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魔女との契約とclone。

 





「あら?誰かしら?」


 俺は得体の知れないナニカに話しかけた。

 想像と違って、まともに会話ができるみたいでホッとしたよ。


「クリスというしがない討伐者だよ。アンタは…見た感じ魔女?のようだけど、俺の奴隷の脚について聞きたい事がある」

「ふふっ。魔女ね。いいわ。あの失敗作についてなら答えてあげる」

「あの脚の何が失敗なんだ?」


 そう。あの脚に文句を付けられるということは、それ以上の技術の持ち主という事だ。

 もしくはあの脚線美に勝てる脚を持っているってことだ!!見せてみろっ!!


「あれじゃあ人と同じ程度にしか動けないわよ。どうせ魔導具化するのなら、それ相応のメリットがなくちゃね?」

「同感だ!アンタはそれが出来るんだな!?」

「ちょっ!?近すぎっ近すぎぃ!?」


 空も飛べない脚などそれは脚ではない!!

 同志を得て興奮した俺は、想像よりも魔女に近寄りすぎてしまっていた。


「ん?…clone?」

「!!何者!?」


 魔女に近寄ると魔法陣と同じく青白く光る英単語が読み取れた。

 それをつい声に出して呟くと、魔女は俺から距離を取り、警戒モード(赤色)に入った。


「何者って言われても…アンタ、クローンなのか?本物は別の場所にいるのか?」


 正確な意味は知らないけど、cloneクローンは俺でも聞いた事はある。


「くっ!本当に何者なのよ!?」

「だから普通の討伐者だよ(転生者だけど)」


「そんな事より教えてくれ。アンタならアリス…あの子の脚を改造出来るのか?」

「そんな事って……ええ。出来るわ」

「!!頼む!あの脚をアップグレードしてくれっ!金は遅れてもちゃんと言い値を払う!!」


 必殺!白紙の小切手!!

 俺には夢がある。アリスに乗って世界を旅するという壮大な夢がな…

 その為なら何だってする!!たぶん。


「言い値、ね。いいわ。その依頼受けてあげる。その代わりこちらの要望もちゃんと聞くのよ?」

「ほ、本当か!俺に出来る事なら何でも!身体か!?身体で払おうか!?」

「そんなモノ要らないわよっ!?!何で私がクローンだと分かったかの情報に決まっているでしょ!?展開を読みなさいよ!展開をっ!」


 何だこの魔女…ツッコミ力高いな…

 ツッコミ力53万かよ。


「わかった。とりあえず本人も交えて話をしないか?今更だが名前も知らんし」

「そ、そうね。いきなり素に戻るのはやめなさい?私がおかしい人みたいじゃない」


 いや、十分おかしいだろ。

 ここは30度近くあるぞ?全身ローブなんて熱中症真っしぐらな格好してる時点でアンタはおかしな奴だよ。






 三人で話し合うとアリスから反対の声が上がった。

 理由は二つ。

 一つは俺が対価を支払うのが嫌だ。

 まぁ、それは言われるだろうと思っていた。

 二つ目は、自分の身体とも言える部分を知らない相手に弄らせたくない。

 これも常識を当て嵌めればわかる。特に年頃の女性だし。


 俺は何とか手術を受けてもらえるように説得するが、なかなか手強い。

 仕方ない…身銭を切るか。


「手術を受けてくれたら、願いを一つだけ叶えよう」


 まるで神の龍になったかのような物言いだな…

 俺の役に立つから受けてくれって言えば受けそうだけど、それは俺が言いたくないんだよな。

 役に立たないって思うのはホント辛いから。


 えっ?役に立ってなかったのは俺だけで、アリスは役に立っているって?

 知ってるよ!だから言えないんだろっ!


「ほ、本当ですか…?」

「本当だ。もちろん叶えられる範囲だけどな」


 俺に出来ることなど少ない!

 少なさにビビるなよ?


「で、では…で、で、で…」

「で?」


「で、デートしてくらさいっ!!」(甘噛み)


 デート…?俺と?


「良いけど…本当にそれでいいのか?」

「はいっ!それが良いんですっ!」


「私は一体何を見せられているのかしら……」


 魔女は俺達の会話のレベルの高さについて来られないようだが、一旦無視だ。


「わかった。じゃあデートだな」

「はいっ!プランは任せますっ!」


 えっ…それは困る…

 だって俺…まぁいいや。なるようにしかならん。


「よし。それで魔女さん。手術はいつにする?」

「魔女さんって…名前教えたじゃないっ!!忘れるの早いわよ!!」


 そうだった。確か…


「じゃ、ジャンさん!」

「ジャンヌよ!!何で男の名前になるのよっ!」


 惜しいっ!


「はぁ…もういいわ…貴方といると疲れるだけよ…

 手術は今からよ。三日後には終わるからまたここに来なさい」

「え?どこでするんだよ?」

「近くに隠れ家があるの。秘密の場所だから貴方には教えないわ」


 隠れ家!!なんて厨二心をくすぐる響き…

 行きたい……


「クリス様。私は大丈夫です。でも…必ず迎えに来てくださいね?」

「当たり前だ。30万(アリス)を置いていく訳ないだろう?」

「はぃ…」


「絶対この子騙されてるわ…」


 魔女改めジャンヌが何か言っているが、無視だ。


「じゃあ三日後の昼にここに来る。浪漫(アリス)を頼んだぞ?」

「任せなさい。貴方もちゃんと説明しなさいよね?」

「当然だ」


 俺は何ちゃって魔女の元を離れる。どういう原理かわからないが、魔女からある程度離れると二人の姿が忽然と消えた。


「不思議だな。いや、そもそも転生も魔法も魔法陣も不思議なんだよな」


 世の中わからないことだらけだ。

 だが、それが良い。その方がワクワクするからな。









「えっ!?アリスを知らない人に預けたっ!?」


 声がデカいよ…


 俺は今日の分の納品の為に、ギルドを訪れていた。いるはずのアリスを連れていない事を不審に思った受付嬢さんが、所在を聞いて来たので、教えられる範囲で答えたらこれだ。


「安心しろ。アリスの脚のメンテナンスの為だ」

「!!そ、そうですか…あれ?この街に魔導具技師がいたかしら?」


 いや、知らん。そもそも正確にはメンテナンスではなく改造だし。

 でも、余計な事は言わない。何だかめんどくさい人みたいだし。


「三日後の夕方には連れてくるよ」

「わかりました。ありがとうございます」


 いや、礼を言われるような事はしてないよ?

 むしろ、貴女の大切な妹を魔改造させています。申し訳なくなるから頭あげてください。



 する事もない俺は、その三日もリザードマン討伐に精を出した。



 そして、三日後の昼を迎える。










「成功よ。私が出来る限りの事はしたわ」


 いつものようにリザードマン狩りをしていた俺の目の前に急に二人が現れた。

 驚いている俺を横目に、ジャンヌが報酬を催促してくる。


「わかった。アリスはここで待っていてくれ」

「…わかりました」


 聞きたいのだろうが、それはまだ早い。というか、理解できなくて一々アリスに説明するのが面倒臭いというのが理由だ。


 アリスから離れた俺は話を切り出した。


「ジャンヌが知りたいのは『何故俺がクローンだと気付いたか』でいいよな?」

「そうよ。教えなさい」

「わかってるよ」


 魔法陣の事は内緒にしたい。しかし、この魔女に秘密に出来るかは自信がないんだよな…


「俺は魔法が使えない」

「…知らないわよ、そんなこと」

「まぁ最後まで聞け」


「その理由は、魔力が目に集まってしまうからだ」

「偶にいるのよね。そんな可哀想な人」


 やめろ!俺だって分かった時には悲しかったんだぞっ!!


「魔力が目に集まるお陰で、人には見えないモノが見えるようになったんだ。それがクローンだと分かった秘密だ」

「…よくわからないわ。何が見えたのよ?」

「ジャンヌは俺には青白く光って見える。その光は恐らく魔法的な何かなんだろうけど、それは俺にもわからん。わかるのはその光の中に描かれている文字」



「それがクローンというわけね」

「そうだ」


 うん。話が早い。


「じゃあ貴方がこの魔法を知っていた訳じゃないってことね?」

「残念だが、知らんな。俺には魔法の素質も素養もないからな」

「…嘘は言ってないようね」


 何でわかるの?

 嘘発見器みたいな魔法でもあるのか?

『貴方!昨日女の人と飲んでたわね!』『ち、違うんだあれは妹だ!』『嘘よ!私には嘘発見器の魔法があるのよ!観念なさいっ!』

 みたいな感じか?


「ジャンヌが何者で、何をしようとしているのか。それについてもどうでもいい。

 これでいいか?」

「話が早くて助かるわ。これからもお互いに詮索なしね」

「同意する。次はこちらの番だ。アリスの改造の成果は?」


 よし!話は済んだ!

 次は待ちに待った改造の成果だ!


「ふふん。驚かないでよ?まず脚力。以前の脚力を1だとするならば、今は10よ!」

「…で?」

「……次は持久力よ。前は走り続けると熱を帯びて走れなくなっていたけど、今は排熱効果を向上させて、本人の体力の続く限り走れるわ!」

「……で?」

「………最後に耐久力よ。素材を魔法薬でコーティングしたことにより、ハンマーで叩いても壊れないわ」


 おかしい…


「空は飛べるよな?」

「飛べるわけないわよっ!!馬鹿にしてるのっ!?」

「い、いや。十分でございます!!」


 ジャンヌの帯びている色が赤に変色した事により、命の危機を感じた俺は、咄嗟に下手に出た。


「ふ、ふん!わかれば良いのよ!!さっ。用も済んだ事だし、私は行くわ」


「そうか。まぁもう会う事も無いだろうが、元気でな」

「そっちもね。アリスちゃん泣かせるんじゃないわよ?」


 それこそ余計なお世話です。

 まぁアリスが嫌われていなくて良かったと思おう。


 魔女ジャンヌとはそこでお別れして、俺はアリスの元に向かった。




「私にもいつか話してくれますか?」


 戻った俺に、アリスが真剣な顔で聞いて来た。


「ああ。なんなら今夜にでも話そう」

「え?そんな簡単に…」


 聞いてきて何を残念がっているんだ?


「それよりも、脚はどうだ?違和感や痛みはないか?」


 オモチャの不具合は持ち主が確認しなきゃな!


「心配ですか?」

「そりゃ…まぁ…」


 なんやねん。このやりとり。


「ふふ。見ていてくださいね!」


 そういうとアリスは走り出した。


「おお。速い速い」


 本当に速かった。恐らく俺と大差無いくらいには速い。

 あれ?俺人間だよね?

 まぁ、討伐者もランクが高い人達は人外だって聞くしな。見た事はないけど。


「えいっ!」


 アリスが可愛い掛け声と共に、木に蹴りを入れた。


 バキッ!


「おお!真っ二つだ」


 ズザザザーン。


 木は音を立ててへし折れた。


 大変素晴らしいが、一つ懸念はある。


「どうでした!?私役に立てますか!?」


 嬉々としてこちらに駆け寄ってきたアリスには酷だが、事実を伝えなくてはならない。


「今だって十分役に立っているよ。でも更に役に立ちそうだな」

「はい!これからは討伐もお手伝いできます!」

「それなんだが…ダメだ」

「えっ…」


 俺の言葉にアリスは愕然とした表情になった。


「な、何故ですか?」

「アリス。確かにアリスの()は強靭になった。でもそれは脚だけなんだ。さっきも見ていたけど、上半身が全くついていけていなかった。あれだと動くだけでかなり負担がきているだろう?」


 俺の的確な指摘に、アリスは項垂れてしまった。


「私ってダメですね…折角クリス様が対価を支払ってまで…」

「そんな事はない。さっきはああいったけど、アリスが強くなったのは事実だ。移動も楽になるだろうし、これから先の努力で更に強くなれるだろう。

 ただ今はあまり無理をしないで欲しい。30万(アリス)が壊れたら悲しいからな」

「クリス様ぁ…」


 よし。これで無茶はしないだろう。壊れたら元も子もないからな!


「よし!じゃあアリスが無理なく走れる速度で帰ろっか!」

「はいっ!」


 まだ日は高いが、アリスとの約束もある事だし、今日のところはこれで終いとした。










「アリス!良かった!無事だったのね!」


 おいっ!信用してなかったのかよ!まぁ当たり前か。

 ギルドにやってきた俺達に、早速受付嬢さんが話しかけてきた。

 そういや名前も知らんな…別にいいけど。


「お姉ちゃん。私は大丈夫だよ。クリス様に大切にされてるから…///」

「あら?惚気?良いわね…私にも良い人が現れないかしら」


 何の話でしょうか?


「そうだ。受付嬢さんはいつが休みかな?」

「えっ…明日ですけど…まさか私も?」


 何の話かな?


「じゃあ明日はアリスと出掛けてきたら良い。丁度アリスも休みにしようと思っていたんだ」

「えっ!?クリス様!それは必要ないと…」

「アリス。俺はずっとこの街にいるわけじゃない。お姉さんとの時間は限られているんだ。姉孝行してきなさい」


 必ず見つけてみせる…

 アリスを飛ばせる技術者を…

 俺は野望の為に姉妹の距離を裂く所存であります!


「!!わかりました。ありがとうございます。お姉ちゃん、いい?」

「勿論よ。明日は楽しみましょうね!ありがとうございます。クリスさん」


「気にせずに楽しんでくれ」


 何せ俺の都合で会えなくなるんだからな。少しでも罪悪感を減らしてくれたまえよ。


 今は悪が微笑む時代なんだ!!

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