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 6月 4日 俺様 噛まれた(3.0k)

 洗車の仕事も一段落し、【錬金術研究会】も基礎技術確立でやることが減って、雑用をこなしながら悠々自適な生活を送っている俺は、シーオークと外洋人の混血青年ヨライセン。


 今日もまた、エヴァ嬢との約束の為に村に来た。

 バイクで来ても良かったけど、なんかもう走って来るのが習慣になってしまった。


 前回のようにエヴァ嬢の住む神社に行って、いつものように寝かされる。

 ナニをドウされているかは全力スルー。【屋外】でないならもう気にしない。


 そして激しい疲労感と共にいつものベッドで目覚めたら、エヴァ嬢は部屋の中で立っていた。


「……エヴァ嬢、今日は起きてるんだな」


 いつもなら俺の隣でぐったりしているが、今日は様子が違うのでちょっと確認。


「さすがに慣れたよ。集会所行こ」


 慣れましたかそうですか。

 まぁ、エヴァ嬢ともゆっくり話がしたいと思っていたから丁度いいんだけど、なんかこう釈然としない。


…………


 お土産の【ヴァルハラせんべい】を持ってエヴァ嬢と一緒に集会所に来たら、前回よりも物が増えている部屋の真ん中で獣脚男8人がテーブルを囲んで芋を食べていた。


「ヨー坊! よく来たな!」

「エヴァも一緒か! がんばったんか!」

「ヨー坊! せんべいか! せんべいあるのか!」


 いつも通りハイテンションな獣脚男達。一部入れ替わって人数が増えてる。


「エヴァ嬢、この村にはいったい何人居るんだ? あとエヴァ嬢以外に女性は居ないのか?」

「今は114人かな。そのうち16人が発電所の方に行ってる。そして女は皆街に出稼ぎ」


 人数把握してるんだ。そんなにたくさん居るんだ。

 そして女性は全員出稼ぎか。シーオークの村と同じだな。


「私はここを離れられないから、アナタが来てくれて良かった」


 前もそんなようなこと言ってたけど、何が良かったんだろう。

 まぁいいや。


「ヨー坊! 皆と会いたいのか!」

「それぞれの家とか、畑とか、山の中とかに居るぞ!」

「皆自由! 好きなことしてる!」

「満月の夜に晴れたら、皆で村の広場に集まる」


 そうなんだ。俺の故郷であるシーオークの村によく似てるな。

 まぁ、俺達は暗い所苦手だから昼間に集まってたけど。


「エヴァ、芋はどうだ」

「エヴァ、せんべいにするか?」

「ヨー坊も一緒にどうだ?」


 芋を山盛りにしたテーブルを囲んでいる獣脚男が俺達を食事に誘っている。

 でも俺は、生の芋をそのまま齧るのはどうかなと躊躇する。できなくはないけど、やっぱり調理して食べたいなぁ。


「お芋さん食べたいけど、その前に昨日の残りを食べる」


 そう言って、エヴァ嬢は部屋の隅にある戸棚から小さい箱を出してきてテーブルの上で開けた。

 箱の中身は何かの葉っぱがたくさん。


 葉っぱを食べるのか?

 【歯並び】は肉食っぽいのに、実際は草食系なんだな。


 その葉っぱの上に大きい芋虫が居たので、害虫かなと思ってつまみ上げてみた。

 

 ガブッ


「どぎゃぁぁぁぁぁぁ!」


 エヴァ嬢に腕を噛まれた。

 あの牙が右前腕部に深く食い込んでる。痛い。


「ヨー坊! 何やってんだ!」

「それはエヴァの【獲物】だ!」

「そういうことしたらダメなんだよ!」


 エヴァ嬢に嚙みつかれながら獣脚男達に叱られる俺。

 つまんだ芋虫を元の箱の中に落とす。噛まれている部分がすごく痛い。

 

「……この芋虫が【獲物】でしょうか。これを食べるんでしょうか」


「ヨー坊は食べないのか? 結構美味いぞ」

「食べたくても、横取りはダメだぞ」

「横取り、ダメ。絶対」


 もしかして、これはこの村の人たちの掟なのか?

 【横取り】が禁忌なのか?


「ヨー坊は知らなかったのかもしれないけど、俺達の間では横取りはダメなんだ。自分の【獲物】に手を出されると、つい、こう、手が出てしまう」


 いや、エヴァ嬢は手じゃなくて牙が出てますが。


「一度手に入れたと思ったものは手放せないんだ。食べ物以外なら気にならないんだけど、食べ物だけはなぁ」

「だから俺達集まって食べるときはお互いに気を付けてる。ヨー坊は気付かなかったか?」

「街へ行った時も外洋人と一緒のテーブルでは食べない。頼んで俺達別室用意してもらう。取る気が無くても自分の皿に手を出されると喧嘩になるから」


 そういえば、イモやせんべいを食べるとき、順番に山から取って一旦自分の前に置いてから食べてたな。

 山から取る順番を抜かしたり前に置いてある分に手を出したら、仲間内でも喧嘩になってしまうということか。


 なんかわかる気がする。

 純血のシーオークの方々もそういうところあった。

 彼等は【嘘】や【騙し】や【隠し事】に対しては厳しい。


 外洋人の社会が【嘘】や【騙し】を上手く使って回っている事を理解はしているけど、いざ自分がそういうことされると逆上してしまう。

 恐がられると分かっていても、これは止められないんだと嘆いていた。


 混血だからか俺はそうでもないんだけど、純血の人達にはそういう逆らえない習性があるってことだな。

 よくわかった。他の部族を訪ねるときは、先ずそういうところを確認しよう。


 噛みつかれている腕が本当に痛い。

 なんか、牙が骨まで届いてるような気がする。


「エヴァ嬢。俺が悪かった。本当に痛いです。放してください」


「…………」 フーッ フーッ


 俺の腕に齧りつくエヴァ嬢の表情は見えない。

 なんか鼻息が荒くなってきたような、そして、さらに牙が食い込んできたような。

 痛い。痛い。痛い。


「ヨー坊。俺達は一度手に入れた【獲物】は手放せないんだ……」

「あとでちゃんと治してやる。だから、耐えろ。ヨー坊」

「まぁ、気の毒だけど、自業自得だからな。ヨー坊」


 え、まさか。


 ミシッ


 牙が、骨に食い込み……


 ゴキベキバキブチブチ ブシュ


 どぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ


…………


 右前腕部の骨と肉を一部喰いちぎられて、実際喰われた。

 俺を睨みつけてさらに喰おうとするエヴァ嬢を獣脚男達がなだめて落ち着かせて、俺は彼等の【回復魔法】で治療してもらった。


 【回復魔法】というのは初めて見たけど、すごい威力だ。

 抉られた腕がすぐに元通りに治った。


 エヴァ嬢は部屋の隅にしゃがみこんで箱を抱えて芋虫を食べている。

 散々な目に遭ったけど、悪いのは俺だ。謝っておこう。


「すまんエヴァ嬢。俺が悪かった」

「……ゴメン」


 習性に逆らえずやりすぎてしまうのは、エヴァ嬢も辛いのか。


「でも、腕の骨も筋肉も美味しかった……。また、いいかな」

「ごめんなさい! それだけは勘弁してください!」


 味を占められた。


 膝丈の割烹着姿でしゃがむエヴァ嬢の太腿ふとももが少し見えた。

 膝より上は獣脚では無いようだ。


…………


 その後、落ち着いたエヴァ嬢と一緒に集会所で獣脚男達と楽しく雑談。

 芋やせんべいを一緒に食べないかと誘われたけど、彼等と同じテーブルで食事を摂るのは恐すぎるので、空腹だけど辞退した。


 夕方まで騒いで、俺は帰る時間になり村を後にした。


 次は7月4日。

 次来るときは彼等の習性に気を付けよう。

 噛まれたり喰われたりするのはもう勘弁だ。

●オマケ解説●

 熊の習性。獲物を横取りされると怒る。

 人間を襲う意味は無い熊だけど、自分の獲物を取ろうとした人間は【敵】と認識して容赦なく殺しにかかるとか。

 山歩きしている時に不幸にも熊に遭遇してしまい、スマホと財布の入ったバックを取られてしまったとしたら、潔くあきらめよう。


 熊は、一度【敵】と認識した人間は、覚えているらしい。(怖すぎる)

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― 新着の感想 ―
エヴァ嬢の「慣れた」は男として何気にショックを受けそうな言葉ですね。(笑) 生芋はともかく、虫食はちょっと想像してしまって、ギョッとしてしまいました。 引き続き、読み進めたいと思います。
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