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第8話 国家レベルの宝物

 カェウァナは俺の言葉に驚きつつも、キャンピングカーに興味津々の目を向けていた。エンアイナが俺について説明をしてくれると、彼女は信じられないという表情を浮かべた。


「ほんとうにこのかーがはなせるの?どうやって?どこからきたの?」

「それはね、このつえをつかえば、かれのこころのなかでかんがえていることをきくことができるんだよ。」


 カェウァナは日本語が話せない。だからエンアイナが通訳を務めている。

 途中で一瞬、何となく気まずさを感じた。

 生前、街で外国人に出会った時のことを思い出す。彼らは俺には理解できない言葉で話をしていた。俺は何も分からず、ただバカのように立っていた。


「いせかいじんって……?ほんとうにそんなことがあるの?」

「しんじられないよね?しんもさいしょはそうだったんだ。でもひょうりゅうぶつのなかには、いせかいじんのたましいがやどっていて、じぶんのいしきでうごいたりはなしたりするんだ。まさにでんせつどおりだよね?」

「あの……すみません……俺、動けないんです……」


 自分の意識を持つ漂流物なんて、ずっと噂の域を出なかった。その事実を受け入れることができず、カェウァナは驚きのあまり、しばらく呆然としていた。


「これはいしきをもつひょうりゅうぶつだから……こっかレベルのたからものということになるのかな?」

「そ……そうだね……そうかもしれないね……」

「だったら、これはねだんがつけられないほどのたからものなのね?」

「え……ええ……」


 エンアイナはカェウァナの問いに対して、困ったような表情を浮かべた。俺は彼女たちが何を話しているのか気になって、エンアイナに質問を投げかけた。エンアイナは少し考えた後、カェウァナの質問を日本語に翻訳してくれた。


「国家レベルの宝物?それはどういう意味だ?」


 この世界の人々は、異世界の存在に対して混感情を抱いているようだ。異世界人という存在は一部の人々から嫌われているが、その一方で異世界から来たものは非常に重視されているとエンアイナは説明してくれた。

 俺が以前いた世界では、この世界よりも物作りのレベルや工芸技術、実用性が高かった。例えば、弁当箱に保温機能が付いていたり、ガラスの透過率が高かったり、高級刀身鋼を用いた刃物が鋭くて耐久性があったり、そして破壊力が凄まじい銃器など……これらはこの世界の人々にとっては夢のような宝物だった。

 この世界にも似たような機能を持つ魔導具は存在する。しかし魔導具を使うためには魔力が必要であり、すべての人が使えるわけではない。それに対して、異世界から来たものはほとんど誰でも使えるので、それが高く評価される。貴族や富裕層の間で取引され、国家の上層部からも注目される。特に銃火器などの大量殺傷武器は民間に流通させられないため、国家が漂流物を集中管理する名目で回収を試みる。

 意識を持つ俺のような漂流物は、伝説の逸品とされている。もし俺の存在が外部に知られれば、各国が奪い合うことになるだろう。


「なぜこんなことになるんだ?俺には人権はないのか?」

「『じんけん』……ああ、いせかいじんがいいそうなことだね。」


 エンアイナは顔をしかめ、隣のカェウァナに視線を向けた。


「ここではだいじょうぶだけど、そとではぜったいにそんなこといわないでね。」


 彼女は真剣な顔をして警告した。


 多分、他の異世界人がこの世界で人権や自由平等を主張し、多くの人々の考え方を覆したり、社会に不安を引き起こしたから、偉い人からは目障りに思われているのだろう。

 だが、俺は今は『人間』ではなく『カー』だ。『カー』には人権が無いのだろうか?

 今度はカェウァナが俺たちの話が分からなくなった。エンアイナは仕方なくエヌウンコン語で簡単に説明した。

 俺が値のつけようのない宝物だと知ったカェウァナはとても興奮して、エンアイナと言い争い始めた。

 二人は早口で話して、エンアイナは緊張していて、俺に訳す余裕がなかった。何を言っているのか分からないけど、直感的に俺のことで喧嘩していると感じた。


「おいおい、喧嘩はやめろ。お前ら二人を止めるぞ。俺のために争うなんて……」


 ああ、なんて恥ずかしいことだ。

 俺は生まれてから異性に好かれたことがなく、まさか異世界に転生して、キャンピングカーになったら、こんな良縁に巡り合うとは思わなかった。

 世の中ってわからないもんだ。

 二人は長い間言い争って、最後にカェウァナは何かを決めたように、地下室を後にした。


「あなたたち……何を話していたの?」


 俺はエンアイナの顔色が悪そうに見えて、さっき二人がなぜ喧嘩したのか尋ねてみた。


「そうたがいしきをもつひょうりゅうぶつだとしったら、カェウァナはうるのをやめたんだ。」

「そう……そうなの?」


 すごい宝物を拾ったら、自分のものにしたいと思うのは普通だよな。


「でもわたしは、かのじょがもっていてもつかえないし、もったいないといったんだ。かのじょはわたしがさぎして、そうたをうりとばそうとしているとおもって、いかったんだ。」


 エンアイナがそう言っても、俺はまだよく分からなかった。

 彼女は簡単に説明してくれた。俺みたいなカーは、動かすにはある液体が必要だという。でもその液体は、この世界には存在しないんだと。


「その液体は石油というんだ。」

「『せきゆ』……ああ、メモしておこう。」


 漂流物の中には、色々な車がある。この世界の人たちはそれらを分解して研究し、似たような魔導具を作ろうとした。

 前にも言ったけど、魔導具を使うには魔力が必要で、誰でも使えるわけではない。それに模倣品は本物に及ばない。誰かが石油を作れないかと研究したこともある。

 もちろんその研究は失敗した。

 異世界人でも、石油が地中にあることくらいしか知らない。どうやって場所を探して、地中から引き出して、車が使える燃料に精製するかというのは、とても専門的な知識と機器が必要だ。この世界の人間が半分も分からない研究成果で、成功するわけがない。

 だから異世界の車は長い間、無用のものとして扱われて、分解されて部品ごとに売られてしまった。


「や……やめてくれ!俺を分解しないで!」


 そこまで聞いて、俺は慌てて頼んだ。

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