表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/89

 3月 4日 俺様 喰われた (3k)

 西側の山村に【雨乞い】をお願いしに来たら、ベッドに寝かされ【何か】をされて、そのまま寝てしまった俺はシーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


「あ、目が覚めた?」


 外から聞こえる激しい雨音で目が覚めると、同じベッドの窓際にエヴァ嬢が座っていて俺を見下ろしていた。


「あー、【雨乞い】したんだっけ。えらく暗いけど、今は夜か? 俺はどれだけ寝てたんだ?」


 隣にエヴァ嬢が居るのは分かるが、部屋が薄暗くて周りが良く見えない。

 そして、空腹だし、身体がだるい。普段は肉体的疲労感とはおおよそ無縁の生活を送っているが、今は何か変な疲労感が強くて立つ気になれない。


 とりあえず身体を起こしてベッドの上に座る。


「雨雲が厚くて暗いけど、今は昼よ。アナタ昨日の夕方から寝てたの」

「そうか。【雨乞い】は大成功だな」

「ちゃんと目が覚めて良かった」


 なんか意味の分からないことを言われたような気もする。

 まぁそれは置いといて、部屋が暗いと何か落ち着かない。

 俺は暗い所は苦手だ。


「暗くて周りが良く見えないんだが、電灯付けてくれないか?」

「電灯はないけど、明かりはあるよ」


 パッ


 部屋の中が明るくなった。


「どぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 明るくなって【色】が判別できるようになった室内の光景を見て思わず叫ぶ。


 ベッドや壁や俺の身体や服にべったりと血、しかも大量の鮮血が付着している。隣に座っているエヴァ嬢の顔面も血でべっとり汚れており、特に口周りに集中している。


「誰の血だ! ナニが! 一体何がどうなってこんなスプラッターに! 事件が現場で起きてるぞ!」

「アナタの血よ。うっかり大動脈齧ったら噴いちゃって。どうなる事かと思ったけど、目覚めてよかった」


「説明を! 説明を求む!」

「アナタを【生贄いけにえ】にして【雨乞い】しました。ハイ。【生贄いけにえ】を生還させることができるかどうかわからなかったけど、うまくいって安心しました。ハイ」


「俺が【生贄いけにえ】にされたのか! 殺されかけたのか!」

「失敗しても困ったことにはならないとのことなので、思い切りがんばりました。アナタの鎖骨と胸骨はとっても美味でした」


「骨が! 俺の骨が喰えるのか! どんな歯だ! どうなってんだ!」

「こうなってます」 カパッ


 エヴァがこっちを向いて口の中を見せてくれた。

 可愛らしい顔の口の中に大きく鋭い【牙】がある。

 確かに、骨ぐらい容易く砕けそうな禍々しい【歯並び】をしてらっしゃる。


 口を閉じた時にどうやって納まっているのかよくわからないけど、俺は似たようなものに見覚えがある。


「はっはっはっ。猫みたいで可愛いじゃないか」

「ありがとう」


 外洋人の方々が俺達の村に遊びに来た時に、事あるごとにドン引きしていたのはこういうことか。

 自分の常識を超えた物を見るとつい引いてしまう。


 でも、エヴァ嬢にとっては【雨乞い】でスプラッターになるのは当たり前のことなんだな。


 まぁ、部族が違えば常識も違う。

 それだけの事なんだな。


 あんまり深く考えないようにしよう。

 服は後で洗えばいいし。


「かなり大雨が降っているけど、これはどのぐらいの範囲で降ってるんだ?」

「うーん。結構広範囲かな。雨雲は東に流れるから、アナタの村にもたくさん降ると思う」

「それはよかった」


 やった。ここに来た目的は達成だ。雨が止んだら村に帰ろう。


 達成感を感じつつ、同じベッドの窓側に座るエヴァ嬢を見て気になることが出てきた。


「この村ではブーツを脱がずにベットに上がるのか?」

「え? ブーツ履いてないよ」


 そうは言っても、膝丈の割烹着から伸びるエヴァの脚には例の毛深い変なブーツ。

 でも、ブーツの先端を見ると、なんかごつい爪のようなものがあり、なんか微妙に動いている。 


「……もしかして、それが生足なのか?」

「そう。獣人じゅうじんですが何か?」


 なるほど、獣人じゅうじんですか。そうですか。

 部族が違えば特徴も違うと、それだけのことだな。

 俺達シーオーク族も外洋人から見るとこんな感じなのかもしれない。


 俺は混血だからそうでもないけど、村の純血の方々は外洋人から【鬼人きじん】とか呼ばれてへこんでた。


「イイ毛並みだな。尻尾もあるのか?」

「尻尾は無いよ。見せられないけど」


 今日は異文化理解という点でいい勉強になった。この大陸には他にも違った特徴を持つ部族が居るらしいから、いつかあちこち訪ねてみたい。


 でも今日は雨だし、何か身体もだるいからここで休ませてもらおう。

 昨日も泊めてもらったわけだし、もう1日ぐらい頼めるかな。


 そういえば、昨晩はエヴァ嬢とベッドの上で一夜を明かしたのか。

 スプラッターな状態だったらしいから大丈夫だと思うけど、【村の掟】は守らないといけないから一応確認しておくか。


「やたら身体がだるいんだけど、【雨乞い】以外に何もしてないよな?」

「治した後に【子種】をいただきました」


「どぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 やっちゃったー! 村の掟破り!


「アナタが【高性能】すぎて、立てなくなった」

「それで隣に座ってたのか! って、なんでいきなりそんなことするんだ! 出会った当日にする事じゃないだろ!」

「強くて大きい子供産みたいけど、私は村から出られないし、アナタ混血だって言うし、これはチャンスと思い頂きました」


「何なんだよその理屈! 俺達の村ではそういうの掟破りなんだよ! 【既成事実】とか言って、禁忌なんだよ! そういうことしたら俺村から追い出されるんだよ!」

「言わなきゃバレない。大丈夫」

「俺は嘘は苦手なんだよ! 隠せないよ! バレるよ!」


「あー、でも1回じゃ確実じゃないから、来月も来て欲しいかな」

「人の話を聞いて!」


「アナタと私の混血なら最強だよ」

「脚が獣なら頭も獣か! ナニしてくれてるんだ! この小動物娘!」


 ガラッ


「でーす・とろーい!」


 エヴァが突然窓を開けて変な掛け声。

 部屋中が金色に光るのと同時に、周辺から何かがエヴァの方にすごい勢いで流れる感覚。

 

 次の瞬間、轟音と共に窓の外に見える山の中腹で何かが輝く。


「えーと、エヴァ嬢? 今のは一体……」


「…………」

 エヴァ嬢は据わった目線で俺を睨んできた。怖い。


「ただいまワタクシの耳に入った言葉の中にですねー。許しがたい暴言が含まれていたので、つい【穴】を掘ってしまいましたー」


 雨の中、一部崩れた山の中腹で何かが黄色く輝いており、その周辺に雲が発生しつつある。

 遠く離れているけど、熱を感じる。灼熱の溶岩のようだ。


「……えー、申し訳ありません」


「来月も、来てくれるかな?」

「いいともー……」

「分かってくれて嬉しい。やっぱり、話し合いって大事ね」


 これは、話し合いかな?

 まぁそれはいいや。来月ここに来ればいいんだ。

 それよりも気になることはある。


「ちなみに、先程の物騒な【穴掘り】は魔法でしょうか? 俺の知っている魔法と比べると、なんかこう破壊力が桁違いなんですが」

「まぁ、そう呼ばれてるものの一種かなー」


「魔法が使えるなんてすごいじゃないか。使える人少ないから町に行ったら重宝されるぞ」

「そうなの?」

「俺も使えたらなぁ……。さっき凄い勢いでエヴァ嬢の方に何かが流れていったけど、あれがマナなのかなぁ。俺はマナ無いからなぁ」

「んー。さっきので【流れ】を知覚できたなら、使えるよ」

「そうなのか?」


「外雨降っててヒマだし。練習してみる?」


 俺は、【魔法】という職能を手に入れた。

●オマケ解説●

 ヨライセンは17歳の多感なお年頃。いろいろ釈然としない思いはあったけど、溶岩を出されるとそんなことはどうでもよくなる。


 そして、獣人を名乗るエヴァ嬢の脚は、熊の脚だと思いねぇ。

 熊の脚を履いた割烹着姿の小柄な娘がエヴァ嬢だ。


 ちなみに、熊の足の裏って何となく人間に似てる。

 そして、猫の歯並びって実は結構恐い


 どんなふうにスプラッターにしたかは前作参照。


↓第二章 幕間 退役聖女の食物連鎖

https://ncode.syosetu.com/n9274ib/68

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ヨライセン君、なかなかエライのに捕まってしまいましたね。 しかも一回死にかけてますし。(笑) なかなか最初からハードな展開で驚きました。 来月も来ないとさらにエライことになりそうです。 読み進めていき…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ