第十二話 オーウェンの正体
「なんだ、どうして急に苦しみだしたんだ!?」
さっきまではうなされてはいたが、大人しく眠っていたココ様だったが、薬を飲んだ途端にベッドの上でバタバタと暴れながら、苦悶の表情を浮かべていた。
「まさか、今のは薬じゃなくて、毒だったとか言わないだろうな!?」
「いえ、これは薬の効果で黒染病の病原体が、最後の抵抗をしているんです! このまま少しずつ薬を飲ませれば大丈夫です!」
「…………」
「私を信じてください!」
「……わかりました。俺が暴れないようにするので、薬はお願いします」
「はいっ!」
なんとかオーウェン様を説得した後も、少しずつココ様に薬を飲ませる。その度に苦しんで暴れはしたものの、作った薬が無くなる頃には、嘘のようにおとなしくなっていた。
「ふう……もう大丈夫ですよ」
「本当ですか? 本当にココは助かったんですか?」
「はい。見てください。肌のシミが、私が見た時に比べて、格段に減っています」
「確かに減っている……」
あれだけ目立っていた黒いシミが、今では半分以下に消えている。このまま何事もなければ、じきにココ様は目を覚ますだろう。
「こんなに安らかな寝息を聞けるなんて、本当に久しぶりだ……エリンさん、本当にありがとう……! それと、怒鳴ってしまって申し訳ない……!」
「いえ、そんな。聖女として、当然のことをしただけです」
「エリンさん……」
オーウェン様は、私の手を取りながら、何度も何度も感謝の言葉を伝えてくれた。
……私、ようやく聖女らしいことが出来たのね。なんだか感慨深くて、涙が零れそうだ。
「そうだ、何かお礼をさせてください」
「そんなのいりませんよ」
「そういうわけにはいきません」
「うーん……では、さっき助けてもらったお礼ということで」
「それを言うなら、既に俺の傷の手当てをしてもらってますから」
た、確かに……オーウェン様の理屈で言えば、私が助けてもらったお礼は、オーウェン様の手当てになるわね……。
だからといって、いきなりお礼をと言われても、何も思いつかない。こういう時って、どうすればいいのだろうか?
「と、とりあえずお礼の件は後にしましょう。私はもう少しココ様の薬を作らないといけませんから」
「まだ必要なのですか?」
「もし何かあった時の保険は、あった方が良いと思うので」
「わかりました。俺に何か手伝えることはありますか?」
「いえ、大丈夫ですよ。素材を取りに行って疲れたでしょう? オーウェン様は少しお休みしてください」
オーウェン様の提案に笑顔でそう伝えた私は、一階に戻って再び薬を作り始める。先程と違って、今度は時間に追われていないから、ゆっくりと作れるわね。
「エリンさん、一つ聞きたいんですが」
「なんでしょうか?」
「これから先は、どうされるおつもりですか?」
「これからは……聖女の力を活かすために、薬師になってたくさんの人を助けながら、本当の故郷とお母さんの元に行くために、情報を集めるつもりです」
私に続いて一階に上がってきたオーウェン様の質問に簡単に答えると、オーウェン様は難しい表情を浮かべた。
「本当の……やはり色々と訳ありの様ですね」
「はい、色々とありまして……」
ここで婚約破棄をされたとか、長年にわたって利用され続けたとか、色々言うのは簡単だけど、私の厄介事にオーウェン様を巻き込む必要は無いし、わざわざ心配させる必要も無いと思い、黙っておくことにした。
「私も聞いて良いですか?」
「俺に答えられることなら、何でも聞いてください」
「ありがとうございます。オーウェン様は、どうしてこの小屋にココ様と暮らしているんですか?」
私はさっきから気になっていたことを切り出すと、更に言葉を続ける。
「オーウェン様には、平民には無いファミリーネームがあります。それにあの剣……凄まじい切れ味で、素人の目で見ても素晴らしい剣だと思いました。それを使いこなすあなたの剣技や、ティミッドボアを軽々と持ち上げる力にも驚きました。なので、なにか特別な訓練を受けた貴族の方かと……」
「なるほど、あなたの疑問はもっともですね」
オーウェン様は、顔を俯かせながら、深く溜息を吐いた。その一連の行動だけでも、話す内容が重くなりそうだと、私に予感させた。
どうしよう……これ、聞かない方が良かったやつかもしれないわ……。
「つまらない話になりますが、それでもいいですか?」
「つまらないかは私にはわかりかねますが……私が聞いたことなんですから、どんな話でも聞きます。オーウェン様がお話したくないのなら、無理にとは言いませんが」
「本当なら、誰にでも話すような内容ではないのですが、ココの命を救ってくれたあなたには、隠し事をしたくないと思ったんです」
「…………」
そ、そう言われると罪悪感が凄い……私は自分の境遇を隠してるというのに……! やっぱり話すべきなのかしら……?
「エリンさんの仰る通り、俺とココは元貴族です」
「元、ですか?」
「はい。我がヴァリア伯爵家は、代々王家に仕える騎士の家系でした。俺の父も母も、騎士団の一員として、長く国に仕えていました」
騎士団……だからあんなに剣の扱いが凄かったのね。納得だわ。
「父は騎士団の第二部隊の隊長を務めておりました。母もその部隊の一員として活動をしていたのですが……とある事件がきっかけで、父も母も騎士団を去ることになりました」
「……なにがあったのですか?」
「俺の父が、母を殺したんです」
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