プロローグ 俺様は鬼の子
創世歴566年3月3日 午後
小さいバイクに乗って、ヴァルハラ川沿いの国道を西に向かって走る俺は、シーオーク族と外洋人の混血青年ヨライセン。
今まで村と最寄り町だけで生活していたけど、初めての遠出でワクワクしているややビッグマッチョな17歳。
この大陸にはヴァルハラ川を境に二つの国がある。
北側のエスタンシア帝国と、南側のユグドラシル王国。
200年以上前に、海の向こうの国から大勢の人がこの地に移住してきた。そして、彼等は石器や鉄器で狩猟生活をしていた俺達のご先祖様に文明を授けてくれたという。
それまでは、定住地を持たずに獲物を求めて陸地内を集団で動き回って生活していたらしいけど、彼等が教えてくれた【農業】のおかげで、村を作って定住することができるようになったそうだ。
そして彼等は、街を作り、国を作り、技術の力でいろんな物を創り出した。
このバイクもそうだし、地図や冷蔵庫や水道や電灯とか、俺達じゃ作れない便利なものを沢山。今の快適な暮らしも彼等のおかげだ。
だから彼等を【外洋人】と呼んで皆感謝してる。
そして、シーオーク族というのは俺の出身部族の通称名。
ヴァルハラ川河口近くに作った村に定住していて、外洋人に比べて身体が大きく、力が強く、泳ぎが得意なのが特徴だ。
この大陸には、俺達シーオーク族以外にもいろんな特徴がある原住民が住んでいる。それを知ることができたのも外洋人のおかげだ。
シーオーク族という呼び名もかつて外洋人が付けてくれたものだとか。
そして俺は外洋人とシーオーク族の混血。どちらかというと体格や風貌が外洋人に近いので、村の外への用事はだいたい俺の仕事になっている。
純血のシーオーク族の男は外洋人からすると見た目が恐いらしく、恐がられるのが嫌で村の皆は街へ行きたがらない。
今日の用事は、ヴァルハラ川上流の山岳地帯に住む原住民に【雨乞い】をお願いしに行くことだ。
シーオーク族と同じで、この地に元から住んでいた部族らしいけど、どういう人達なのかはよく知らない。
でも、そこに【生贄】を持っていくと【雨乞い】をお願いできるという噂がある。
今年は雨が少なくて麦畑の調子が悪いので、どんな人達なのか興味もあるし、ちょっと行ってこいと言うことで俺が行くことになった。
【生贄】というのが何なのかはよくわからなかったので、村の中で話し合った結果、獲れたての新鮮な【ブリ】を氷漬けにして持っていくことにした。
これの【刺身】は俺達にとっては最高のごちそうだ。きっと喜んでもらえるだろう。
荷台に保冷箱を固定したバイクで西側目指して走る。
どんな人達かな。
雨降らせてくれるのかな。
あわよくば、カワイイ娘とか居たらいいな。