憎しみの光(1.4k)
3月11日 中央ヴァルハラ市
ヴァルハラ川中腹にて発生した巨大な閃光と噴煙は、エスタンシア帝国北端からユグドラシル王国南端までの広い範囲で視認された。
一部の目撃者より【憎しみの光】と呼ばれたこの現象は、ヴァルハラ川沿いにある第一汽力発電所の4号機の爆発によるものであった。
【魔力発電ボイラー】の【魔力熱源素子】が【臨界点】を越えたことで、熱出力が暴走。冷却が追いつかずに、【炉心溶融】が発生。
炉心に装填された【フロギストン吸蔵合金】の結晶が崩壊したことで、吸蔵されていたフロギストンが一斉に放出。
その強力な流れに反応して【魔力熱源素子】が莫大な量の熱エネルギーを生成し、炉心は爆発。
爆発の威力は凄まじく、中央ヴァルハラ市と、対岸にあるエスタンシア帝国の都市は瞬時に蒸発、ヴァルハラ川流域に巨大なクレータを穿ち、その上流側では持ち上げられた土砂が川をせき止めて、災害ダムを形成した。
そして、この爆発の影響で広範囲に大地震が発生。
昼食を調理している時間帯であったことも災いして、ユグドラシル王国、エスタンシア帝国の各都市の住宅街から出火。
同時に発生した大停電の影響で、消火設備が機能しなかったことにより、火災は広範囲に延焼。両国の都市内で多くの死傷者が出た。
しかし、被害はそれだけにとどまらなかった。
大火力魔法の戦力で両軍が対峙していた場所で突如発生した大爆発。
双方の前線部隊が相手側の先制攻撃であると誤認。
それぞれが、大火力魔法による報復攻撃を実行。
これにより、東ヴァルハラ市、西ヴァルハラ市を含む焼け残ったヴァルハラ川沿いの都市及び集落も消滅。
沿岸部近くにあった【鬼人】の集落までもが消滅した。
両国の首脳部が集まっていた中央ヴァルハラ市が最初に消滅したことで、両軍の指揮系統は全く機能せず、攻撃停止命令を出すことも伝えることもできなかった。
報復攻撃の応酬は、両軍の前線部隊が消滅するまで続いた。
3月13日 ユグドラシル王国首都
ユグドラシル王国首都は地震と火災で大きな被害を受けた。
本来であれはユグドラシル王国軍が災害救助隊を編成して住民を救助し、避難所を設営して傷病者の治療にあたるはずであった。
しかし、緒戦の惨敗とラグーンシティでの市街戦により軍は壊滅しており、残った人員では消火活動も救助活動もできなかった。
電力、水道の生活インフラを失い困窮していた中での大災害。
救助も支援も出せない国に対する不満が爆発し、生き残った住民達は暴徒と化して王城区画を取り囲む事態に発展した。
ユグドラシル王国軍の残存兵力は暴徒から王城区画を守るために動員され、本来守るべきである自国民に対して銃を向ける事になった。
3月14日~3月17日 ユグドラシル王国南西部
川沿いの都市群を焼き払った大火力魔法の威力を目の当たりにして、一部のユグドラシル王国国民は原住民の存在自体が危険と判断。
エスタンシア帝国軍が放棄した兵器を入手した集団が、独断で南西部の山岳地帯に点在する【獣人】の集落を襲撃。
外洋人に対する警戒心を持たない【獣人】は、食べ物で誘い出して背後から銃撃するという戦術に対しては脆く、多くの集落が消滅した。
外洋人の入植から238年。
世界は、滅亡の危機に陥った。
●オマケ解説●
双方が大火力魔法という【最終兵器】を持った状態で対峙していたど真ん中で、正体不明の桁違いの大爆発。
まぁ、殺さなきゃ殺されるような異常な緊張感の中で、こんなことが起きたら暴走だってしますよ。
軍事力の均衡による平和って言うのはこんなもん。
張り詰めた風船のように、一点の破壊で全体が弾けてしまう。




