいで戻ると思うけど、その間【大奥】はお預けね」
部屋の奥に集まっている獣人娘達がしょんぼりしている。
「フフフフフ……。本当にもう、いつもいつも……。この【タヌキ】どうしてくれようかしら。久しぶりに掘っちゃおうかしら」
俺の隣でうつ伏せで動かなくなっている【エルフ】。
グネグネ動いているキツネの長い尻尾の先端が、そのお尻を狙っているように見える。
また【掘る】が出たけど、なんかすごく危険な予感。【王】として止めなくては!
「キツネ! 動かない【タヌキエルフ】はどうでもいいから、なんかこう、楽しい昔話を聞きたい! 【王】として、この国の歴史とか!」
「昔話ねぇ……。そういえば、貴方この娘達に過去に会ってたの覚えてる?」
「覚えてるぞ。戦時伝令使をしていた時、王宮で会ってた。【獣人】とは知らなかったけど」
壁際まで離れていた獣人娘達が、少しづつ俺の載っている手術台に近づいてきた。
今は獣耳や尻尾を隠していないけど、彼女達は頭巾や帽子を被ると本当に外洋人と見分けがつかない姿になる。
「本当に気づいてなかったのね。ちなみに、今の外洋人の女性の服装は私達が起源なのよ」
外洋人の女性は外出時はロングスカートと帽子が基本的な服装だけど、これもキツネ達が何か絡んでるのか?
「外洋人の女性と風貌を似せるために、当時の外洋人の服装を基に私達がアレンジしたの。その姿で街で暮らしていたら、当時の外洋人の女性達が真似しだして、いつの間にかこれが普通になったのよ」
「そうだったのか……。確かに、獣脚や獣耳を自然に隠せるな」
だったら俺は、何でエヴァ嬢の両脚を斬ろうなんて考えたんだろう。
いやもう、考えるまい。考えるまい。
「話がそれたけど、王宮で会う以前にも貴方は彼女達に会っているのよ」
「そうなのか?」
なんか、キツネが楽しそうに話すけど、俺には覚えがない。
東ヴァルハラ市で暮らしていた頃には、彼女達には会っていない。
それより前はシーオークの集落に居たけど、そこには【獣人】の女は居なかった。
「私達、いろいろあって街を追い出されていた頃、各地の原住民の集落を転々としてたの。集落で混血者が産まれた時には乳母を引き受けたりもしていたわ」
そうか。純血の原住民は出産すると死んでしまう。そして、生まれた直後の赤子の世話には女手が必要。
何をして街から追い出されたかは分からないけど、街に帰れない彼女達は原住民の集落でその役割を引き受けていたのか。
「シーオークの集落にも行ったわ。シーオークと外洋人の混血は初めてだから、生まれてしばらくは皆で集まって交代でお世話したの」
シーオークと外洋人の混血は俺以外には居ない。
ということは、俺が赤子の時に彼女達に会っていたのか。
でもそれは18年前のはず。
「皆【若作り】してるけど、【年増】だったのか!」
シュババッ
一部の獣人娘達のスカートの後ろがめくれて、【尻尾】が立った。
尻尾が無い方々も、獣耳が横にピンと伸びている。猫とかがたまにするイカ耳だ。
「ちょっと貴方! 今の話の流れで何でその発言? 他にもっと言うことあるでしょ!」
「いや、若い娘と思っていたら1世代以上年配と聞いてしまってつい……。寿命が長いとは知っていたけど……」
パタパタパタ
「ノイン様、ノイン様」
【ウサギ耳】のメイド達が、特大のスープ皿を持ってきてキツネに何かを訴えた。
「いくらなんでもそれはダメよ。禁忌って知ってるでしょ」
なんだかよく分からないが、キツネはウサギを止めるようだ。
【ウサギ耳】のメイド達が不満そうにしている。
「ノイン様はお優しいのですね」
「伊達に千年以上生きてないわ」
千年?
キツネは年齢不詳だったけど、千年以上も生きてるのか?
いつか見た、【紙の砲弾】の記事をふと思い出した。
【千年喪女は新月の雪山で獣を待つ】
「【千年喪女】って、キツネの事だったのか!」
「そうよ。貴方、その巻も読んでたのね」
「千年も相手が居なかったのか? 独り身だったのか?」
「話したでしょ。外洋人が入植して以来、獣人の男達は女を求めなくなったの」
「いや、千年生きてるなら、外洋人が入植するまで700年以上あったよな。その間、部族最強の男から何度も求愛されたんじゃなかったのか?」
「……私に相応しい相手が居なかったのよ」
あー、なんかこういうの何て言うか、おっちゃんの店で読んだ【月刊☆みそじにすと】に書いてあったな。
「【高望み】して【行き遅れ】したのか。700年もそんなことしてたから、戦いを美しいとか言い出すぐらいに【愛】の認識が物騒な方向に歪んだのか。キツネは可愛そうな女だったんだな」
シュババババ ガキン ゴン
キツネのスカートの後ろ側が破れて、背後にクジャクの羽のようなものが勢いよく立ち、その上端が天井にめり込んだ。
いや、羽じゃない。9本の長い尻尾だ。
【九尾の女狐】か。
そのうち両脇の2本は、途中で切ったような形になってて、長さが半分ぐらいしかない。
「フフフフフ……千年以上生きてるけど、ここまで私を怒らせた男は貴方が初めてよ」
キツネ耳を横にピンと張って、こめかみに青筋を浮かべて、顔を真っ赤にして俺を睨むキツネ。
なんかすごく恐い。
そして、そのスカート。後ろから見たらかなりアブない状態になっていませんか?
「ヨー王、コレは【般若】と受信しました!」
いつの間にか傍に来ていた子キツネが解説してくれたけど、よくわからない。
「ノイン様。ノイン様」
【ウサギ耳】のメイド達が、また特大スープ皿を持ってキツネに何かを訴えている。
「そうね……。今日は食べ物が届かなかったから空腹だし。今から皆で【お食事会】にしましょう」
ズザザザザザッ ポイッ ドサッ
獣耳女達が俺の座っている手術台の周りに集まり、隣に寝かされていた【タヌキ】が床に放り出された。
先頭に立つのは【トラ耳】【豹耳】の皆さん。後ろ側では、スープ皿を携えた【ウサギ耳】の方々。
その眼には【捕食者の眼光】が浮かぶ。
まさか、この流れは……。
いつぞやのスプラッターの再来の予感!
女性相手にコレを言いたくないけど、言うべきことは言うべき時に言っておこう。
「あー、痛くしないように、お願いできないでしょうか」
「皆よく聞いて。この【王】は、出産控えた伴侶の両脚を斬り落としたアホよ。【遠慮】も【配慮】もいらないわ」
キツネの無慈悲な呼びかけを聞いて、肉食系獣耳の娘達がゆっくりと口を開く。
その【歯並び】は、口閉じた時にどうやって納まってるのか分からないぐらいの、立派な牙。
荒い吐息と、滴る涎。完全に【獲物を見る捕食者の表情】。
「今夜のメニューは【千年級失言男】の【踊り喰い】よ」
イタダキマース
どぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ
●オマケ解説●
かつて守ろうとした女からのまさかの【結婚報告】。
心が折れるパターン。
そして、自分自身に関心のない獣人女達からの【種】扱い。
心が折れるパターン。
さらに、寝てる間に無断で【強化改造】されて皆にドン引きされる。
心が折れるパターン。
極めつけは、【大奥】をしていた獣人女達がまさかの1世代以上年上。
心が居れるパターン。
余りに心が折れすぎたのか、とんでもない失言。
他に言うことあるような気もするけど、そこまで考えが及ばない。
高齢独女って、あまりに選ばれなさ過ぎていろいろ歪んでしまう人多いけど、千年もそんな生き方をしていると、【戦争】に【愛】を見出すぐらいにぶっ飛んでしまうのか。
喪女って恐い。そう思っても、それを口に出してはいけません。
食事の配達をすっぽかされて空腹の獣人女達をここまで怒らせてしまったら、その償いとして、自分が【食べ物】になるしかない。
こういうのを専門用語で【肉食獣女は脚なんてご馳走と思っている(千年喪女の憤怒/失言国王の流血)】という。




