第四十八話 大はしゃぎしてしまった……
「はい、確かにお預かりいたしました」
無事にパーチェに拠点を構えるギルドにやってきた私とオーウェン様は、受付の方に作った薬を手渡した。
ギルドから受けた仕事だと、こうして品を納品しておけば、ギルドが依頼者に届けてくれるようになっているそうだ。とても便利で助かるわ。
「他に我々に仕事は来ていませんか?」
「申し訳ございませんが、今のところはございません」
「そうですか……薬関連の依頼書はありますか?」
「あるにはあるのですが、アトレ様に該当する条件のものが無いのです」
受付の女性が見せてくれた依頼書には、条件のところに開業してから三年以上とか、実績が百件以上とか、どうみても私達では満たせない条件ばかりだった。
薬は人の命に関わる重要なものだから、実績や腕のある薬師に依頼したいという、この人達の気持ちはよくわかるから、何も文句は言えないわね。
「引き続き、アトレ様の仕事の募集は掲載させていただきますし、他の支店にも募集を共有してありますので、仕事が来たらご連絡いたします」
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
新しい仕事が来ていなかったことは残念だけど、落ち込んでいても仕方がない。アトレを直接選んでもらえるくらいの実績と腕を身につけるために、頑張らないと。
「さて、せっかくココが気を利かせてくれたのだから、どこかに遊びに行こうか」
「そうですね。あ、でも……私、こうやって誰かと自由に遊び歩いたことがないので、どうすればいいか……」
「……奇遇だな。俺も経験が無い。幼い頃は鍛錬と貴族としての勉強ばかりで、あの家に住むようになってからは、ココを育てるために遊んでいる暇なんてなかったからな……」
二人揃ってまったく遊んでこなかった人生なのね。そう思うと、私達って似た者同士で、出会うべくして出会ったのかもしれないわ。
「うーん……そうだ、エリンと行きたい場所があるんだが、どうだろうか?」
「もちろんいいですけど、どこに行くんですか?」
「俺の思い出の地だ」
「思い出の地……私で良ければ、行ってみたいです」
「わかった。ただ、そこは夕暮れ時に行くのがとても良い場所なんだ。だから、それまではどこかで過ごせればいいんだが……」
「なら、いろんなお店を回っても良いですか? 私、始めて来た時から気になるものばかりで!」
「それじゃあ、時間の許す限り、店を見て回ろうか」
方向性が無事に決まった私達は、再び手を繋いでパーチェの町中を散策し始める。
周りには始めて来た時と同じ様に、色々なお店が所狭しと並んでいる。こんなにあると、一体どこから見て回ればいいか迷ってしまう。
「あっちには綺麗なお花屋さんが……あっ、この前見た雑貨屋さんの店頭に新しい商品が並んでるわ! こっちには古本屋さんが……なにか古い薬の本とか無いかしら……!」
「ふふっ、気になるなら全部行こうじゃないか」
「いいんですか!?」
「ああ。だが、さっき言ったように、時間は有限だから気を付けてな」
「わかりました!」
元気よく返事をしてから、オーウェン様と手当たり次第にお店を回り始める。
――そこからの私は、自分で言うのもあれだけど……子供顔負けなはしゃぎようだった。
お花屋さんにいけば、どのお花が綺麗だとか、このお花は薬にも使えるんだとオーウェン様にベラベラと話した。
服屋さんにいけば、色鮮やかな服を片っ端から試着しようとして、オーウェン様にやんわりと止められた。
古本屋さんにいけば、店長さんが引く程熱心に薬関連の本がどこにあるかを聞いてしまった。
昼食をいただくために、売店でサンドウィッチを買いにいけば、種類が多くて目移りしてしまい、結果的に十分以上も悩んで、お店の人やオーウェン様に迷惑をかけてしまった。
「はぁ……やっちゃったわ……」
ベンチに腰を掛け、さきほど買った野菜たっぷりのサンドウィッチをかじりながら、深々と溜息を漏らした。
初めてのオーウェン様とのデートだからって、さすがにはしゃぎすぎよ私……思い出しただけで、恥ずかしさと申し訳なさで頭を抱えてしまう。
「どうした、あまり口に合わなかったか? それとも、あまり楽しくないか?」
「い、いえ! おいしいですし、とっても楽しいです! でも……楽しすぎて、あんなにはしゃいじゃって……オーウェン様に申し訳なくて」
「……? なぜ謝るんだ? エリンが楽しそうにしている姿が見れて、俺はとても幸せだよ」
「め、迷惑じゃありませんでしたか? 」
「全然。それだけエリンが楽しかったということだろう」
あれだけ振り回してしまったというのに、文句の一つも出ないどころか、笑ってくれるオーウェン様に、私の胸が大きく高鳴った。
本当にこの人は……優しくて、本当に……。
「……好きだなぁ」
「エリン?」
「あ、いえ! このサンドウィッチの味が好きだな~って! あはは……!」
「そうか。たくさん時間をかけて選んだ甲斐があったな」
あまりにも自然に出てしまった言葉を誤魔化すために、適当な理由をでっちあげてしまった。
もう、私ったら……なんてことを口走ってるのよ。いつも思ってるじゃない。オーウェン様には、私なんかよりも相応しい女性が現れるって。
****
昼食をいただいた後も、パーチェの散策を思う存分楽しんでいると、いつの間にか太陽が傾き始め、空がオレンジ色に染まる準備を始めていた。
「そろそろ行かないと間に合わないから、出発しよう」
「わかりました」
「今日行けなかったところは、また後日一緒に行こう」
「えっ、また一緒に出掛けてくれるんですか?」
「もちろんだ。エリンが望むのなら、何度だって行くさ。もちろんデートとしてね」
ま、待って待って。そうやって優しくされたら、また変なことを口走っちゃうから! あんまり優しすぎるのも、考えものだわ!
「で、ではまた一緒に来ましょう!」
「楽しみにしているよ」
まさかの二回目のデートの話をしながら、私はパーチェを離れて小高い丘を登り始める。
一体オーウェン様は、私をどこに連れて行ってくれるのだろうか? 全然見当もつかないけど……オーウェン様が連れて行ってくれるところなら、何も心配はない。
「少し足元が悪いから、気を付けてくれ」
「わかりました」
オーウェン様の仰る通り、道には大小様々な石が転がっていて、少し歩きにくい。でも、オーウェン様が私をエスコートしてくれているし、私に合わせて歩みを遅くしてくれているから、疲れることはなかった。
むしろ、一緒にハイキングをしている感じがして、楽しいくらいだ。これならさっきのサンドウィッチを持ってきて、丘の上で食べればよかったかもしれない。
「お疲れ様。ここが目的地だよ」
ゆっくりと丘を登り始めてから数十分ほど経った頃。頂上に到着した私は、オーウェン様と共に歩みを止めた。
そこにあったのは……何の変哲もない原っぱだった。
「あの、ここは一体……?」
「実は、ここにはかつてヴァリア家の屋敷があったところなんだ」
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