9月10日 俺様 聞いた(3.0k)
エヴァ嬢を【失言】でものすごく怒らせてしまい、ちょっと落ち込みながらも店の仕事と【伝令使】の仕事を頑張る俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
しょんぼりしているビッグマッチョだ。
「特に根拠は無いんだが、貴様はなにかこう、とんでもないダメ行動をしそうで心配だ」
ソンライン店長が開業した【昆虫食販売店】の店内で、常連客のダグザ大佐から唐突に変な指摘を受ける俺。
「うーん。そう言われると、今までダメ行動をいろいろした気がします」
エヴァ嬢に喰われたり、エヴァ嬢に襲われたり、エヴァ嬢に噛まれたり、エヴァ嬢に追い回されたり、エヴァ嬢に焼かれたり。
どれも、元はと言えば俺のダメ行動が原因だ。
大佐の指摘は当たっているように思う。
「そうだろう。ダメな行動をする前に、分からない事は人に聞いておくのが大事だぞ」
ダグザ大佐は大柄で顔が恐いけど面倒見のいいオッサンだ。
仕事で最近一緒に行動することが多い。実質、今の俺の上司だ。
大佐は街に駐留する部隊の責任者なので、軍関連の情報は大佐の所に集まる。
そこから別の場所への情報伝達は大佐が起点になるので、【伝令使】の俺は大佐に同伴していたほうが仕事上も都合がいいのだ。
「では大佐、聞きたいことがあるのですが良いでしょうか」
「なんだ。言ってみろ」
「【紙の砲弾】っていう本があるんですが、アレは一体何なんでしょう。デタラメ本と思っていましたが、最近微妙に引っかかることがあるんです」
「それを俺に聞くな。俺は【軍人】だぞ」
【軍人】はそういうの苦手なのかな。確かにデタラメとか嫌いそうだし。
別の事を聞こう。
「ユグドラシル王国は、エスタンシア帝国から石油を買ってるから立場が弱いとラッシュ会長は言ってましたが、逆に、エスタンシア帝国で使う金属材料はユグドラシル王国が売ってますよね。それなら対等にならないんでしょうか」
駅で仕事していた時に、南部から来た貨車が地金を積んで橋を渡っていくのを何度も見た。気になったから買ってきた本とかでいろいろ勉強した。
それによると、エスタンシア帝国には金属鉱山が無いので金属資源は全部ユグドラシル王国から買っていると。
「そういうのを【軍人】に聞くな」
これも【軍人】が苦手な事なのか。
じゃぁ別の事を聞こう。
「エスタンシア帝国に小麦を送るのは止められないんでしょうか。駅を囲んでる変な人達もそうですが、首都でも王城周辺で反対デモしてましたよ。国民も議会も反対しているようなことを、国王が【専決処分】で強行しているとか聞きましたけど、国王は何を考えているんでしょうか」
「だから、そういうのは【軍人】に聞くな。政治とか外交とかに絡むものは立場的に答えられんのだ」
政治や外交がだめなのか。
だったらそれ以外の事を聞こう。
「街で女の人が働いているのをあんまり見ませんが、この街は女性が少ないんでしょうか」
「女は家を守るのが仕事だからな。子供が自立するまでは外で働いたりはしないものだ」
そうなんだ。
シーオークの女性は積極的に出稼ぎに行ってるけど、外洋人は違うんだな。
そういえば、仕事で首都に行ったときにシーオークの女性に会わなかったな。
シーオーク族の【基金】には毎月それなりに入金があったから、首都でそこそこの人数が働いているはずだけど、何処で働いてるんだろう。
気になるけど、俺がシーオークとの混血っていうのは黙ってるからこれは聞かない方がいいな。
別の気になることを聞こう。
「大佐は独身なんですか?」
「そうだ」
うーん。何か隠しているような気もするけど、そこを追及するのも失礼だしな。
大佐はコーヒーを飲みながらくつろいでる。
最近いつもこんな感じ。
店でゆったりして、巡回している【軍人】が帰ってきたら報告を受けて、必要なら俺と一緒に街に巡回に出たり、迷惑な人達を止めたりする。
ちなみにこの店、昼食時間帯は結構繁盛するのでその時は俺もウェイター的なことをする。
主なメニューは【昆虫食】。でも、南方の農園からコーヒーを仕入れることに成功したので、昼食時間帯以外は喫茶店みたいな感じで暇な人のたまり場になってる。
夜にはバー営業してほしいという要望はあるけど、駅周辺に居座る変な人達のせいで【夜間外出禁止令】が出ているからそれはしばらくお預けだ。
本当に早く帰ってくれないかな。あの迷惑な人達。
ダグザ大佐が何処かからの報告書を見ながら話を切り出す。
「先週も西側に行っていたそうだが、そこで【亡命者】は見なかったか?」
「それも聞こうと思ってたんですけど、【亡命者】って何ですか?」
「知らなかったのか。じゃぁ、国境線周辺で不審な人物は見なかったか?」
「不審かどうかはわかりませんが、ヴァルハラ川を泳いで渡ってきたお爺さんには遭いましたね」
ブーッ ゲホッゲホッ
大佐がコーヒーを噴きだした。
「ヨライセン! そういう人物を【亡命者】って呼ぶんだ!」
「そうなんですか」
「知らないならちゃんと聞け! それで、その爺さんの名前は分かるか? あと、何処へ行った?」
「ワイズマン博士と名乗ってました。【出版社】に行きたいと言ってたので、【ヴァルハラ出版】の支店まで背負って運びました」
「コラァァァァァァァ! 一番ヤバイ奴を一番ヤバイ場所に運んでくれたな! それは今の状況下で最悪のダメ行動だぞ!」
「えっ。優しいお爺さんでしたけど、あの人ヤバイんですか?」
「ヤバイ奴だ! ワイズマン博士はエスタンシア製薬の主席研究員で、【豊作1号】の開発者だ! 無断越境して【出版社】に向かったってことは、国家間で【隠蔽】されている【不都合な真実】を暴露するつもりだ! 止めないと危険だ!」
そういえば、背負って運んでいる時に聞いてもないのにいろいろ喋ってたな。
【豊作1号】は大量発生した害虫への緊急対策用に開発したのに、初年度の売り上げに味を占めた経営陣が帝国政府に圧力をかけて毎年の使用を義務化したとか。
ユグドラシル王国に販売する時も足元を見て、年間最低購入数量規定あり、契約条項秘密規定あり、薬剤による有害事象開示禁止規定ありの超長期契約をふっかけたとか。
あの時はエヴァ嬢の事で頭がいっぱいだったから聞き流してたけど、なんかこう、今思えばヤバイ話だったような気もする。
もしかしてこれが【不都合な真実】かな。大佐は知ってたのかな。
「大佐、それ、人が居るところで喋ってよかったんでしょうか」
「…………」
店の中にはお客さんが8人。3人は軍人、5人は近所の住人。
しらけた目線でこちらを見ている。
「機密! 機密だぞ!」
お客様に混じる軍人の方達が、フォローする。
神妙に頷く市民の方達。まぁあの人達なら大丈夫だろう。
ガタッ
店の窓の方から音がしたのでそっちを見ると、走り去る人影。
あれは、駅にたむろしている迷惑な人達のうちの一人。
「わぁぁぁぁぁぁぁ! 全員出動! ヨライセンも来い! すぐに仕事が出る!」
「了解です!」
大佐と軍人と俺は店から飛び出して走る。
今回の仕事も速達で割増運賃入るかな。
分からないことはやっぱりその場で聞いておかないとダメだね。
そして、大佐もダメ行動癖を持っている。
ちょっと親近感わいてきた。
●オマケ解説●
外洋人の方々。風貌は欧米人的な人達ですが、家族感は昭和チック。
結婚は恋愛よりもお見合いが多数派で、「男は仕事、女は家庭」の人生観で生きてます。
そして、春先の電気工事現場にてたまに見る光景。
親方:「ボックスの穴径が足りん。バンから【ノックアウトパンチ】持ってきてくれ」
新人:「ハイ!」 シュタタタタタタ
新人:「持ってきました!」
親方:「これは【ホールソー】だ!」
新人:「【ノックアウトパンチ】って何ですか?」
親方:「分からんなら先に聞け!」
分からないなら、分からないときに聞いておくのが大事です。
それでも、【ホールソー】持ってきただけ優秀か?
本格的にダメな子だと、親方をパンチでノックアウトします。
カーン カーン カーン




