6月 8日 ワタクシとヒゲの魔法研究(3.6k)
「余は【大罪人】だったのだ」
座敷席で昼食を食べ終わった後、ロイがまた変な事を言い出した。
「前の世界で何したのよ。【戦争】してたとは聞いたけど」
「軍人でもない一般市民を600万人ほど殺した」
なんかとんでもないこと言いだした。
何を考えてそんなことをしたんだろう。
【大罪人】って自分で言うぐらいだから、良くない事とは思ってたんだよね。
まぁそれはいいか。
「……本当か嘘かはしらないけど、それで【大罪人】のロイは今日は何をしたいの?」
「ヤー……。この世界になら、死者を生き返らせる方法は無いかと聞きたくてな」
「あるけど、禁術よ」
「あるのか! それは興味深いな、余に教えてもらえんか」
長老から教わったこの禁術。
本来なら他人に教えてはいけない。
だけど、教えたところでこれはロイにはできないし、この前トラックを焼き払ったときにロイがしょんぼりしてしまったのも気になっていたので、教えることにした。
【死者蘇生法】またの名を【魔王降臨術】。
死者の肉体と魂を材料に、狂った世界を存続へと導く存在である【魔王】を創り出す危険な術。
術を完遂できるのは【終末魔女】だけとされていて、完遂条件は命と引き換えという、使いどころが難しいものだ。
【回復魔法】の応用で、死者の肉体を修復及び強化改造。
同時に、死により止まってしまった【生命の波動】を強制的に再起動。
そして、自らの身体を媒体として、【魔王】にふさわしい【魂】を呼び寄せて修復した肉体に結合させる。
【魂】を結合させる際に、自分の【魂】は身体から剝がれてしまうので、術者は死亡する。この最終工程だけは、成功失敗に関わらず1度しかできない。
「フラー 興味深いな。この世界では、魂と肉体を魔力の波動で繋ぐことができるのか」
「そうらしいわ。でも、死者の【魂】への干渉は禁忌だし、命と引き換えに1回しか試せない。まぁ、【禁術】と呼ばれる所以ね」
「でも、【生命の波動】の起動は何度でもできるのだろう」
「それはできると思うけど、長老から危ないからやっちゃダメって言われているわ」
「余は【大罪人】だからな。【大罪人】はダメと言われても気にしないものだ」
「そうなの?」
「あと、さっきの話で気になったのだが【回復魔法】は生物の改造もできるのか?」
「できるけど、これもやっちゃダメよ」
生物の改造自体は【回復魔法】が使えればそんなに難しくない。
でも、捕獲した獲物を改造して大きくしてから食べたり、食べた部分を修復して何度も食べたりするのは禁忌とされている。
だけど、よく考えたら、生贄を死なせないように修復しながら肉を何度も食べた私は、既に禁忌を犯していたような気もしないでもない。
だとしたら、もう禁忌にこだわる必要も無いのかな。
それがダメってことになったら、世界を焼き払えばいいわけだし。
ロイが、小さい光る石をポケットからいくつか出した。
「ある種の鉱石と魔力の波動を組み合わせると、いろいろ面白いことができそうでな。イブの力を借りて試したい魔法があるのだ」
「試したい魔法と言えば、この前ロイが試した【招待状】って何なの?」
ロイはいろんな魔法を作る。
あのアホが来た時に、【貢物】の品目を伝えた後で、ロイに渡された鉱石に入っていた波動を言われたとおりに送った。
あれは【闇魔法】に近いものだと思うけど、鉱石を媒体とした【闇魔法】というのは聞いたことが無い。
ここに来て1カ月ぐらいしか経ってないのに、魔法をいろいろ作るロイはすごい。
「アレは、余の前の世界での思い出を込めたものだ。受け取った男が今何をしているか分かるか?」
「知らないわ」
「そうか」
世界を見通す力を使えば、あのアホが何処で何をしているかは分かる。
だけど、わざわざ見たくない。
あんな目に遭わされたこと、もう忘れたい。
「動物の亡骸と、魔力に反応する鉱石と、死者の魂から、不死の存在を作ってみたくてな」
「ちょっと! それは禁忌の塊よ! 何考えてそんな物作ろうとするの!」
ロイがとんでもないことを言いだした。
禁忌とかそんなレベルじゃない。もっと恐ろしい物の片鱗だ!
「ヤー……、そこはそれ【大罪人】だからな。今更【禁忌】とか恐くないのだ」
「自重して! 物には限度があるわ!」
「イブよ。協力してもらえんか」
「そもそも無理よ! さっき言ったでしょ。肉体と、【生命の波動】は何とかなるけど、魂の結合は私の命と引き換えにしかできないの。1体作ったら私死んじゃうの!」
「【魂】は余が何とかする。イブは動物の亡骸を元に肉体を造り、魔力に反応する鉱石に【生命の波動】を付与するだけでいい」
「それならできるかもしれないけど! それは長老から危ないからダメって言われてるの!」
「大丈夫だ。余にはそれの何が危ないのか分かっておる」
「危ないと分かっててやるの?」
「リスクよりもベネフィットが大きい場合に限るがな」
ロイや外洋人がたまに出すこの考え方が私にはよくわからない。
危ないと分かっているような事を、それを承知でなんでわざわざやろうとするのか。
「トラックも無くなってしまったしなぁ……」
ロイは寂しそうにトラックを停めていた場所を見る。
あのトラックは私が作った溶岩の池に沈んでしまい跡形もない。強いて言うなら、固まった溶岩の中に【鉄分】として混じっているぐらい。
ロイはとりあえず終わりと言ってたけど、まだ何かに使うつもりだったのかもしれない。
だとしたらちょっと悪いことをしてしまったかな。
私も肉を食べるために禁忌を犯していたような気もするし、それでロイを止めるのもなんか心苦しい気もする。
「分かった。協力するわ」
「フラー、ありがたい。早速準備をしよう」
「その代わり、それで危なくなったら世界を焼き払うからね」
「エー……、危なくならないように細心の注意を払うとしよう」
…………
小屋の外、背負子でロイの背中に乗った状態で禁術を試す。
ロイが仕留めたイノシシに、鉱石が幾つか置いてある。
イノシシに背を向ける形でロイが座るので、私の目の前に獲物がある。
「ではイブ。頼む」
「やってみる」
獲物の亡骸に触れて、鉱石も巻き込む形で【生命の波動】を送り込む。
長老から教わって以来一度も試したことはないけれど、波動はうまく起動した。
「できたわ」
「ありがとう。これは、うまくいきそうだ」
獲物がピクピク動く。そして、黒い靄を出しながら膨張し、鉱石を体内に取り込んで、形が変わっていく。
ロイが立ち上がって、その【何か】の方を向く。
私からは見えなくなったけど、それが動いている気配がする。
「できたぞ。【魂】を持つ無生物のバケモノ。【魔物】だ」
ロイが身体の向きを変えたので、私にもその【魔物】が見える。
ロイの2倍ぐらいの身長で、黒い靄を纏った二足歩行のおぞましい何か。
この姿、この存在。
恐い。すごく恐い。
「オバケェェェェェェェェ!」
…………
気が付いたら、座敷席の上に寝かされていた。
「オバケ! オバケいない?」
「イブよ。気が付いたか。大丈夫だ【魔物】は村の外だ」
ロイがすぐ傍にいた。
オバケは居ない。
「何なのあのオバケ! 恐いんだけど!」
「死者の【魂】を魔力で動く無生物の身体に憑依させた【魔物】だ」
「ロイは【魂】を動かせるの?」
「そうだな。【転生者】だからか、【大罪人】だからか知らんが、【魂に干渉する力】を使えるらしい」
そんな力聞いたことが無い。
私ですら、命と引き換えに1回しかできないようなことをロイはできてしまうんだ。
ロイは実はすごい人なのかもしれない。
「だったら、ロイは死者の魂と会話できたりするの? あと、あのオバケは喋れるの?」
「まぁ、余なら、意思疎通はできる。が、それは禁忌だ」
「今更でしょ。私も禁忌を犯しちゃったし」
「それは余が頼んだことだ。イイ女はそんな業を背負わなくていい。この世界で禁忌を犯すのは、【大罪人】の余一人で充分だ」
「禁忌を犯してまでオバケを作って、ロイは一体何をしたいの? あと、あのオバケは今何処で何をしているの?」
「山で山菜取りを頼んどる。歳のせいか、毎日山に入るのがちょっと辛くなってきてな」
そういえば、人を雇いたいって言ってたっけ。
あのオバケ大きくて力ありそうだし、仕事頼めるなら確かに便利かも。
これが、リスクよりベネフィットが大きいってことなのかな。
なんかちょっとわかった気がした。
●オマケ解説●
山村跡地で二人きりの自給自足生活。
獲物も山菜もたくさんあるにしても、脚の無い女を背負っての連日の山仕事は50代にはちとつらい。
人を雇いたいとは思っても、なかなか人は集まらないし、集めたら集めたで、その人の分の水や食料や生活インフラも必要になる。
だったら、人を連れてくるよりも魔法で何とかしてみよう。
元・総統閣下が知恵を絞って作り出したのがあのオバケ。
生活感あふれる【魔物】誕生秘話でした。




