4月29日 俺様 脚を斬った(2.8k)
ユグドラシル王国軍と、エスタンシア帝国軍を率いて、世界を守るための共同作戦を指揮する俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
部隊での渾名は【ヨー隊長】。
階級は無いけど、作戦立案者として隊長を務めている。
両軍共に配置について準備は完了。
日没と同時に作戦を開始するため、【大剣】を持って一足先にエヴァ嬢の村に来た。
夕日に照らされた芋畑跡地で、エヴァ嬢は立って月を見上げていた。
大きく膨らんだお腹を抱えて、夕日を浴びて空を見上げる姿は綺麗だった。
「エヴァ嬢」
「あ、ヨライセン。来てくれたの」
俺を見るエヴァ嬢。
顔つきが何となく大人びている。
何があったんだろう。
「嬉しい。もう会えないと思ってた……」
「はっはっはっ。何を言ってるんだ。俺達ずっと一緒だろ」
「……もしかして、ヨライセン……」
怪訝な表情で俺を見上げるエヴァ嬢。
マズイ。これからしようとしている事が、バレたか?
「エヴァ嬢。【結婚】しよう。そして街で暮らそう。いい街があるんだ」
この村ではもう暮らせない。
エヴァ嬢をヨセフタウンに連れていく。
俺はエヴァ嬢だけ守ればいい。
この状況で今の俺にはそれしか守れない。
「フフフッ。そう。知らなかったんだね……。フフフッ」
「エヴァ嬢? どういうことだ?」
「ゴメン。私、今夜、坊を産むの。集会所でみんなが待ってる」
「今日なのか。今日じゃなきゃだめなのか?」
「そう。坊はもう待てないし、今夜は満月で天気もいい。最高の条件が整ってる」
俺にとっては最悪の条件だ。
俺が隊長として指揮する今日の作戦。
日没と同時にエスタンシア帝国軍が村全域に【榴弾砲】を撃ち込み破壊。
俺が率いるユグドラシル王国軍が救助隊に扮して侵入し生存者を処分。
原住民と外洋人は共存できない。
だからこの作戦は止められない。
俺は作戦指揮をしつつ、両軍に見つからないように、村からエヴァ嬢だけを連れ出す。
何があっても今夜エヴァ嬢を村に居させるわけにはいかない。
「エヴァ嬢、街の病院で出産しないか? いい病院があるぞ」
「ダメなの。私はここで産まないといけないの」
何故だ。
どうすればいい。
どうすれば、エヴァ嬢をここから連れ出せる?
「私は、今夜ここで悲願を果たすの。これもヨライセンのおかげよ。ありがとう」
エヴァ嬢は集会所に向けてゆっくりと歩きだした。
もう日が沈む。
エヴァ嬢の背中が離れていく。
どうすればいい。
このまま行かせたらエヴァ嬢は【榴弾砲】で殺されてしまう。
そして、膝丈の割烹着下から伸びる獣脚。
エヴァ嬢を無理矢理捕まえて部隊に戻ったら、あの獣脚を見られてしまう。
原住民根絶作戦を実行中の部隊にエヴァ嬢の獣脚を見られるわけにはいかない。
見つかったら確実に殺されてしまう。
もう作戦開始時刻は近い。
連れ出したとしても、何処かに隠す時間も無い。
あの獣脚。
あれさえどうにかできれば、エヴァ嬢の風貌は外洋人の少女に近い。
脚、脚さえ、どうにかできれば。脚、脚……。
そうだ、父さんから教わった超理論がある。
【脚なんて飾りだ】
それだ。今は、それしかない!
脚が無くても生きていける。俺がエヴァ嬢の脚代わりになればいい!
「すまん! エヴァ嬢!」
「えっ?」
…………
「ヨー隊長。作戦第二段階完了です。【獣人】全員死亡しました」
「あぁ、終わったな……」
【榴弾砲】の一斉射で、村全域を破壊。
生き残った獣脚男を集めて、銃殺。
【獣人】は外洋人と違って【回復魔法】が使えるから、最初の一撃で殺さないといけない。
ユグドラシル王国軍も、エスタンシア帝国軍も、その手法をよく研究して訓練していた。
種族にもよるが【獣人】は真後ろの注意力が低い。
だから、後ろから忍び寄って至近距離から拳銃で後頭部を撃つ。
これが【獣人】相手の戦い方。
俺の姿を見て無警戒に寄って来る獣脚男達を、隊員が後ろから撃つ。
そんな方法で【榴弾砲】の砲火で生き残った獣脚男達を全員殺害。
かつて一緒に楽しい時間を過ごした獣脚男達。
そんな彼等の亡骸が俺の目の前に転がっている。
「作戦は、第三段階に移行。デニム副隊長。全員で燃料油散布を頼む」
「了解です。隊長は?」
「俺は、もう一度村の外周部を確認する。着火までに戻る」
「了解しました。お気を付けて」
作戦の第三段階として、村と彼等の亡骸を焼き払う。
隊員が燃料油を撒いている間に俺はエヴァ嬢を回収する。
俺は、【大剣】でエヴァ嬢の両脚を斬った。
そして、失神したエヴァ嬢の両脚を縛って止血したのち、エヴァ嬢の胸と腰のあたりをロープで縛って、神社の裏の【井戸】の中に吊るした。
【榴弾砲】の破壊力から守るためだ。
これからエヴァ嬢を吊り上げて、攻撃に巻き込まれた外洋人の避難民と偽って街まで連れ帰る。
【榴弾砲】の爆発に巻き込まれて手足を失った【軍人】は多い。だから、両脚を失ったエヴァ嬢もそう説明すれば納得してもらえるだろう。
神社の跡地に近づく。
建屋は全壊して、あちこちで燃えているが、【井戸】は原型をとどめている。
中に吊るしたエヴァ嬢も生きているに違いない。
バン バン バン
背後から銃声。慌てて振り向く。
【獣人】の生存者は居ない。もう撃つ必要は無いはずだ。
バン バン バン バン
「やめろジーン! 何をしている! 撃つな!」
「動いた! 今、動いたんです!」
デニム副隊長と、新兵の声。
この隊は、副隊長以外は志願兵の新兵で今回が初の実戦。
まさか、新兵特有のアレか!
バン バン バン
「命令だ! 撃つな! もう死んでる! 死体は動くことがあると教えただろ!」
「こっちも動いた! 殺される! うわぁぁぁぁぁぁ!!」
バン バン バン バン ボッ
作業している部隊のあたりから火の手が上がる。
拳銃の火が散布した燃料油に引火したのか!
「馬鹿野郎!」
「わぁぁぁぁ! 熱い! 熱い!」
「隊長! ヨー隊長!」
なんてこった!
バン バン バン バン バン
「ヨー隊長! ヨー隊長!」
まだ撃ってる。デニム副隊長、新兵を抑えられないのか!
マズイぞ。
この状況でエヴァ嬢を連れ出したら誤射されてしまう。
エヴァ嬢の状態は気がかりだけど、ここは撤退するしかない。
この村を、ここの【獣人】を根絶した事実を世界中に周知させないと、エヴァ嬢を守ることはできない。
そのためには部隊を無事に撤収させる必要があるんだ。
「副隊長、今行く! 作戦は完了! 全員撤収だ」
部隊の方に駆け足で戻りつつ【井戸】の方を振り向くと、【井戸】のあたりが薄赤色に光っているのが見えた。
それを見て、俺はこの世界に対して取り返しのつかないことをした。
そんな気がした。
●オマケ解説●
【戦時伝令使】として戦場を駆けた経験。
本当に守りたいものの確信。
そのために、不要な物は捨てる覚悟。
そして、父親から最期に教わった、殺しの実践経験。
青年は【軍人】以上に優れた【軍人】になっていた。
経験不足な軍人達を率いて世界を守るための作戦に活躍したけれど、そこには父親譲りの【ダメ行動癖】がちょっと混じってしまっている。
そして、訓練不足でやらかす新兵。
死体を何度も撃ってしまう、その心境を分かりやすく説明するなれば
【部屋の中に現れたスズメバチに殺虫剤をかけて落としたけど、床でピクピク動いている姿を見るとまた飛び上がって襲い掛かってきそうで怖いので、玄関から持ってきた安全靴を室内で履いて、何度も何度も原型がなくなるぐらいまで踏みつぶして、それでも直接触るのが怖くて、ちりとりで床から剥ぎ取った後、屋外に残骸を撒いた時の心境】
だろうか。




