6月21日 俺様 転職した(2.0k)
【錬金術研究会】の跡地の借家でソンライン元副会長と同居しつつ、東ヴァルハラ貨物駅で働く俺はシーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。
5日前に【錬金術研究会】は突然解散。
ロクリッジ技師長は辞職して首都に帰り、ラッシュ会長は発電所の【技術顧問】に就任して中央ヴァルハラ市に引っ越し。
技師長の所有物は会長が全部買い取ったということで、技師長の残した資料や機材は全部会長が持っていった。
部屋を整理する時に技師長の物があれば出すように言われたけど、洗車パイプとコーヒーの付いた実験ノートは俺が貰ったものだから、俺が持っててもいいんだよな。
【錬金術研究会】が解散したので、仕事場として借りていた借家からは退去しても良かったけど、俺とソンライン元副会長は次の行先が決まるまであの借家で同居することにした。
【退職金】はたくさんもらったから当面の家賃は大丈夫だし、ソンライン元副会長の料理は美味いので、俺もしばらく同居していたい。
そういうわけで、今は午後もヴァルハラ貨物駅で働く。
今は小麦の収穫の季節で、国内で収穫した小麦がこの東ヴァルハラ貨物駅に集まり、鉄道でエスタンシア帝国に運ばれる。
俺の洗った穀物貨車が大活躍だ。
今の俺の仕事は、国内の農園からトラックで運ばれてくる小麦を穀物貨車に乗せ換えること。
大半はフォークリフトなどの荷役車両で一気に積み替えるけど、パレットから落ちてしまった袋とか、荷役設備の無い小規模農園から小型トラックで直送されてくる分は小麦袋を手で運ぶしかない。
シーオーク由来の怪力が役立つところだけど、あんまり頑張るとドン引きされるので外洋人に合わせて力仕事。
1回に運ぶのは2袋までだ。
せっせと運んでいたら、一緒に麦袋を運んでいた運送業者の方がずっこけて麦袋を落としてしまった。
袋が破れて麦が散乱。【破袋】だ。
たまにあるけど、もったいない。
夕方になり、今日最後の貨物列車を見送る。
その後、駅に配備されている消防車を首都の穀物倉庫の消防団に貸し出すとのことだったので、備品の積み込みの手伝いをした。
仕事を終えて、貨物駅事務室で業務内容の報告をして日当を受け取る。
これは俺とソンライン元副会長の貴重な食費だ。
夕食に思いを馳せてつつ帰り支度をしていたら、【破袋】した麦袋を思い出したのでルイス駅長に確認。
「今日は【破袋】した麦袋が出ましたが、アレはどうするんですか?」
「あー、エスタンシア帝国は品質にもうるさいから、もったいないけど廃棄だな」
「じゃぁ、破れた袋に残っている分だけでも貰っていいですか?」
「いいぞ。でも小麦だからなぁ。粉にしないと食えないぞ」
…………
「うおぉぉぉぉ! うぉぉぉぉぉ! ゴフッ!!」 バタッ
俺が持ち帰った小麦を渡したら、ソンライン元副会長が興奮して倒れた。
「これは! 私が渇望していたユグドラシル王国産の小麦!」
ゴロゴロ バラバラ ゴロゴロ バラバラ ゴロゴロ
すぐに復活して、大喜びで破れた小麦袋を抱きしめてキッチンを転がり回るソンライン元副会長。
喜んでくれるのは嬉しいけど、小麦、こぼれてますよ。
…………
興奮から醒めたソンライン元副会長は、キッチン中に散らばった小麦を集めて容器に回収。
明日製粉して調理してみるとのこと。
製粉機、あるんだ。
夕食をありがたく頂いて一緒に片付けをした後、彼と食後の雑談。
今後の事を考えたらしい。
「ヨライセンが持ってきてくれた小麦を見て思いついた。貨物駅に集まる小麦を直接買い取りできれば、国産小麦粉が手に入る」
「そうかもしれないけど、あれはユグドラシル王国政府が管理している小麦で、エスタンシア帝国に送る分ですよ。勝手に売ったり買ったりしたらマズイんじゃないでしょうか」
「そういうのも交渉次第で大概抜け道はあるもんだ。国産小麦粉を欲しがっている料理人は多いし、あのままエスタンシア帝国に送られたら、ごちゃまぜの【標準小麦粉】にされてしまう」
「俺はよくわからないけど、そういうものかなぁ」
「直接購入した国産小麦粉を販売するビジネスは成り立つ気がする。【標準小麦粉】に不満を持っている料理人は多いから、多少高くても売れるはずだ。軌道に乗って国内の農園と提携できれば、むしろ安価に販売もできる」
ソンライン元副会長発案で、【退職金】を元手に【食材流通組合】を立ち上げることになった。
国産小麦を誰もが自由に選んで買えるようにするという、料理人の夢を取り戻すための第一歩らしい。
なんかこう引っかかる気もするけど、俺も参加することにした。
明日からちょっと仕事が増える。
俺はルイス駅長にそういうことができるか確認。ソンライン組合長は、貨物駅に出入りするトラックの運転手に確認。
小規模な農園だと、農園職員が直接貨物駅に小麦を運ぶこともあるそうなので、手始めにそういう人とのつながりを作るそうだ。
新しい仕事。転職だ。
●オマケ解説●
国が流通を管理している財に対して、自主流通ルートを作ろうとする活動。
結構グレーだけど、場合によってはアリ。
でも、農家の協力を取り付けるのは難しいんじゃないかなー。
果たして、たまにハイテンションな料理人の夢は叶うのか。




