第十五話 薬師になるために
ココちゃんとのんびり話をしていると、上の階から良い匂いが漂ってきた。もうそろそろスープが出来るのだろう。そう思うと、さっきよりも空腹感が強くなってきた。
「お待たせしました。準備が出来たので、上に来てください」
「わかりました。ココちゃん、歩けそう?」
「うん、大丈夫——わわっ」
ベッドから立ち上がった瞬間、転びそうになったココちゃんを咄嗟に抱きとめた。
しばらく寝たきりになっていたから、多分足に力が入らないんじゃないかと思っていたけど、予想通りだったわね。
「ご飯は逃げないから、ゆっくり行きましょう。私の手を取って」
「わかった。ありがとう、エリンお姉ちゃん!」
ココちゃんの小さな手を握って、ゆっくりと転ばないように階段を上がると、そこにはおいしそうな野菜スープが三人分用意されていた。
「もう少し栄養のあるものを用意できればよかったのですが、ちょうど家にあったものが少なくて」
「いえ、十分ですよ! オーウェン様、お料理が上手なんですね! 凄いです!」
「ココと生活するために練習をしていたら、自然と身についただけですよ」
「お兄ちゃん、早く食べようよ!」
「ああ、そうだね」
もう待ちきれないと言わんばかりに急かしてくるココちゃんを微笑ましく見ながら、私は二人と一緒に席に着くと、用意してもらったスープを一口飲んだ。
「野菜の甘みが出てて、とってもおいしいです!」
「それはよかった。ほらココ、ニンジンもちゃんと食べないとダメじゃないか」
「……ニンジン嫌い」
「ちゃんと食べないと、元気になれないわよ?」
「それはやだ! 早く元気になって、お兄ちゃんとエリンお姉ちゃんを安心させたい!」
よほどニンジンが嫌なのか、涙目でプルプルと小動物みたいに震えながらも、ニンジンを口に入れたココちゃんは、しっかり噛んでから飲み込んだ。
元気になりたい理由が、私達を安心させるためだなんて、本当に良い子ね。ちょっと涙腺にきちゃったわ。
「そうだ、薬師になるにはどうすればいいかって、ご存じですか?」
「薬師に限らず、何かの職に就くときは、ギルドに行く必要があるんですよ」
ギルド……全然知らない単語が出てきたわね。それっていったいどういうもので、どこにあるのかしら?
「ギルドは多くの町に拠点を置く、巨大な機関です。簡単に言ってしまうと、仕事の仲介人みたいなものですね。薬師に限らず、職に就く際はギルドに登録をして、許可を貰う必要があります。ギルドを通して仕事を出したり、仕事を受けたりすることも可能です」
「ふむふむ……オーウェン様も登録されているんですか?」
「ええ。騎士として登録して、護衛や力仕事の依頼を受けています」
「……一応お聞きしますけど、それをしないとどうなるんですか?」
「最悪、違法とみなされて投獄されます」
な、なるほど? とりあえず……ギルドのおかげで、仕事を依頼したり受けたりするのがスムーズになるし、登録をしないで悪いことをしようとしている人に、騙されないようにしているって認識でいいのね?
「では、ギルドに行けば薬師になれるんですね」
「その通りですが……薬師になれた後はどうされるおつもりですか? 住む場所や食事は?」
「…………」
そういえば、その辺りは全く考えてなかった。城を出たのは突然の出来ことだったのだから、仕方がないかもしれないけど……。
「あー、えっと……す、住む場所のあてはありますから大丈夫ですよ! 食事も……や、野草とか食べられるものが、その辺りにたくさんありますし! だから……あ、あはは……」
言っている自分ですら、あまりにも苦しい言い訳だとわかるくらいのことしか言えないせいで、オーウェン様とココちゃんに、凄く心配そうな顔をされてしまった。
「エリンさんがよければ、しばらくここにいるというのはどうでしょうか?」
「えっ?」
「それ、凄く良いよお兄ちゃん!」
オーウェン様の提案は、あまりにも私にとっては予想外なものだった。
だって、私達はまだ出会ってから間もないのよ? そんな関係だというのに、同じ屋根の下に住まわせるなんて、さすがに危険意識が低すぎる気がする。
「さすがにそこまでしてもらうのは……」
「あなたはココの命の恩人です。恩人が困っているのなら、騎士として……いや、人として助けるのは当然です」
「ですが、もし私が本当は悪人で、何か悪さをしようとしていたら、どうされるつもりですか?」
「なるほど、それは考えていませんでしたね。仮にそうだとしても、俺の剣が通用するなら、なんとかなりますから」
凄い自信だと思うと同時に、オーウェン様ならやってのけると思わせる実力がある。
……とりあえず、冷静に考えよう。オーウェン様の提案自体は、とてもありがたい。雨風は凌げるし、色々な素材がある森が歩いて行ける距離にあるのも大きい。それに、ここならココちゃんの経過を見ることも出来るし……。
「やはり、大の男と同じ屋根の下で過ごすのは、抵抗がありますか?」
「いえ、そういうわけではありません。ただ、二人で静かに過ごしているのに、急に転がり込んできたら、ご迷惑じゃないかと思って……」
「わたしは全然迷惑じゃないよ!」
「俺も問題ありません。むしろ、あの後大丈夫かと心配で、夜も眠れなくなってしまうと思います」
……なんだか断りにくい雰囲気になってきた。ここまで私の心配をしてくれてるのに、それを無下にするのは失礼よね?
そんな考えが頭をよぎったタイミングで、ココちゃんはパンっと両手を叩いた。
「そうだ、良いこと思いついた! 三人で薬屋さんを開くのってどうかな! そうすれば、一緒に住んでもおかしくないよね?」
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