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 2月24日 俺様 地獄を見た(2.4k)

 ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】の仕事でエスタンシア帝国軍に随伴して国境を越え、カランリア要塞まで来てしまった俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 この2週間は【地獄】だった。


 2月10日、エスタンシア帝国軍はユグドラシル王国北西部都市ラグーンシティに侵攻。

 先発隊が僅かな抵抗を排して都市北部を制圧したところで、退路と補給路を寸断されて都市内で包囲された。

 一部の住民が残る中での市街戦で、火力差を封じられたエスタンシア帝国軍は苦戦するも、5日間の激しい戦闘の末、ラグーンシティを制圧。


 双方に多数の犠牲者が出た。

 戦場で孤立している部隊に戦闘終結を知らせるのも【戦時伝令使】の仕事なので、破壊された市内をくまなく歩きまわった。


 双方の生存者の救助と、遺体の回収を行った。

 損傷の激しい遺体も多かった。

 残念ながら、この戦いでは民間人からも犠牲者が出ていた。


 ラグーンシティは市街戦で生活インフラが破壊されてしまったため、残っていた住民は各々の希望に合わせて、西ヴァルハラ市と首都に疎開させた。

 この戦いで、川沿いの発電所と首都の間の送電線も破壊されたので、首都は停電してしまった。



 その後、2月18日。

 制圧したラグーンシティ跡地にて、有線電信網の延長工事と陣地構築をしていたエスタンシア帝国軍は、突如【火魔法】で攻撃を受けた。


 地面にいきなり溶岩の池ができる、【火魔法】とは呼べないようなあの魔法だ。

 【榴弾砲】3門と、弾薬と、兵員5名が巻き込まれて焼死した。

 魔法の力が、戦場に持ち込まれたのだ。


 師団長の機転で、武装も資材も放棄して兵員輸送車で総員退避。

 炎上するラグーンシティから脱出した。


 魔法による攻撃は追いかけてきたので、国土西側に展開していたエスタンシア帝国軍は武装投棄して全軍撤退。

 川を渡って、荒野となっていたエスタンシア帝国側のヴァルハラ平野を横断しながら北上。

 魔法による攻撃に追い回されながら、エスタンシア帝国首都のカランリア近くにある地下要塞まで撤退。


 今に至る。


「ヨー大使が無事で本当に良かった」

「アレク中尉こそ。無事で何よりです」


 俺は、西側の【検問所】の責任者だったアレク中尉の部隊に、【戦時伝令使】として随伴している。

 ここでの俺の渾名あだなは【ヨー大使】だ。


「魔法を戦場に投入するとは、ユグドラシル王国の政治家も大概狂ってるな。使われた魔法を見る限り、混血者だけでなく、原住民も混じってる」


 それは俺も思う。

 いろいろな【火魔法】で攻撃を受けたけど、特に破壊力が大きい【火魔法】はエヴァ嬢の村の人が得意にしていたものだ。

 エヴァ嬢の村の獣脚男かどうかは分からないけど、それに近い人が居ることは分かる。

 でも、問題はそこじゃないようにも思う。


「アレク中尉。エスタンシア帝国軍の使う【機関銃】や【榴弾砲】も、ユグドラシル王国軍から見たら似たようなものですよ」


 ラグーンシティとその周辺の戦いで、【機関銃】や【榴弾砲】の破壊力は俺も見た。大火力の【火魔法】ほどではないけど、どっちもどっちだ。


「そうか。そうだな……。結局、我々は、また、やっちまったんだな……」

「また? アレク中尉。どういうことです?」


「あー、まぁ、機密なんだが。ヨー大使ならいいだろう」



 アレク中尉から聞いたのは、この地に入植する前の【外洋人】の歴史。

 

 彼等の故郷では、国同士での争いが絶えなかったという。

 戦いのたびに、兵器や戦術を進化させ、戦場は広範囲になり、被害は拡大。


 そんな歴史を繰り返すうちに、世界を滅ぼす威力を持つ最悪の兵器を実戦投入してしまった。

 最悪の兵器の応酬にて、双方で大半の国民が死に絶え、豊かだった国土は人の住めない土地になった。


 生き残った人達は最後の力を振り絞って、多数の【箱舟はこぶね】を創り出し、女子供を乗せて送り出した。

 何処かで生き残ってほしいという願いを込めて。


 そして、その【箱舟はこぶね】の一部が、俺達の祖先の住んでいたこの地に漂着して今に至るとのことだった。


「我々の祖先は、生存の願いを託されて【箱舟はこぶね】に乗った。その子孫である私達が、たどり着いたこの地で、また同じようなことをしようとしている。本当に、やるせないなぁ……」

 アレク中尉は悲しそうにつぶやいた。


 俺は、かける言葉が見つからなかった。


 ワァァァァァァァァ


 地下要塞の入口側から兵士達の歓声が聞こえた。


「やった! 【最終兵器】だ! これで勝てるぞ!」

「反抗作戦だ! 戦場に魔法を持ち込んだ報いを与えてやる!」


 兵士たちの歓声を浴びながら地下要塞の中に入ってきたのは、大型獣用の檻を乗せたトラック数台。

 その檻の中に入っていたのは、膝丈の黒いワンピースを着用した、黒目黒髪の女性。 


 その脚は、黒い毛並みと鋭い爪を持つ獣脚。


 間違いない。

 体格はエヴァ嬢より一回りほど大きいけど、エヴァ嬢の村の女性だ。


 檻の中でしゃがんで、嬉しそうに【鮭】を食べている。



「アレク中尉! 彼女達は一体何です? 【最終兵器】って聞こえましたけど、何をするつもりですか!」

「報復攻撃だ。一線を越えた報いを奴等に与えてやる」


「言ってることとやってることが滅茶苦茶ですよ! また繰り返すつもりですか!」

「同じ失敗はせんよ。今回はヨー大使が居る。うまくやる」


 トラックの荷台に乗せられた檻の中から、獣脚女が俺を見ている。

 エヴァ嬢が大人になったらあんな感じか。


 要塞の中に入ってきたトラックは5台。それぞれに檻が載っていて、中には獣脚女が一人ずつ入っている。


 彼女達に、一体何をさせるつもりだ。

 そして、それで、この戦争をどうやって終わらせるつもりだ。


 俺の夢が。

 【家庭】を持つという、俺の夢が遠ざかるのを感じた。

●オマケ解説●

 目には目を、歯には歯を、破壊力には破壊力を。

 そんな応酬の終着点は、滅亡。


 僅かな生存者が存続の望みを賭けて、子孫達を海原へと送り出す。

 そして、漂着した先で原住民の力を借りて文明を再興。


 それでまた、同じようなことを繰り返す。

 しかも、原住民を巻き込んで。

 

 イイ話っぽくまとめても、こいつら普通に迷惑野郎だぜ。

 

 この迷惑野郎な【外洋人】って、いったいどこから来たのやら。

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― 新着の感想 ―
昨今のニュースを見ていると外洋人の歴史が我々の歴史にしか思えないと感じてしまいました。 獣脚女を連れ出して目には目を作戦なんでしょうか。 ただ言うことを聞いてはくれなさそうな気が。。。まあ、何かを天秤…
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