7月13日 ワタクシとヒゲの楽しいお城(2.0k)
「余は【建築家】だったのだ」
小雨が降る日の昼過ぎ。小屋の中で座敷席のちゃぶ台上に紙の束を置いたロイが、また何か言い出した。
「それなら、小屋の雨漏り直してほしいんだけど」
「アチャー……」
焼け残った資材でロイが即席で作ってくれた小屋。
私達の家として使っているけど、やっぱりあちこち無理が出てきたのか、雨漏りするようになってきた。
「まぁ、その件も含めて、資材もかなり集まってきたから、【城】を作ろうと思ってな」
「【城】? 家じゃなくて?」
「そうだ。ヴァルハラ平野から人を追い払う口実として【第三帝国】を名乗りたいからな、それらしい【城】を作るのだ」
ロイがちゃぶ台の上に紙を広げた。
城の図が描いてある。各所に書いてある文字は読めないけど、これはロイの世界の数字で寸法を入れているようにも見える。
三角屋根の石造りの高層なお城で、屋根の上から複数の塔が出ていて、塔の頂上は円錐のような形になっている。なんかかっこいい。
「綺麗なお城ね」
「そうだろう。そうだろう」
「たくさん階があるから、あのブーツを履いて中で走り回ったら楽しそう」
「エー……、イブ。あのブーツは……」
「屋外はダメだけど、城の中なら屋内だから問題ないのよね。最近運動不足だったから、このお城の中を走り回るの楽しみだわ」
「…………」 ブルブルブル カタカタカタ
なんか、ロイが城の図を見て震え出した。
どうしたんだろう。
「すまん。イブ。……余は、設計に際して重要な事を失念しておった」
「えっ? 何か問題あるの?」
「この構造では【耐震性】に問題がある。余の出身国では地震は稀であったが、この地では地震が起きるのであったな」
「起こさなければ滅多に起きないけど」
「この地の平和を守る役割を持つ重要な【城】だ。100年以上は保ちたいからな、それを前提とした構造とすべきだったな」
シャカシャカシャカ
…………
ロイが【城】の図を描き直した。
「これって、【倉庫】じゃないの?」
「いや、余の前の世界の【体育館】というものを基にしておる」
四角い形に、アーチ状の金属製の屋根。
間取りは、南側が正面で、入口側から半分ぐらいは広いエントランス。
奥の半分は中二階構造で、上段が広い集会場。下段が食堂や居室。
地下階も2階あって、居室や作業部屋などを配置。
「うーん。高い塔が無いのはなんか残念ね」
「塔は【城】のシンボルではあるんだが、石造りで塔を作ると【耐震性】の確保が難しいし、そもそもイブの力があれば監視塔は不要だからな」
「それもそうね。でも、階層を作るなら、地下室じゃなくて普通は上層にするんじゃないの?」
「確かに。平地に建てるなら地下室なぞめったに作らん。排水の問題があるからな。だが、この場所は地下室の方が都合が良い条件が揃っておる」
「都合のいい条件?」
「台地の端ですぐ脇が崖になっておるから、崖のほうに排水ができる。それに、固まった溶岩が岩盤まで届いており地盤が強固だ。掘るのは大変だが、要塞級に強固な地下室が作れるのだ」
ここにあった芋畑を焼いちゃったのは私だけど、怒りにまかせて焼いたから岩盤の深さまで融けてたか。
でも、そのおかげでロイが城を建てやすいなら、まぁいいや。
「それに、居住区画を1階に集約しておけば、階段を使わずとも日常生活ができる。両脚が無いイブの事を考えると、高い建物は不向きであった」
「あのブーツを使えば階段ぐらい上り下りできるけど。運動にもなるし」
「ヤー……、運動不足解消用の物なら他に用意しよう。【雲梯】などがお薦めだ。広いエントランスにいろいろな遊具を置いて、安全に運動できるような【体育館】にしよう」
「でも1階だけでもこの小屋よりも広くなるから、ブーツを使わないと不便じゃない?」
「車いすを用意しよう。床を平らに整えて、建屋内の移動は車いすを使うのだ。そうすれば、自由に動ける範囲が広がるぞ。外に行きたい時は背負子でいいだろう。最近はジーンに背負われることもあるじゃないか」
ジーンはロイと背丈が近くて、若くて筋肉質で力がある。だから、ロイが疲れていそうなときはジーンに運んでもらうことが多い。
乗り心地は悪くないし、本人もわりと乗り気だ。
シャカシャカシャカシャカ
「フーン 強度や耐震性を考えると、鉄が沢山必要になるな。今ある資材では心許ない。どうしたものか」
ロイが建屋の骨組みを描きながら悩んでる。
たしかに、石材なら固まった溶岩から切り出せるけど、使える鉄は限られている。
いや、でも、今なら沢山確保する方法がある。
「ロイ。鉄が沢山ある場所なら分かるわ。【オバケ】に持ってこさせましょう」
「アハッ! その手があったか。イブは賢いな」
●オマケ解説●
元・総統閣下のデザイン原案は【ホーエンツォレルン城】。
山の頂上にある石造りの大きな城に憧れたけど、両腕にブーツを装着した脚無女が城の中を縦横無尽に走り回る姿を想像したら、憧れよりも恐怖が勝った模様。
そして、ジーン二等兵が背負子係を志願する理由。
背負っている間は焼かれないという安心感があるから。
特徴的な形を持つ【魔王城】誕生秘話でした。




