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 1月18日 俺様 尾行された(2.1k)

 ユグドラシル王国軍の【戦時伝令使】として、東ヴァルハラ市を中心にあちこち走り回っている俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 東ヴァルハラ市に居る時は、おっちゃんが仕切っている【昆虫食販売店】を活動拠点にしているので、なんかこう本当に帰ってきちゃった感じ。


 そして、いつの間にか、東ヴァルハラ貨物駅周辺には変な人達も帰ってきた。


『我々は不当な侵略に断固抗議する!』

『侵略者は出ていけー!』

『ここはユグドラシル王国固有の領土であーる!』


 拡声器でもっともらしいことを言っているけど、うるさいだけで別段何かをするわけでもない。だから、軍人さんも相手にしていない。


 店には【軍人】さんが常駐していて、おっちゃんの出すコーヒーを飲んでくつろいでいるのも以前と同じ。

 変な人に絡まれた街の人が店に逃げ込んでくるのも同じ。


 変わったところといえば、首都への配達の帰りに俺を尾行してきたオッサンがメンバーに加わったこと。


「戦争中なのに、平和な街だな」

「なんか表現がおかしいけど、同感です」


 首都で演説にヤジを飛ばして袋叩きにされてたオッサン。ユグドラシル王国の議員でカミヤリィ議員というそうだ。

 

「虐殺のぎゃの字もない」

「あったら困りますよ」


 占領地の現実を見たいと言ってついてきた。当初はこっそり越境するつもりだったようだけど、【検問所】で手続きして普通に入れたことに驚いていた。


「占領地で暴行事件とか起きてないのは何よりだ」

「いや、起きてますよ。【軍人】関係ないですけど」


 町に入るなり、カミヤリィ議員は変な人達に囲まれて袋叩きに。

 いきなりあんまりな状態になったので、俺が担いで走ってこの店まで運び込んだ。

 生傷だらけにされたので、俺が応急処置をしてる。


「【回復魔法】使える人は居ないかな」

「以前は居たんですが、魔法適性のある混血者は全員疎開してます」


 街中の病院に【回復魔法】を使える人は居たけど、エスタンシア帝国軍に追い出されて、今は【サロンフランクフルト】の近くの町に居る。

 彼等の【回復魔法】はエヴァ嬢の村の獣脚男達ほど強力な物ではなく、普通の怪我を治すにも時間がかかる物だったけど、街中では重宝されていた。


「お前さん混血者じゃないのか? 【回復魔法】できないか?」

「あれは混血者でもできる人限られるんです。俺は無理です」


 どういう縛りなのか分からないけど、俺は練習してもできなかった。

 【回復魔法】が使える人を街から追い出したのは、エスタンシア帝国軍も気にしているようで、代わりに薬品や医療器材や治療技術を持ちこんで市内の病院の近代化改装を進めてる。


「それにしても、ここに奴等が居るってことは、やっぱり首都の演説はデマだったか」

「あの変な人達は知り合いですか?」

「見覚えのある顔が混じっていた。奴等は【工作員】だ。依頼主は分からんが、首都に居た頃何度も演説で暴行された」


 この人、首都で一体何をしてたんだろう。

 議員さんじゃないのかな。


「とにかく! 占領された都市は平和そのものだ。この事実を首都に伝えないといかん。私は首都に帰る。案内と治療感謝する!」


 スタッ ドドドドドド ガチャ


 一通り応急処置が終わったところで、カミヤリィ議員は【昆虫食販売店】から駆け出して行った。

 俺は許可されていない情報を他言することはできないから、彼がデタラメなデマを払拭してくれるのはすごく助かる。手伝えないけど、陰ながら応援したい。


…………


 しばらくして、カミヤリィ議員はボロボロになって帰ってきた。

 俺は再び応急処置。

 

「畜生! 奴等、私をこの街から出さないつもりだ!」

「護衛が必要なら、いっそエスタンシア帝国軍に頼んだらどうです?」

「そんなことをしたら、私が【スパイ】扱いされる。私の言うことの方がデマ扱いされたんじゃ意味が無い。私はエスタンシア帝国軍と関わるわけにはいかないんだ」


 店の中でくつろぐエスタンシア帝国軍の軍人さん。

 ちょっと距離を置いて見て見ぬふりを貫いている。

 俺と同じで、デマの払拭は応援したいけど、関わってしまうと台無しになってしまう微妙な立ち位置なんだな。


「だったら、俺が首都に手紙を届ければ……」


 エスタンシア帝国軍の軍人さんが首を横に振っている。

 それを【戦時伝令使】の俺がやったらダメらしい。


「議員さん。そんな血まみれで店内ウロウロされたら営業妨害だ」

「おっちゃん」


 店長代理のおっちゃんがカウンターから出てきた。

 カミヤリィ議員も好きで生傷だらけになってるわけじゃないんだから、ちょっとひどくないかな。


「応急処置は私が代わろう。店に居たんじゃ迷惑だから、2階の居室に入ってくれ」

「分かった。すまない店長」


「ヨー坊、しばらく店番頼む」


 おっちゃんはカミヤリィ議員を連れて2階に行ってしまった。

 店番を頼まれた俺は、とりあえずカウンターに立ってみる。


 天井低い。狭い。窮屈だ。


 カウンターの内側にあるおっちゃんの机に、本が置いてあった。


【月刊☆みそじにすと】


 エスタンシア帝国から輸入した変な本。

 こっそり読んでみたけど、何が面白いのかよくわからなかった。

●オマケ解説●

 感情に訴えて、繰り返し繰り返し吹き込めば、大衆はどんなデマでも信じます。

 そうなってしまった大衆の頭を冷やすのは容易ではありません。


 積極的にデマを広げようとする組織が居るならなおさら困難です。

 そして、軍人はそういう時に表立って行動はできない。


 カミヤリィ議員は暴走する【民意】に勝てるのか。

 がんばれカミヤリィ。負けるなカミヤリィ。今日も生傷いっぱいだ。


 そしてあの本。

 ミソジニストというのは女性蔑視の思想を持つ者という意味。

 男性向けの悪趣味なコメディ本です。面白いかどうかは人による。

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― 新着の感想 ―
変な人集団の方が、エスタンシア軍人より、よほどヤバイ人たちですね。(笑) 変な人たちの中の多くは、きっと情報に踊らされてる人たちで、結局本当の仕掛け人、工作員は一部なんでしょうけど、そういう流れは本当…
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