3月18日 俺様 父を殺した(5.8k)
ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】として、中央ヴァルハラ市から重要な手紙を運んできた俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
今回ばかりは、俺も本当に死ぬかと思った。
3月10日夜に中央ヴァルハラ市で手紙を受領。
速達扱いでは無かったから、一泊して翌日夜明けと同時に出発。
駆け足で首都に向かっていたら、突然背後でとんでもない大爆発。
衝撃波に巻き込まれて空高く飛ばされ、地面に落ちたと思ったら空から溶岩の塊が大量に降ってきた。
無我夢中で全速力で逃げ回ったら、目的地と逆方向のヨセフタウンに来てしまった。
大地震の発生でヨセフタウン市内が大変な状況になっていたので、【戦時伝令使】の仕事はあったけど、消火活動や救助活動に参加した。
洗車パイプで放水したり、瓦礫を持ち上げたりと、俺は災害現場で重宝された。
翌日ヨセフタウンを出発して首都を目指したら、途中の街が燃えていたので、そこでも消火活動と救助活動。
避難所で飲用水が不足していると言われたので、瓦礫の中から使えそうな金属タンクを掘り出して、洗車パイプで洗った後で水で満たしたら喜ばれた。
洗車パイプの水を飲んだことは無かったけど、街に居た水道技術者の人に調べてもらったら、飲んでも問題ない水とのことだった。
経路上の他の街でもそんなことを繰り返して、やっと首都に着いたと思ったら、王城区画の外側で暴動が起きていた。
王城区画を囲む城壁の門が全部閉鎖されていたので、反則技だけど裏口のあたりから城壁を飛び越えて侵入。
ユグドラシル王国軍の本部に行ったら、留守番をしていた王宮メイドの方に、ダグザ大佐は正門付近に居ると言われて王城区画の正門に急行。
今に至る。
「大佐! これは一体どんな状況なんですか?」
「ヨライセンか! 良かった。生きていたか!」
ユグドラシル王国軍のメンバー8人で、堀の向こうの暴徒からの投石に対し、鉄の盾と放水銃で応戦している。
応戦している【軍人】は全員、腕や脚の一部を欠損しており、義手や義足を装着していた。
「大佐! 皆! そんな状態で無茶ですよ! 病室に戻ってください!」
「王城区画の防衛が今の俺達の任務だ。【軍人】の敵前逃亡は重罪だ」
大佐も右脚と左腕と左目を失っている。
義足を装着しているけど、とても戦えるような状態じゃない。
「他に動ける人は居ないんですか?」
「ヨライセン。王城に【軍人】はもう俺達しか居ないんだ。なぁに、守るべき国民の為になら【脚なんて飾り】だ!」
「なんなんですかその超理論。それに、これで何を守っているんです?」
ガン ガン バスッ キン
頭上を何かが掠めて、城壁に当たった。
同時に、堀の向こうで暴徒が何人かが堀に落ちた。
激しく出血しているようで、落ちたところから堀の水が赤く染まる。
「ヨライセン 伏せろ! 【機関銃】だ!」
「なんで、暴徒がそんなものを持ってるんですか!」
ガン ガン ガン ヒュッ ガン ガキン バシュッ
大佐の奥に居た【軍人】の頭が吹っ飛んだ。
あんまりな光景に、思わず目を逸らす。
「エスタンシア帝国軍が放棄した武器を奪取したようだ。見ろ。訓練受けてない素人がデタラメに撃つから、味方を巻き込んでる」
確かに、銃声がするたびに、堀に人が落ちていく。
ラグーンシティで大火力魔法の攻撃を受けた時。エスタンシア帝国軍はその場に武器を捨てて撤退した。
それが暴徒の手に渡って、こんなことになるなんて。
バン ドーン ガシャーン
暴徒の向こう側、中央通り沿い遠方で爆発。
その近くには、エスタンシア帝国軍の【榴弾砲】があった。
「大佐! 暴徒が【榴弾砲】を動かしています!」
「馬鹿共め! 使い方も知らんくせに扱うから、発射薬を誤爆させたんだな」
「発射に成功したら危険です! 退きましょう。このままじゃ全滅です」
「背後は王城だ。もう退くところは無い。城門閉鎖!」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ ガシャーン
大佐の号令で、俺達の背後の城門が閉じられた。
本当に、退く場所が無い。
城門を閉じた【軍人】がこっちに来た。
彼も左腕が無い。
「ダグザ大佐、もはやこれまでのようです」
「チャーリー中尉。今までよくやってくれた。ありがとう」
ドガン
「榴弾! 来ます!」
暴徒と対峙している【軍人】の声。
「ヨライセン! 俺を担いで、城壁上まで跳べ!」
…………
「大佐。これは、【戦時伝令使】のルール違反じゃないでしょうか」
ダグザ大佐の命令で、俺は、大佐を担いで城壁上まで跳んだ。
直後に、榴弾が着弾して爆発。
弾種は【焼夷榴弾】だったようで、城壁下は激しく燃えている。
命令とはいえ、戦況に関与するのは【戦時伝令使】の規定違反だったはず。
「ヨライセン。貴様を【戦時伝令使】から解任する。例の鞄を焼却しろ」
「大佐……。了解です」
俺は、前持ちリュックサックから【黒い鞄】を取り出して、発火装置を作動させて燃やした。
「今まで、よくやってくれた。ありがとう。そして、すまない……」
「大佐? 顔色が悪いですよ」
「貴様に担がれて跳んだ時に、榴弾の破片を浴びた。これは、内蔵をやられたな」
城壁上の通路に座るダグザ大佐の下に鮮血が広がる。
「ヨライセン。最期に、貴様に伝えておくことがある。この世界の、本当の歴史をな」
「本当の、歴史?」
「貴様の読んだ資料には、ユグドラシル王国は原住民との融和を選んだと書いてあっただろう。だが、それは嘘だ」
「えっ?」
「ユグドラシル王国も、原住民を滅ぼそうとしていたんだ。エスタンシア帝国とは別の方法でな」
大佐から聞いた、本当の歴史は酷いものだった。
ユグドラシル王国が、建国以来密かに続けてきた原住民根絶政策。
通称:【クロワッサン計画】
原住民の女を外洋人の街に出稼ぎとして迎え入れ、出産適齢期の間、原住民の男達から離すことで、出産育児を阻止して根絶する。
そのために作られたのが、この首都。
原住民の集落は、山間部や沿岸部に点在したので、そこから遠い内陸部に原住民の女性が好みそうな街を作ったそうだ。
「仕事はそんなに出来なかったと聞くが、それでも、褒めて、おだてて、高い給料を払って。街で、食べるもの、着る物、贅沢三昧させた。男達のところに帰さないためにな」
「それは……。すごく、お金がかかったのでは?」
「俺達【カブライ人】の女性は、安全に子供が産めるのは18歳からせいぜい36歳ぐらいまでだ。だから、浪費も数十年で決着が付くと思っていた。だが、誤算があった」
「大佐、【カブライ人】って何ですか?」
知らないことは、その時に聞いておかないといけない。
俺もさすがに学習した。
「原住民が、【外洋人】と呼んでる俺達の自称名だ。もうあまり意味も無いが、覚えておいてくれ」
「わかりました。そして、その誤算というのは何でしょう」
「原住民はな、カブライ人に比べて長寿だったんだ。原住民の女共は、50年経っても、100年経っても、若い娘の姿で、街で贅沢三昧を続けた」
知らなかった。俺もシーオークの村で純血のシーオークと暮らしていたけど、彼等に歳を聞いたことは無い。
エヴァ嬢の村の獣脚男達もだ。エヴァ嬢は年下だろうけど、獣脚男達は百年以上生きているのかもしれない。
「俺達の祖先も、原住民が恐かったんだろう。強靭な肉体と高い身体能力、長い寿命に、俺達には習得できない【魔法】の力。あらゆる点で、生命として格上の存在。滅ぼしておかないと、子孫の安全を脅かす。何としてでも根絶したいと考えた」
悲しいけど、その考えは、俺にも分かってしまう。
エヴァ嬢の村で何度も殺されかけた。
シーオークの血が混じっている俺だからこそ死なずに済んだけど、外洋人なら死んでた。
しかも、彼等は何の悪気もなくそういうことをする。
それでさらに、寿命も長いとなると、恐いのは当然だ。
「そんな中で【混血者】が産まれた。カブライ人の男と原住民の女で交配が可能だということが分かった」
「逆はだめなんですか?」
「あぁ、カブライ人の女は、混血を身籠ることはできない。多くの女達が、【魔法】を使える強い子供を求めて挑んだが、成功例は無い」
「だが、原住民の女にとっても【混血者】を産むのは難しかった。そしてそれは、俺達にとって好都合だった」
「難しいのが、好都合? どういうことです?」
「異種交配による拒絶反応のようなものだろう。【混血者】を身籠った原住民の女の大半は、出産前に死ぬ。原住民の種族にもよるが、【混血者】が無事産まれる確率は低い。特に【鬼人】はな」
「そんな!」
「俺達は、それを逆に利用した。原住民の女を殺すために」
長年に渡る女達の贅沢三昧で財政的に追い詰められたユグドラシル王国は、早期解決を目指して新作戦を発動。
あまりにも非道な、原住民根絶計画最終作戦。
それの実行拠点。
通称:【ホストクラブ】
全国各地から、原住民の女が好みそうな若い男を集めた娯楽施設。
集められた男達は、原住民根絶の特殊任務を帯びた【軍人】。
遊びに来た原住民女性を言葉巧みに口説いて、交配に持ち込み、殺害する。
そして、もし【混血者】が生まれた場合は、国営の孤児院で養育する。
「【獣人】と【鬼人】で男の趣向が違ったのでな。首都は【鬼人】用。南東部都市には【獣人】用の【ホストクラブ】があった」
「あった? じゃぁ今は無いんですか?」
「そうだ。10年前に作戦は完了した。街に出てきた【獣人】【鬼人】の女は根絶した」
俺が首都でシーオークの女性に会わなかったのはそういうことか。
【基金】に収入があったのは偽装で、もう、皆死んでいたのか。
エヴァ嬢の村の女性も連絡がつかないと言ってたから、彼女達も皆【ホストクラブ】に通って、死んでいたのか。
そして、エヴァ嬢だけは、街に出なかったから生き残ったのか。
「【鬼人】の女は、好みが激しくてなぁ……。でも皆本当に、イイ女だった」
「大佐。もしかして、その【ホストクラブ】で働いていたんですか?」
「そうだ。【鬼人】の女共は、文武両道のでかい男が好みらしく、国内から総勢14人選抜してきたが、こぞって一番手の俺ばかり求めてきた」
大佐が各方面で優秀だと聞いていたけど、本当に国内一だったんだ。
「殺すため、滅ぼすため、何十人も抱いた。俺達の子孫の安全を守るため、【軍人】の仕事と割り切って、【俺の子供を産んでくれ】と、騙して、何度も」
「俺は、本当に【生物兵器】だったんだ」
ミッチェル軍曹が言ってた酷い渾名。
たぶん誰も真相は知らなかったんだろうけど、根拠はあったんだ。
「そして、皆、死んだ。【独身寮】で冷たくなっていた【鬼人】の女の亡骸を、専用の火葬場に運んだ。腹が膨れていた亡骸もあった。母子ともに死んでいた」
「【鬼人】の身体は頑丈で、なかなか燃えない。火力強化した専用の火葬場で、4日かけて燃やした。俺は、毎回、泣きながら見届けた。皆、俺にはもったいないぐらいイイ女だった……」
大佐の出血が増えている。顔色がさらに悪くなってきた。
でも俺は、【回復魔法】は使えない。
多分、これが最後だ。
話せなかったことも全部話して、聞きたいことは全部聞いておこう。
「大佐、俺は、【鬼人】のシーオーク族と外洋人の混血なんだ。皆死んでたら、俺は居ない。どういうことなんだ」
「……19年前。俺の抱いた【鬼人】の女が、一人だけ行方不明になった。おそらく、貴様の母親だ」
「じゃぁ、大佐は、俺の父親」
「今まで似てると言われることは多かっただろう。つまり、そういうことだ」
バン バン バン カン ビシッ ガン
俺達の居る城壁の下側に、暴徒達の撃った【機関銃】が当たる音。
【焼夷榴弾】による火炎は未だに燃えている。
「ヨライセン。ここでの仕事はもう終わりだ。貴様はもう自由だ」
「俺は、これから、どうすればいい?」
「守りたいものがあるんだろう。貴様ならできるはずだ」
「守りたいものはある。だけど、どうやって守ればいい? 俺は、仕事はちゃんとした。だけど、こんなことになった。教えてくれ、大佐、いや、父さん」
「貴様に、そう、呼ばれる日が来るとはな」
大佐の出血は止まらない。顔色も青ざめてきた。
もう、時間が無い。俺では助けられない。
「守りたいものは、選べ。いくら貴様でも、全てを守ることは……できん。本当に守りたいものを選べ。そして、それ以外は……、捨てろ」
「捨てるって……」
「捨てるのは……、殺すということだ。今みたいな状況で、全部を守ろうとしたら、全部を失う……。本当に守りたいもの以外は、殺す覚悟も必要だ」
酷い考え方だ。
だけど、今の俺は、悲しいけど分かってしまう。
王城は暴徒に囲まれて攻撃を受けている。彼等はもう説得では止まらない。
城を、城の中に居る誰かを守るには、彼等を殺すしかない。
もし、襲われているのがエヴァ嬢の村だったら。
誰かが俺のエヴァ嬢を殺そうとするなら、俺は、そいつを殺してでもエヴァ嬢を守らないといけない。
俺は、人を殺したことが無い。
腕力はある。外洋人の脆い身体を砕くのは簡単だ。
でも、その時に、俺にそれができるのか?
「ヨライセン。俺のホルスターに拳銃がある。それで、俺を殺せ」
「父さん! 一体何を!」
「父親として、最初で最後の教育だ。誰かを守りたいとき、一瞬の躊躇が、一生の後悔にならないようにな」
「俺には、できない……」
「頼む。もう、苦しいんだ……。内臓が破れて、糞が血に混じって身体を腐らせてる。楽にしてくれ。お前の手で、俺を、イイ女の所に、送ってくれ」
俺は、大佐のホルスターから拳銃を抜いた。
駐屯地に居た時に、大佐から使い方は教わった。
射撃は下手だったけど、この距離なら外さない。
「……俺の死体は、城壁下の炎の中に、仲間達の所に落としてくれ」
「わかった」
「…………ここを離れる前に、王城区画内の博物館に寄ってみろ。2階の展示室だ。閉館中だが、貴様なら、壁を壊して入るぐらいはできるだろう」
「わかった。行ってみる」
「俺は、俺が騙して殺したイイ女達に、詫びてくる。ここで貴様に会えて、貴様が生きていて、本当に良かった……。 ヨライセン、頼む」
父さん。
シーオーク族の女は、男以上に嘘を見抜く。
騙す事なんてできないんだ。
彼女達が、自分が死ぬようなことした理由は分からない。
でも、父さんの、その【優しさ】は見抜いていたはずだ。
●オマケ解説●
誰も殺さずに滅ぼす方法。
女を男から引き離して、子供を産ませない。育てさせない。
女の出産可能期間は20年も無いから、徹底すれば20年程度で民族を滅ぼすことができてしまったりする。
そして、褒めたりおだてたり贅沢させたりと、無駄金覚悟すれば女を操るのはすごく簡単。
人口爆発の抑制策として実際に効果を発揮している、実績のある手法です。
そして、父と子の邂逅と別れ。
父を殺した青年の行く先は?
それにしても、この親子の共通点である【ダメ行動癖】は、遺伝か?




