5月15日 俺様 悪夢を見た(2.6k)
ユグドラシル王国軍とエスタンシア帝国軍の混成部隊を率いて世界を守るための共同作戦を完遂し、戦果をヨセフタウンの情報部に報告してからあの村の近くに一人戻ってきた俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
破滅の脅威は根絶したけど、世界は平和になっていない。
あの大爆発でできたクレーターのせいで、ヴァルハラ川の下流が干上がって通行可能になっている。
そこを通ってエスタンシア帝国側の武装集団が越境侵入した。
共同作戦を終えた俺達がヨセフタウンに帰った時は、サロンフランクフルトを前線基地にして防衛戦の真っ最中だった。
武装集団はエスタンシア帝国軍が遺棄した兵器を使用しており、対するヨセフタウン側は魔法の火力で迎撃。戦力が拮抗していた。
俺達混成部隊は到着次第ヨセフタウン防衛に加勢。
エスタンシア帝国軍の残存火力を駆使してなんとか武装集団を撃退。
戦闘の中で重傷を負って置き去りにされた武装集団の構成員を拘束して【回復魔法】で治療後に事情聴取をしたら、エスタンシア帝国の南東部都市が魔法を使う暴徒に襲撃を受けて多数死傷者が出たので、その報復に来たとのこと。
もう滅茶苦茶だ…………。
ヨセフタウン防衛を混成部隊に任せて俺はエヴァ嬢救出のためにあの村に戻ってきた。
防衛力としてヨセフタウンに残ってほしいとソンライン市長に懇願されたけど、これだけは譲れない。俺は何としてでもエヴァ嬢を連れて帰らないといけない。
今のエヴァ嬢は外観だけでは【獣人】とは分からない。
だけど暴徒に見つかったら何をされるか分からない。
俺があの村に向かうところはなるべく見られない方がいい。
村に繋がる山道を周囲を警戒しながら慎重に進む。
『【終末魔女】を覚醒させるアホはどこかなー』
何処からともなくエヴァ嬢の声が聞こえる。
「エヴァ嬢! 生きていたのか」
一カ月絶食状態でも死なないエヴァ嬢の事だから自力で井戸から脱出して生き残っていると思っていたけど、改めて声が聞けると嬉しい。
『ワタクシ、酷い目に遭わされましたー』
「すまん。エヴァ嬢! だけど、守るにはそうするしかなかったんだ! 今そっちに行く。俺と一緒に街に行こう!」
『貴方はもう来ないで』
「何!?」
俺が行かなかったらどうするんだ。脚は無いよな。
もしかして【回復魔法】で脚を復元したのか?
今のエヴァ嬢は一体どういう状態なんだ?
『貢ぎなさい!』
なんか、らしくないことを言いだした。
いやそれ以前に、この声何処から聞こえてるんだ?
間違いなくエヴァ嬢の声だけど、姿が見えないし、音、というより、なんか脳内に直接響いているようにも感じる。
『揚げ芋虫、コオロギ素揚げ、乾燥ミールワーム、干し肉、乾パン……』
「待て! メモする! 食べ物だな。とにかく食べ物だな。新鮮な【イワナ】はどうだ?」
『多いからメモして。まずは食べ物よ。でも、今は【イワナ】はいらない。【外洋人】が食べられる、保存が効くものたくさん』
前持ちリュックサックにロクリッジ技師長からもらった思い出のノートが入っていたので、それの続きのページに書いていく。
『あと、えーと、金属パイプ、H型鋼、なんだっけ。金属製の杭、ネジとか釘とか、圧延鋼板の防錆塗装済み。無ければ鍍金でもいいって』
「建材か? エヴァ嬢、それで何をするんだ?」
まさか食べたりはしないよな。
『あとは、移動手段。トラック1両と燃料と、潤滑油と消耗品とか、あるなら重機も欲しいとか』
本当に何をするつもりだ? トラックはあるけど、重機は無いぞ。
もしかしてそこに誰かいるのか?
『まだあるわ。ちゃんと書いてる?』
「書いてるぞ。本当に何するんだ?」
…………
エヴァ嬢の【貢物】の要求は、建材に続き、衣料品や生活資材や水回り関連アイテムや、筆記用具、工作用品、アウトドアグッズ等多岐に渡った。
今では入手が難しい物もあるけど幸いお金はたくさんある。
時間をかければ手配はできるだろう。
『書いた? ちゃんと書いた? 一部でもいいから食べ物は早めに欲しいわ』
「わかった。早めに集めて持ってくる」
食料品ならヨセフタウンで手に入る。
帰ったら手配しよう。
『あと、ここまで来てくれたお礼よ。【招待状】らしいわ。受け取りなさい』
また良く分からない事を言い出した。
と思ったら、視界が真っ白に。
白い光の向こうに何かが見えた。
【戦場】だ。
だけど、俺が見た【戦場】じゃない。
こことは違う世界の【戦場】。
陸も、海も、空すらも戦場にしてしまった、狂った異世界。
そこを駆ける見たこともない【兵器】。
でも、不思議とそれらが何なのか分かる。
被弾した【戦車】の中で焼き殺される戦車兵達。
炎上しながら沈む【輸送艦】の艦内でなすすべもなく溺死する海兵達。
【戦闘機】の中で撃たれて乗機と共に地上に激突する航空兵。
そして、市街戦に巻き込まれて殺される市民達。
それだけじゃない。
罪もない一般市民が拘束され人間とは思えない扱いで【強制収容所】に送られる。
そこでは、ものすごい人数の一般市民が軍人により殺されていく。
痩せ細った女子供の亡骸の山が重機で穴に落とされ埋められていく。
今度は指導者の姿が見える。
壇上で演説する指導者の前に数万人の熱狂する市民。
暴走する民意が戦争と虐殺を肯定して、国を、世界を滅茶苦茶にしていく。
同じだ。
この世界も、あの狂った異世界も。
人と人との殺し合いが止められない。
視界が暗くなる。
見えていた異世界が遠ざかる。
待て! 続きが見たい。
どうやって! 狂った異世界はどうやって争いを止めたんだ!
滅びたのか? 違うだろ!
教えてくれ!
どうやって止めたんだ!
どうすれば止められるんだ!
もう、皆が苦しむところを見たくないんだ!
争わなくたって皆で幸せに生きられるはずなんだ!
俺が何をすればいい? 頼む! 教えてくれ!
止めたいんだ! 俺は、争いを、止めたいんだ!
●オマケ解説●
滅びかけた世界。破滅の脅威を駆逐しても争いは終わらなかった。
指導者を失った国民は国境を越えて【報復の連鎖】を暴走させる。
女に会いに行ったときにオマケで受け取った【招待状】は、異世界由来の【悪夢】を青年の脳裏に焼き付けた。
しかし、青年の望む答えはその異世界も持っていない。
狂ってしまったこの世界。
女との平穏な生活を望む青年は夢を叶えることができるのか。




