第四十三話 解決
「エリン、大丈夫か!?」
「オーウェン様……! 私は大丈夫です! 無事で良かった……それに、その剣……!」
「あんた、邪魔……すんな……ぎゃあ!?」
一生懸命に、オーウェン様に勝とうと短剣を振り上げてみるものの、その時点で勝負は決していた。
オーウェン様は、振り上げられた短剣の刃先だけを斬り、その衝撃で短剣をセシリアの支配から逃れさせた。
「わ、私のナイフ……!」
麻痺毒が更に回ってきて立てなくなったセシリアは、這いつくばって短剣を取りに行こうとしたが、それをオーウェン様は、許すはずもなく……。
「黙れ。もう貴様らの汚れきった声は聞きたくない」
そう仰ったオーウェン様は、セシリアを無理やり仰向けにすると、その拳をお腹にめり込ませることで、完全に意識を断ち切った。
これで……終わったのね。なんとかルーク君を逃がすことに成功したんだ……そう思うと、一気に疲労感と強い痛みが襲ってきた。
「オーウェン様……助けてくれて、ありがとうございます。でも、どうやってここに?」
「ルークに方角を教えてもらったあと、血の跡を辿ったんだ。って、そんな話は後だ! こんなに血だらけで……もう薬も無いんだろう?」
「はい、ルーク君に全部使ってしまいました」
「それなら、俺が預かっている薬を使えないか?」
「使えると思います。申し訳ありませんが、分けていただいても……?」
「もちろんだ。ケガをしているところを見せてくれ!」
オーウェン様の指示通り、私はケガをしている左腕を見せると、オーウェン様は怒っているのか悲しんでいるのか、何とも言えない表情で私の腕をジッと見つめた。
「いたっ……!」
「少しだけ我慢してくれ」
傷口に薬を塗っているんだから、痛いのは当たり前だというのに、無意識の声が出てしまった。
もう、私のバカ……変なことを言って、オーウェン様にこれ以上心配をかけてどうするのよ。
「よし、塗り終わった……相変わらずエリンの薬は凄いな。もう傷口が塞がってきている」
「そうですね」
自画自賛になってしまうのは承知の上だけど、やっぱり聖女の薬の効果は凄まじい。さっきまで感じていた強い痛みが、もう全然感じないもの。
「よく頑張ったな……そして、守れなくて申し訳なかった……!」
「オーウェン様……!」
私のことを心配し、労ってくれたことが嬉しくて……ううん、それだけじゃない。互いに無事だったことや、事態が収拾したことや……色々な要素が混じり合った結果、私はオーウェン様に力強く抱きついていた。
本当に、本当に無事で良かった。もしものことがあれば、こうやってオーウェン様の熱や鼓動を感じることも、胸の奥が暖かくなることも、二度と経験できなかったわ。
「エリン……もう大丈夫だからな」
「はい……」
私と同じように、私の背中に手を回してくれたオーウェン様の声は、とても優しくて疲れ切った心身に染みわたった。
それと同時に、強い眠気に襲われてしまった私は、オーウェン様の腕の中で深い眠りについた――
****
あの事件から一週間後、無事に教会に帰ってきた私は、本来の目的である女の子の看病をしていた。
「どう、おいしい?」
「うん!」
一昨日にやっと目覚めた女の子は、消化が良くて栄養があるけど、料理が苦手な私が作ったせいで、味がいまいちになってしまった薬草粥を食べながら、にっこりと笑顔を浮かべた。
顔色も良いし、栄養失調の症状はだいぶ見られなくなっている。もう私がいなくても大丈夫そうね。
「たっだいま~! エリンお姉ちゃんが言っていた薬草って、これであってる?」
「ちょっと見せてね……ええ、合っているわ。採ってきてくれてありがとうココちゃん、アンヌ様」
「そんな、こちらこそこの子を治してくれて、本当にありがとうございます」
ココちゃんと一緒に薬草を採りに行ってくれたアンヌ様は、何度も何度も私に頭を下げ続ける。
本当は私が採りに行くべきなんだけど、まだ体力が完全に戻りきっていない私を気遣ってくれたアンヌ様が、行ってくれたのよ。
「おや、随分と賑やかだな」
「おかえり、お兄ちゃん! もう騎士団の……じ……じじょー……なんだっけ?」
「事情聴取な」
「それそれ!」
「無事に終わったよ」
二人と話をしていると、オーウェン様が微笑みながら部屋の中に入ってきた。
実は、オーウェン様は事件があった日から、毎日のようにアンデルクの騎士団の所に行き、事件の事情を話しにいってくれている。
——私が意識を失った後の話だけど、無事に教会に帰ってこれたルーク君が、アンヌ様や他の子に事情を話し、騎士団に助けを呼びに行ってくれたそうだ。
騎士団はすぐに現場に到着し、セシリアや他の協力者の人は連れていかれ、拘束された。今は留置所に入れられて、法の裁きを待っているところだそうだ。
セシリアのしたことは、決して許されることじゃないし、今も私は彼女達に怒りを抱いているけど……ちゃんと罪を償って、更生してほしいと思っているのも事実だわ。
「あの、大丈夫だったんですか? 騎士団って、前にお話されていた……」
「大丈夫だったよ。聴取の担当をした騎士が、まだ若くて俺とは接点がない人間だったからな」
それならいいんだけど……オーウェン様のことだから、なにかあったとしても、心配をかけないように黙っているのが、容易に想像が出来る。
そんな状態で、変に聞くのも……そうだ、さっき作った薬草粥が残ってるから、食べてもらって栄養を付けてもらおう。味は良くないけど……く、薬と思ってもらえれば、食べられるよね……うん。
「いろいろやって来て、お腹空いてませんか? さっきこの子に作った薬草粥が残ってて……よければオーウェン様にも食べてほしいなって」
「いいのか? 是非いただくよ」
「わたしも食べたい~!」
「それじゃあ俺と半分こしようか」
「やった~! ありがとう、お兄ちゃん!」
相変わらず仲の良い二人を微笑ましく思いながら、私は薬草粥を二人に手渡した。少しだけ冷めちゃったけど、熱々よりかは食べやすいかしら?
「もぐもぐ……に、苦い……」
「薬草粥だからな。俺はとてもうまいと思う」
「ほ、本当ですか!? 私、料理なんてしないから……料理で褒められたの、生まれて初めてです!」
「本当においしいよ。毎朝俺のためにスープを作ってもらいたいくらいだ」
「すす、スープを!?」
そ、それって……それって……ようは、結婚して毎朝朝食を作ってほしいって意味よね!? さすがにそれは考えすぎ? でも、考えすぎるなって方が無理だわ!
「……お兄ちゃんって、たまに天然なことを言うよね」
「一体何のことだ? それより、どうしてエリンはあんなに顔を赤くさせているんだ? もしかして、ケガしたところの傷が、今頃になって開いたのか!?」
「はぁ……ゴールは遠すぎるよぉ」
「あはははっ」
なんだかわからないまま、アンヌ様や患者の子の笑い声が、部屋の中に響き渡る。それを聞いた私達も自然と笑っていて……久しぶりに、平和と笑顔が訪れたと思えた瞬間だった――
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