7月 8日 俺様 笑われた(2.3k)
【王】となって城を手に入れたから、エヴァ嬢を【王妃】にしようと車で迎えに行ったら、車ごと潰されて追い返された俺は、シーオークと外洋人の混血の【王】。
通称【ヨー王】と呼ばれているヨライセン。
綺麗に整備してもらった【王用車】は、俺が乗ったままぺしゃんこに潰されてボロボロに焼かれた。
外洋人なら即死だけど、シーオーク由来の頑丈さで死なずに済んだ。
でも、両腕が二の腕からバッサリ斬られて無くなっていた。
そして、後部座席に乗せていた【大剣】も粉々になっていた。
黒い靄を纏った大きなバケモノに潰れた車の中から助け出されて、何も考えることができず、そのまま首都まで帰ってきた。
両腕の無い身体で、あちこちで転びながら何日も歩いて首都まで来た。
途中、水を飲むのも食事を摂るのも、地べたを這って獣食いだ。
【王妃】を迎えに行くと、首都の皆に盛大に送り出された。
結果、エヴァ嬢に拒絶され、車を潰され、【大剣】を砕かれ、両腕を斬られた。
仕立ててもらった白いタキシードも、焦げや擦り切れた穴や土汚れでもはやぼろ布だ。
こんな惨めな姿を誰にも見られたくないので、日没を待って首都に入り、建屋の屋根の上を飛びながら王城区画内に帰ってきた。
両腕が無いとジャンプも着地もうまくできない。
何度か着地に失敗して屋根に顔をぶつけた。
身も心もボロボロになって、王城に帰ってきたら王城正門前でノイン姫が待っていた。
「無様ね」
開口一番、ボロボロの心を抉る一言。
「キツネか」
「キツネよ」
いつもの真紅のドレス姿。
だけど、とんがり帽子は被っておらずキツネ耳が出ている。
そのキツネ耳は俺の方を向いている。
「ついてきなさい」
キツネが王城の通用口の扉を開けて城に入る。
今の俺は自力でドアを開けることもできないので、慌ててそれに続く。
【火魔法】による照明なのか、城の廊下が明るい。
城の廊下をキツネに続いて進んでいたら、王宮メイド達が集まってきて、俺の後ろからぞろぞろとついてくる。そのうち何人かは、大きめの布団を抱えてる。
よくわからないまま、皆で一列に並んで廊下の奥の地下室に続く階段を降りる。
「足下気を付けなさい。転んだら私も巻き込まれるわ」
確かに、両腕が無い状態で下り階段で転びたくはない。
階段を降りて、地下通路の奥の広い部屋に入る。
地下の広い部屋の中で、俺の前にキツネ。
その後ろに王宮メイド達が並ぶ。
結局全員集まったのか30人以上いる。
「貴方、シーオークと外洋人の混血よね」
「そうだ。そういえば、言ってなかったな」
今更隠すつもりもないけど、あんまり自分から言うことでもない。
最近は【鬼】として大暴れしてたから、大概バレてるだろうし。
「私達の願いを聞いてくれるなら、その両腕を何とかできるけど、どうする?」
治せるのか。【回復魔法】か。
腕が無いと何にもできない。
何を頼まれるか分からないけど、ここはもう一択だ。
「頼む。俺に出来ることなら何でもする」
シュルリ
キツネのロングスカートの下から、長い尻尾が出てきた。
尻尾あったんだ。
「フフフ。聞いたわね皆」
言質を取ったとばかりに、キツネが王宮メイド達の方を向いて呼びかける。
それを聞いた王宮メイド達が、次々に頭巾や帽子を取った。
隠れていた彼女達の頭の上にあったのは【トラ耳】【豹耳】【犬耳】【ウサギ耳】【とんがり耳】……、人間のそれと違うファンタスティックで個性的な耳。
「獣耳……。皆、獣人だったのか!」
「そうよ。本当に気づいてなかったの?」
一部の獣耳な王宮メイドのスカート下からは、キツネと同様に尻尾が出た。
獣耳でも、尻尾の有無は個人差あるんだ。
彼女達の大半とは【戦時伝令使】をしていた時からの顔見知りだけど、全く気付かなかった。
純血の獣人は【クロワッサン計画】と【ホストクラブ】で根絶されたと聞いていたけど、こんな近くに生き残りが居たなんて。
「【エルフ】も居ますわ」
緑色のメイド服を着たグラマラスなとんがり耳の王宮メイドが1歩前に出てきた。
話したことは無かったけど、彼女も王城区画内で見かけた覚えがある。
「えー、それで、獣人の皆さんは、俺に何をお願いしたいのでしょうか……」
もう嫌な予感しかしないけど、確認する。
「外洋人とシーオークの混血。私達にとって、最強の子孫を残せる可能性。分かるでしょ」
「えーと、キツネ様。それは【不倫】に該当しないでしょうか」
「横取りはダメだけど、捨てた物なら問題ないの」
ゴフッ
「それでも、一夫一妻が基本だろ。複数はダメなんじゃないか?」
「獣人は一夫多妻が普通よ。それに安心して。誰一人、貴方自身に興味は無いわ」
ゴフゴフッ
王宮メイド達の中から、キツネ耳の小柄な娘が出てきた。子キツネだ。
「ノイン様! コレは【大奥】であると受信しました!」
「【大奥】、いい響きね。【王】にふさわしい感じがするわ。男ならこういうの好きでしょ」
俺は、観念した。
「俺が寝てる間に全部済ませてくれ。できるんだろ?」
「できるけど、貴方変わってるわね」
「ノイン様! コレは【ヘタレ】であると受信しました!」
ゴフゴフゴフッ
キツネと子キツネの後ろで王宮メイド達が笑いだした。
もう、好きにしてくれ。
俺の【魂】は傷だらけだよ……。
●オマケ解説●
迎えに行った女に捨てられ、剣も両腕も失い、這いつくばるように帰宅。
待っていた獣人に拾われて、【種】扱いされた上で、大勢の前で【ヘタレ】と笑われる。
男の人生は辛いことの連続だ。
でもいいじゃないか。
拾ってもらえて、腕まで何とかしてもらえるんだから。
王は幸運。
彼は、ラッキーな男なのだ(涙)。




