3月 4日 俺様 寝た(1.5k)
ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】の仕事でエスタンシア帝国軍に随伴し、再度国境を越えて帰ってきた俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
檻に入った獣脚女達による報復攻撃は凄惨だった。
荒野となっているヴァルハラ平野をこれ見よがしに焼き尽くしながら、エスタンシア帝国軍は撤退してきた順路を戻るように南下。
ヴァルハラ川を渡り、再度ラグーンシティ近辺まで進撃したら、大火力魔法の反撃で獣脚女を乗せたトラックを含む1部隊が焼失した。
ラグーンシティ跡地を挟んだデタラメな魔法攻撃力の応酬の後、俺は【戦時伝令使】として4往復ほど【手紙】を運んだ。
双方に多くの犠牲者は出たが、ラグーンシティ跡地を挟んで対峙した状態で一時休戦が成立したとのこと。
俺は久々に休みがもらえたので、エヴァ嬢の村に来た。
エヴァ嬢は、今は食べるよりも寝たいとのことだったので、俺は例のベッドの上でエヴァ嬢と並んで寝ている。
「ねぇ、大きくなったでしょ」
「そうだな。本当に大きいな」
俺の腕枕で横に転がるエヴァ嬢は、俺の脇腹に大きくなったお腹を押し付けてくる。
大きいし、何か固い。そして、熱い。
「【坊】は大きくて、大きくて、強い子なの。最強なの」
「そうだな。エヴァ嬢と、俺の子なら、最強だな」
「あっ。中で動いた。最強って言われて喜んでる」
「そうか」
俺とエヴァ嬢の子。
山を融かすほどの魔法破壊力と、常人離れした身体能力を併せ持つ、最強の子。
そんな存在を、本当に、この世界に産み出してしまって良いのか。
檻の中の獣脚女は、【最終兵器】と呼ばれていた。
俺は遠くからしか見ていないが、大火力魔法で敵部隊を焼き払った後、ご褒美として【イワナ】を受け取って喜んでいた。
そして、大火力魔法の応酬の中、5人居たうち1人は、俺の目の前でトラックごと溶岩の池に沈んだ。
残り4人はどうなったか分からない。
ユグドラシル王国側の【最終兵器】の正体も似たようなものだろう。あの獣脚男達の可能性もある。
でも、彼等が自分の意思で戦争に加担するとは思えない。
なんらかの理由で利用されているだけだ。
俺の子が、【最終兵器】として戦争の道具にされるのは、嫌だ。
俺は、外洋人の街で彼等に混じって暮らしたいと思っていたけど、今は、少し距離を取りたい。
「エヴァ嬢。俺、この村に住んでもいいかな」
「いいよ。そうしてくれると嬉しい」
街から離れて、戦争の影響も受けていないこの村で、エヴァ嬢と【坊】と一緒に暮らす。
その方がいい。
仕事が終わったら、街から離れよう。
村の獣脚男が街に行くのもやめさせよう。買い出しは俺がすればいい。
そしてあの獣脚女も、戦争が終わったらこの村に連れ帰ろう。
外洋人と原住民が共存するには、距離が必要だ。
俺は、この村で【家庭】を作ればいい。
芋畑を作り直して、山で山菜を取って、ヴァルハラ川で魚を獲って、ここなら十分暮らせる。
【坊】がどんな姿で生まれるかは分からない。
だけど、エヴァ嬢の描いた絵みたいな四足獣でもいいように思う。その姿で山の中で暮らせば、外洋人に見つかって【最終兵器】にされる事も無いだろう。
「【坊】、生まれるの、楽しみだな」
「……ふふ。ふふふぅ、うっ、ふふふうぅ……」
エヴァ嬢は、笑うような、泣くような声を出して、俺の服に顔を擦り付けてきた。
ワイズマン博士の言っていた通り、【妊婦さん】は情緒が不安定だ。
俺が安心させてやらないといけない。
可愛いエヴァ嬢の頭を撫でる。
触り心地のいい黒髪の感触が手に伝わる。
「大丈夫だ。村も、エヴァ嬢も【坊】も俺が守ってやる」
●オマケ解説●
魔法の力が戦争で有効であるということを、二つの国は知ってしまった。
この歴史の流れは、【家庭】を夢見た若者の未来を大きく狂わせることになる。
【妊婦さん】は情緒不安定になることもあるけど、全ての行動をそれで片づけてはいけけません。
情緒不安定なれども、一つ一つの感情や行動には、ちゃんと意味はあるんです。




