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【完結】婚約者の王子に浮気されていた聖女です。王子の罪を告発したら婚約破棄をされたので、外で薬師として自由に生きます  作者: ゆうき@呪われ令嬢第二巻発売中!
第一章 目標への第一歩

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第三十一話 材料調達

 翌日の早朝、私はオーウェン様とココちゃんと一緒に、薬の素材を手に入れるために、廃墟の町から少し離れたところにある川へとやってきた。


 教えてくれたセシリア様が言うには、この辺りの川は過去の戦いで汚れてしまったが、今でも多くの魚や水草が生息しているとのことだ。


「なんか、汚れた川って事前に聞いてたけど、普通に綺麗だね?」

「あの戦いから、何年も経っているからな。だが、その戦によって川は汚れ、当時住んでいた魚や植物に影響があったのは間違いないだろう」


 ……争いによって、無関係のものが巻き込まれ、傷ついた……考えただけで、心が痛くなってくる。みんな仲良く暮らせればいいのに……。


「それで、何を探せばいい?」

「あ、はい。とりあえずは、栄養失調に効く栄養素が含まれるものなら、なんでも良いです。その中でも、ナールフィッシュという魚と、ニュトリという水草がいいですね。どちらも栄養が豊富で、薬の材料として役に立つんです。川なら広く分布しているので、薬の材料として重宝されてます」


 私はその場にしゃがみ込むと、落ちていた木の棒を使ってナールフィッシュとニュトリの絵を描いてみせた。


 言葉で説明をするよりも、その姿を見せる方が早いでしょう? 私にしては、良いアイディアだと思うわ。


「……すまない、エリン。素人の俺達にはよくわからない」

「これってお魚なの……? なんかウネウネしてるけど……」

「うーん、案外絵だと説明が難しいのかしら……ナールフィッシュは青い魚で、お腹の部分が白いのが特徴です。ニュトリは一見すると緑色の普通の水草だけど、葉の先がギザギザしています。浅瀬に群生する特徴があるから、見つかりやすいと思います」

「わかった。俺が魚を探してくるから、二人には水草を任せるよ」


 そう言うと、オーウェン様は動きやすいように上着を勢いよく脱ぎ捨て、上半身を外界に晒した。


「ひゃあ!?」

「ど、どうかしたか?」

「いえ! なんでもないです!」

「そうか。それならいいんだが……」

「エリンお姉ちゃん、ほっぺが赤いよ?」

「そ、そんなことないわよ?」


 うぅ、急に脱ぎだすから驚いて変な声が出ちゃったわ……男の人の裸なんて、見たことないし……。


 ……少しだけ見てしまったオーウェン様の体、凄くたくましくて惚れ惚れしちゃうくらいだったけど、所々に古傷のような跡があったのが気になる。騎士をしていた頃に出来た傷なのだろうか?


「あ、あの。探すといっても、どうやって捕まえるんですか?」

「潜って、捕まえるだけだ」


 口では簡単に言えるけど、道具も無しにどうやってやるのだろう。そんなことを思っている間に、オーウェン様は静かに川の中に入ると、突然目にも止まらない早さで、水を斬るように腕を振った。


「逃げられたか。思ったより素早いな」

「オーウェン様、さすがにそのやり方では難しいと思いますけど……」

「ふふーん、お兄ちゃんを信じて見てるといいよ! きっとビックリするから!」


 まさか、本当にこんな直接的なやり方で、魚が獲れるの? にわかには信じられないけど……ココちゃんがそう言うなら、オーウェン様を信じてみよう。


「……ここだ」


 再び水の中に手を入れ、ブンッと手を振り上げる。すると、魚が宙を舞って、そのまま川辺に叩きつけられた。


「す、すごい……本当に魚を獲っちゃった……」

「ねっ、ビックリしたでしょ?」

「ええ、ビックリしたわ! オーウェン様、凄いです!」

「さすがお兄ちゃん、カッコいい~!」

「本当にカッコイイ――あっ」


 思わず口に出てしまった言葉を、咄嗟に口に手を当てて止めたけど、もう遅かったようで……ココちゃんがニヤニヤしながら、私のことを見つめてきた。


「あれあれ、今なんて言ったの? カッコいいって聞こえたような?」

「な、なんでもないわよ! ココちゃんの聞き間違えよ!」

「照れちゃうエリンお姉ちゃん、かわいい~! 素直にお兄ちゃんに伝えたら、きっと喜んでくれるよ?」

「そ、そんなことないわよ。ほら、私達も仕事をしないと」

「は~い」


 露骨に話題を逸らしている自覚を感じながら、ココちゃんと一緒に、流れが緩やかな浅い場所で、ニュトリを探し始める。


 思ったより水が冷たいし、探してみると見つからないものね。城にいる時は、素材に関しては調達してもらってたから、自分で探す大変さが、改めて身に染みるわ。


「中々見つからないね~」

「そうね。でも、諦めずに探していればきっと見つかるわ。もし寒くなったら、休んでていいからね」

「全然へっちゃらだよ~。あ、これかな!?」


 ココちゃんが私に見せてくれた水草は、ギザギザは一切無い、綺麗な曲線を描く水草だった。これは明らかにニュトリではない。


「って、全然ギザギザしてないや! 緑色だから、早とちりしちゃった」

「そういう時もあるわ。急がなきゃいけないけど、焦ったら見逃しちゃう可能性もあるから、落ち付いて探そうね」

「わかった!」


 ——それから探し続けること三十分。なかなかお目当ての魚も水草も見つけられなかった私達は、少しずつ場所を移動しながら探し続ける。


 自分で焦らないようにって言っておいてなんだけど、一つも見つからないと、やっぱり焦ってしまう。落ち着いて、私。薬を作る時だって、焦っても良いことはなかったじゃない。


「……エリン、ちょっとこれを見てくれ」

「どうかしましたか?」

「今獲れた魚なんだが、ナールフィッシュと特徴が一致していないか?」


 オーウェン様はザブザブと音を立てながら、川辺に打ち上げさせた魚を一匹持って私に見せてくれた。


 その特徴は、私がさっき説明したナールフィッシュと同じものだった。


「そうです、これです!」

「やった~!」

「見つかってよかった。それと、この魚がいた所に水草があったんだが……」

「もしかして、ニュトリですか?」

「おそらく。持ってくるから、確認してほしい」


 さっきまでいた所に戻り、川底から引っこ抜いて見せてくれた水草の葉の先には、特徴的なギザギザがあった。


「どうだ?」

「はい、これがそうです!」

「わわっ、見つかる時って一気に見つかるんだね!」

「運が良かったな。まだたくさんあるみたいだ」


 そう仰ったオーウェン様は、川底からたくさんのニュトリを採取してくれた。


 これだけあれば、数日は持ちそうね。ひとまずは安心ってところだ。


「これだけあれば、足りると思います。ナールフィッシュは、今の私達には保存する術が無いので、今日は一匹だけにしておきましょう」

「ニュトリはどうする?」

「乾燥させて保存させますから、大丈夫です」

「わかった。目的の物は手に入ったし、教会に戻ろうか」

「その前に、お腹すいたよ~……さっきとった別の魚を食べようよ。教会で食べると、怒られちゃうし」


 ココちゃんの言うことももっともだ。空腹で仕事なんて出来ないし、だからといって教会で遠慮なく食べるのは、あまり宜しくない。それなら、ここで食べてしまおうということだ。


「それなら、間違えて捕まえてしまった魚を、責任をもって食べるよとしよう」

「やった~!」

「オーウェン様、水草を切るために借りてきたナイフがありますが、魚を捌くのに使いますか?」

「とても助かるよ。是非使わせてほしい」


 私はナイフをオーウェン様に渡すと、大小様々な魚を捌きはじめた。その手つきは一切の無駄が無いというか……もはや芸術品を見ている錯覚を覚えるくらい、綺麗だった。


 こんなことまで完璧にこなしてしまうなんて、本当に非の打ち所が無くて……あまりにもカッコいい。なんて思っていたら、いつの間にか準備されていた焚火の火で、魚を焼き始めていた。


 ……わ、私……なにも役に立ててないわね……手伝いたいけど、料理なんて全くしたことが無いから、手伝いたくても、どうやればいいのかすらわからない。


 はぁ……自分の能力の無さが恨めしい。この先も、きっとオーウェン様の能力に惚れ惚れし、同時に自分の力の無さに呆れるのだろう。


 いや、呆れてても仕方ないわよね。私だって、オーウェン様の手を煩わせないよう、出来ることをしないと。


 そうだ、もし何かあった時のために、空いた時間を使って、自衛用の薬を作ろうかしら。それを作って持っておけば、いざという時にオーウェン様の負担を減らせるわね。


 そうと決まれば、帰り道で使えそうな薬草を採っておこう。


「……ちょっと食べてみるか?」

「えっ?」

「ジッと俺の顔を見ていたから、食べたいのかと思ってな。さっき焼いた中に、小魚が……はい、どうぞ」

「そ、そういうわけでは……でも、いただきます……って、自分で食べられますから」

「まあいいから。そのまま頭から食べるといい」


 魚を差し出したオーウェン様は、ニッコリ笑いながら、私に出し続ける。それに観念した私は、ほっぺを少し赤くしながら、魚に食らいついた。


 ……ドキドキしてたせいで、味はよくわからなかったけど、お腹と心は満たされたから、良しとしましょう。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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