終末魔女の覚醒(1.8k)
「何で、こんなことするのかなぁ……」
坊の出産をしようとしていたら、ヨライセンが会いに来てくれた。
もう会えないかと思ってたから、すごく嬉しかった。
だから、出産をがんばろうと、準備を進めてくれている集会場に行こうとしたら、後ろから両脚を斬られた。
気が付いたら、【井戸】の中に吊られていた。
「よりによって、私をここに入れるなんて……。一番やっちゃいけないことなのになぁ」
この【井戸】はただの【井戸】じゃない。
この世界の力の源であり、原住民と呼ばれる【鬼人】【獣人】【エルフ】の発生源。
【聖域】とも呼ばれている。
そして、この世界が狂ってしまった時に、全てをやり直す裁きを下すための【鍵穴】でもある。
その【鍵】の役割を預かっていたのは、私。
それが、私がこの村から離れることができない理由。
長老からこの役割を受け継いだ時に聞いていた。
世界に狂気が満ちた時、【鍵】である私が【鍵穴】であるこの【井戸】に入ることで、狂った世界を裁く役割を担う【終末魔女】が覚醒し、全世界を焼き払う力である【最終魔力】が解放される。
そんな役割を担いたくはなかった。
でも、世界が混乱する中で、【鍵】は【鍵穴】に入れられてしまった。
そして、【鍵穴】のすぐ近くで、狂った殺戮が起きてしまった。
裁きの条件を全て満たしてしまった。
終末魔女の覚醒。
最終魔力の解放。
私は、【終末魔女】として、世界を見通す能力と、世界を焼き払う破壊力を手に入れてしまった。
坊が生きるこの世界を焼き払いたくない。
だけど、世界を見通す能力が、私の悲願を否定する。
外洋人達は、技術の力を過信して大地を汚染した。
そしてついに、魔法の力の使い方を間違えて、大惨事を引き起こした。
さらに、それを原住民のせいにして、私達の村まで焼き払った。
そして、あの男。
信じていたのに、大好きだったのに。
悲願を果たそうとした直前で、私を傷つけた。
許せない。
外洋人達は、私達を焼き払っただけでは飽き足らず、今度は世界中で外洋人同士で殺し合いをしている。
産まれた坊が安全に生きられる場所は、この世界にはもう無い。
悲しいけど、世界は作り直すしかない。
【終末魔女】の役割を果たす。
【最終魔力】で、世界を溶岩の海に沈める。
全部やり直す。
今の私ならできる。
狂った世界を焼き払い、新しい世界の礎とする。
世界中の大地の底に漂う魔力の元に呼びかける。
「これで、全部、終わらせる……」
私のお腹の中で坊が動き、同時に脳裏に声が響く。
(生きたい)
「坊なの?」
坊がお腹の中で激しく動いている。出たいのかもしれない。
でも、出ても、もうこの世界で生きることはできない。
この世界に、坊を守ってくれる人は居ない。
「ごめん。無理なの。ここで産むことは、もうできない」
(生きたい!)
世界を焼き払ったら、私も一緒に燃え尽きる。
それが【終末魔女】の定め。
ここまで大きくなってくれた坊を巻き込みたくない。
だけど、この世界はもう終わり。
「次の、新しい世界で会いましょ……」
(生きたい!!)
ザシュッ ベリッ
激痛と共に、お腹から血が噴き出す。
割烹着のお腹の部分、布を足した部分に切れ込みが走る。
「!! 坊!? 何を!」
バリッ バァン
私のお腹から子宮が飛び出して、【井戸】の中に落ちていった。
「…………」
身体が軽くなった。
穴が空いたお腹から、私の内蔵が見える。
出血は止まった。
井戸に吊るされた私は、身動きが取れない。
「坊」
井戸の奥に呼びかける。
当然返事は無い。
あんまりな状況で、言いたいことが沢山出てくる。
「胎児が魔法を使うなんて、初耳よー……」
「出方が……、間違ってるよー……」
「大きくなっても、悪気なくズレた事をしそうで、なんか、すごく心配よー……」
「貴方は、どう考えても、父親似よー……」
脚を斬ったり、お腹を斬ったり。
この親子は揃いも揃って、私から大切な物を奪っていく。
私は泣いた。
井戸に吊るされたまま泣いた。
流した涙が井戸の中に落ちていくのが見える。
もうイヤだ。
何もかもイヤだ。
今日は疲れたから、もう寝る。
明日の夜明けが、この世界の終わりだ。
●オマケ解説●
あの【井戸】は、やっぱり普通の【井戸】では無かった。
このファンタスティック世界の中心であり、詰んでしまった場合の再起動を行うための【鍵穴】でもあった。
胎児が魔法を使うってどうなんだ。
そんなことされたんじゃ、母親は生きた心地がしないだろう。
そうは言っても、世界はこの坊に救われたわけだけど。




