第三十五話 セシリアの秘密
「無くなったって、本当にそこにあったんだよね!?」
「ああ。確かにここの壁に立てかけてあったんだが……」
「早く探さないと~!」
「いや、待って。オーウェン様、これってもしかして……あれが関係しているかもしれません」
目だけで私の気持ちを少しでも伝えようと、ジッと見つめる。すると、オーウェン様も意図を理解してくれたのか、小さく頷いた。
「ココちゃん、よく聞いて。私達はこれから、教会の怪しい人を追いかけて、おしおきをしないといけないの。きっと剣は、その人が持っていったんだと思うわ」
「そうなの!? ならわたしも!」
「ううん。ココちゃんには重大な仕事があるの。それは、この子の容体が急変した時に私達に知らせられるように、ここにいてほしいの」
言い方は少し難しいかもしれないけど、ようはお留守番を任せるということだ。でも、ただのお留守場ではない。人の命がかかってる、重要な仕事だ。
「俺達が帰ってくるこの場所を、ココに守ってほしい」
「う~ん……わかった! ここはわたしに任せて!」
「ありがとう。そうだ、ココちゃんにこれをプレゼントするわ」
私はこの数日で作っていた、めくらましの袋と、筒状のものを一つずつ手渡した。
「なぁに、これ?」
「この袋は……こうやるとピカピカするから、変な人が来たら、これをピカピカさせて、その間に安全な所に逃げるのよ」
「うん、わかった」
「こっちの筒は、なにか大変なことが教会で起きた時に知らせる物よ。この黒い粉を入れることで、色が付いた煙が出るようになってるから、それで何かあったことを伝えて」
「こっちは光、こっちは煙……バッチリ覚えたよ!」
「それと、この袋も持っておいて。こっちは傷薬が入ってるわ。ケガしちゃったらこれを塗れば、すぐに良くなるわ」
「うわぁ、ありがとう! ここは任せてね!」
ドンッと胸を叩き、自信たっぷりな表情をするココちゃん。
そんなとても頼もしいココちゃんに任せてから、私は事前に用意しておいた荷物が入った鞄を持って、オーウェン様と一緒に部屋を飛び出した。
「あの、流れで一緒に行くって言っちゃいましたけど、私も一緒に来てよかったのでしょうか?」
「俺が断っても、ついてくるだろう?」
「それは、まあ……」
「そうだろうと思っていたから、何も言わなかった。ココのことは心配だが、身を守る術はエリンが与えてくれたし、教会には他にも人がいるからな」
自分のことについて理解されていることに、ちょっとだけドキドキしつつも、さっきまで全員が集まっていた食堂に行くが、既にそこには誰もいなくなっていた。
「やっぱりいませんね」
「そのようだな。そうなると、やはりあそこしかないだろう」
「はい。行ってみましょう!」
食堂を後にし、向かった先は……夜にセシリア様が過ごしているという小屋だ。
小屋の窓には全てカーテンがかけられていて、中は確認できない。でも、明かりがついているのはわかる。
これは、中に誰かいるのは確定ね……それに、数人の話し声も聞こえてくる。
「見つからないように、こっそり聞いてみよう」
オーウェン様につづいて、極力物音を立てないで小屋の窓に近づき、中の話し声に耳を傾ける。
すると、中から聞こえてきたのは……セシリア様の声と、数人の知らない男性の声だった。
「ほら、今月の支援金だ」
「ふん、相変わらず国の支援は大したことがないわね」
中から聞こえてきているのは、確かにセシリア様の声だ。でも、話し方や言葉遣いが、本当に同一人物なのかと疑うくらいに、かけ離れている。
「一介の兵士であるオレに言われてもな……」
「何言ってるのよ! 私が支援金を不正に使っていることを黙認させるために、あんた達に一部払ってるのを忘れたの!?」
「忘れてないさ。くだらない教えでガキを信じ込ませ、ひもじい思いをさせてるのも、聖人だった前シスターの想いを踏みにじって金儲けをしているのもな。だが、支援金の額を決めるのは国のお偉いさんだから、オレにはどうしようもできない」
「ただの兵士の分際で、偉そうにほざくんじゃないよ!」
何をしているのかはわからないけど、小屋の中から何かが強く叩きつけられたような音が聞こえてきた。
恐らくだけど、セシリア様が腹を立てて、物に八つ当たりをしたんじゃないかと思う。
「ふー……ふー……ふん、まあいいわ。ルークの分は?」
「へっへっへっ……ボスの知り合いに、ああいった気弱な子供が好きな手合いがいて、良い値段で購入してくれやしたぜ。金はボスの元に取りに来てくだせえ」
「まったく、相変わらず毎回面倒ね。あんたらと手を組んでるとはいえ、配下になったつもりはないのよ? 自分で取りに来なさいっての」
今のやり取りって、まさかルーク君は里親に引き取られるんじゃなくて、人身売買に出されたというの?
それに……今の言い方……教会から里親に引き取られる子が多くなったというアンヌ様のお話も一緒に考えると、既に何人も売りに出しているとしか思えない。
仮にも、セシリア様は聖職者よね? そんな人が人身売買なんて非人道的なことに手を染めているなんて……!
「あ、そうそう。最近急に転がり込んできた男が、大層な剣を持っていたのよ。これ、高く売れるかしら? 私、剣の価値なんてわからないのよ」
「こ、これは……随分とご立派なものをお持ちで……あっしには値がつけられやせんから、ボスに相談してもらえやすか?」
「しょうがないわね」
どうやら話の内容は決着したようだ。小屋の中から、いつもとは違って小奇麗なドレスを身にまとったセシリア様が、鎧を着た大柄な男性と、杖をつく小柄な男性と一緒に、小屋を出てどこかへと向かっていった。
暗くて見にくかったけど、どうやらルーク君は、大柄な男性に担がれて連れていかれてしまったようだ。
「あんなに非道な人間だったなんて……早く追いかけて、ルーク君と剣を取り返しましょう!」
「待つんだ。まずは小屋の中を確認しよう」
「お、追いかけなくていいんですか!?」
「もちろん追うが、問い詰めるための物的証拠が欲しい。それに、後を追うのは難しくないから、心配いらないさ」
「……わかりました。オーウェン様がそう仰るなら、中の確認からしましょう」
正直に言わせてもらうなら、一秒でも早く追いかけた方が良いのと思うのだけど、オーウェン様がそう仰るなら、間違っていないのだろう。
「鍵がかかってるな……だが、この程度なら!」
「きゃっ!」
オーウェン様は、玄関に鍵がかかっているのを確認すると、なんと玄関に体当たりをした。その姿に呆気に取られていると、三回目の体当たりで玄関が壊れた。
「ま、まさかの力技……」
「時と場合によっては、小手先の技よりも力技の方がいいものさ」
そ、そういうものなのかしら……騎士にしかわからない考え方なのかもしれない。
まあいいわ。とにかく早く中を調べて、セシリア様達をおいかけなきゃ。そう思って中に入ろうとすると、背後からザッと土を蹴る音が聞こえた。
「な、何の音ですか!? って、どうしてここに……?」
「あ、アンヌ様……!」
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