第十三話 とある貴族の過去
「お父様が、お母様を……!?」
重い話になるのは予想していたけど、私の想像の上を行く内容に、思わず目を丸くして驚いてしまった。
「何か事情があったんですよね?」
「ええ。事件があったのは七年前……俺が十五歳で騎士団に入りたてで、ココはまだ二歳の時でした。当時、クロルーツェはとある組織と争いをしておりました」
「組織?」
「巨大な犯罪組織です。詐欺や人攫いに殺しと、犯罪なら何でもやっていた組織です。その組織のせいで、国は大混乱に陥りました」
そんな組織がクロルーツェにいたなんて、驚きだわ。私が知らないだけで、アンデルクにもその話は伝わってたのかもしれないけど。
「その組織を壊滅させるため、父が率いる第二部隊も、各部隊と連携して本拠地に攻め込みました。しかし、その途中で敵の罠にはまり、母が捕まってしまったんです」
「……そ、それでどうなったんですか?」
「敵は母を人質にし、全部隊を撤退させるように要求してきました。その決定権は、上司であり、指揮を任されていた父にあったのですが……父は考えに考えた結果、要求を呑まずに、攻め込みました。国や民のためなら自分達の命なんて二の次だと、父も母も決めていたからです」
……話の結末が、何となく読めてきた。もしこの考えが当たっていたらと思うと、胸が苦しくなる。
「その結果、一気に組織を追い込むことが出来ましたが……敵は大量の火薬を使い、共倒れをしようとしました。その結果、騎士団や一般人に多大な被害を与えて……滅びました。一部生き残りがいて、逃げられてしまったそうですが」
「お母様は、どうなったんですか?」
「交渉決裂によって、組織のボスに殺されました」
「そんな……酷い……」
既に亡くなっているとわかっていたから、お話を聞いていて、もしかしてそうなんじゃないかと思っていたけど……できれば、当たってほしくなかった。
「父はその後、騎士団の一部から、父の判断が悪かったせいで、国と民に大きな傷を負わされたと、非難されるようになりました。それと同時に、父が母を殺したも同然だという声も上がりました」
「非難……? おかしくありませんか? お父様は国のためにつらい選択をされたのに、どうして非難されなければいけないんですか!? それに、あなたのお父様は、お母様を殺してなんていないじゃないですか!」
きっとオーウェン様のお父様は、身を引き裂かれるような思いをして、それでも国のために指示を出したに違いない。それなのに、どうして責められなくてはいけないの?
それに、大切な人を失って悲しんでいる人に向かって、人殺しなんて言うなんて……信じられない!
「民が非難したくなる気持ちも、わからなくはないんです。父が交渉を呑んでいれば、敵が火薬なんて使わなかったかもしれませんからね。勇ましいといえば聞こえはいいですが、無謀だったのも否めません」
「でも、仮に呑んでいたとしても、使わなかった保証はありません! それに、もっと多くの犠牲者が出る可能性もありましたよね!?」
「ええ。ですが……誰かの責任にしたくなるくらい、あの戦いでの犠牲は大きかったのです」
あまりにも理不尽すぎて、薬を作る手を止めて怒りに身を任せてしまったが、悔しそうに俯くオーウェン様を見たら、それ以上何も言えなくなってしまった。
「……ごめんなさい。つらいのはオーウェン様なのに、私の方が感情的になってしまいました」
「気にしないでください。それで、最初は一部からの声でしたが、段々とそれが広がり……父への非難は、一般人にも責められるくらいにまで広がってしまったのです」
「…………」
「結果、父は全ての責任を負わされました。王の勅命で騎士団を追放され、爵位も剥奪されました。それから間もなく、父は心労で体を壊してしまい……俺とココ、そして母に最後まで謝罪をしながら、この世を去りました」
……あまりにも残酷すぎて、言葉が出ない。国と民を守るために決断したのに、結果的に国と民に責められて、そのまま亡くなってしまうなんて……救いが無さすぎる。
「その後、爵位を奪われたヴァリア家は、崩壊するしか道が無かった。当然屋敷も無くなり、住む家を失いました。唯一残ったのは、少量の金と……ヴァリア家に代々伝わる剣だけでした」
「では、その剣はご両親の形見なんですね……」
「ええ、その通りです。当時の俺は、両親を侮辱する連中に復讐をしようとしました。ですが、当時いた唯一の味方が、そんなことは両親は望んでいないと説得してくれて……自分の気持ちを抑えることが出来たのです」
私には、オーウェン様の怒りと悲しみを、全て理解してあげることは出来ない。今の私に出来ることは、話をしっかり聞いて、少しでもオーウェン様に楽になってもらうことだけだ。
「それに、俺には唯一の家族であるココがいました。ココを育てないといけない……そう決めた俺は、残った金を使って人気が無い場所に小屋を建てて、ココとひっそりと暮らしているのです」
「そうだったんですね……つらいことを聞いてしまって、申し訳ありませんでした」
「いえ、俺は大丈夫ですよ」
言葉では強がっているけど、きっと本人は私の想像よりも、はるかにつらいはずだ。なのに、こうして私に変に心配をかけないようにするなんて、本当に強い方だ。
「つまらないうえに、長々と聞かせてしまいましたね。俺はココの所にいるので、薬の方はよろしくお願いします」
「わかりました。完成したら持っていきますので、なにかあったら呼んでください」
地下に戻っていくオーウェン様を見送った私は、ふう……と小さく息を漏らしながら、再び薬の製作に戻った。
「知らなかったとはいえ、傷口を抉るようなことを聞いちゃったな……」
ちょっと気になったから聞いただけだったのに、まさかこんな話が出てくるとは……自分の浅はかさが恨めしい。
……いや、後悔は後ですればいいわね。今私がするべきことは、ココ様を完治させて、オーウェン様に安心してもらうことだ。
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