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沼地の魔女。

 





「本当に着いてくるのか?」


 欲しいものは手に入ったけど、やりたい事には恐らく金が掛かる。その為に変わらずリザードマンの所へと向かおうとしている俺に着いてくる不思議の国の女の子が一人。


「はいっ!クリス様の行かれる所であれば、どこまでも着いていきますっ!」


 うん。君は根っからの奴隷だねっ!

 間違いなく天職だよ!


「わかった。とりあえず街の外に出ようか」

「はいっ!」


 うん。最初のアレは何だったんだ?まぁいいか。






 やってきたのは街の外。沼地方面には人っ子一人いない。街は近いのにな。


「目的地は歩いていくにはやや遠いんだ。だから走っていく。アリスは走れるか?」


 足元を見ると憧れの金属部分が長いスカートから顔を覗かせている。

 少女の下半身をジロジロと見るわけにはいかず、俺は視線を外す。が、どうやら少し遅かったようだ。アリスはこちらを見てモジモジと顔を赤らめている。誤解だぁ……


「はい!この足はその為に手術したのです!」


 ちゃうやろっ!!普通の生活を送る為だろうが!!


「わ、わかった。とりあえず行こうか。着いてきてくれ」


 何だかペースを握られている気がする…

 俺は気持ちが騒つくのを無視して、足を動かした。








「きゃーっ!凄いです!」


 うん。もう少し声のボリュームを抑えてくれないかな?

 アリスは普通に走れたが、それはあくまでも普通にだった。

 このままでは日が暮れると思った俺は、アリスを抱えて沼地へと向かう事に。


「喋ると舌を噛むぞ。もう少しだから我慢してくれ」

「はいっ!!」


 うん。返事はいいね。

 俺はアリスをおんぶするつもりだったが、何故か頑なに抱っこを強要されてしまい、所謂お姫様抱っこで沼地へと向かった。


 あれ…?俺って一応ご主人様だよね…?快適快速移動運搬車じゃないよね?







「わぁ…ここが沼地ですか…」


 漸く着いた…絶対一人の方が効率がいいぞ……

 まぁ着いてくるのは止められないな。こんな何も無い沼地でもこれだけ喜んでくれるんだし。

 …チョロインかな?


「あまり沼地に近づかないように。まだリザードマンにしか遭遇していないが、他の魔物がいないとも限らないからな」


 あれ…言ってて自分で怖くなった。

 俺ってば何も考えずに沼地に素足で入ったけど、沼の中に他の魔物がいないとは限らないじゃん…


「はいっ!もし私が襲われたら助けてくれますか?」

壊れたら困るからな(当たり前だ)。もし失ったら俺のお金が(生きていられない)…」

「えっ…そこまで…」


 俺が本気で落ち込んだ顔をしたからか、何だかアリスが感動している気がする……それよりも。


「あそこにいるのがリザードマンだ」

「あれが……可愛い見た目をしていますね」


 えっ?この子魔王か何かかな?

 どんな環境で育ったらアレが可愛いく見えるんだよ!!


「と、とにかく!アレを討伐するからそれ以上沼地に近寄るな!」

「はいっ!私に出来ることがあれば何なりとお申し付け下さい!いざとなれば盾にしていただいて構いません!」


 するかっ!!アリス(30万)だぞ!俺の命より重いわっ!!


 くっ…またペースが…


「グロいからあまり見ない方がいいぞ」

「え?」


 ビュンッ

 ビュンビュンッ


 俺は足元に転がっている小石を拾って手首のスナップだけで投石した。

 これまでが大げさだった。そりゃ10センチ以上の岩みたいな石が当たればバラバラになるわな。


 バシャバシャバシャバシャ


 小石が貫通したリザードマンが沼地に倒れ込んだ。

 それを確認した俺は一応隣人の反応も確認する。


 何だか口をパクパクさせながら呟いてるな…

 鯉かな?俺に恋に落ちる前に鯉になったのかな?


「う、うそ…何をしたの…」


 そうそうそういうのが欲しかったんだよ!!


「ふっ。俺にかかればリザードマンなど雑魚なのだよ」

「す、凄いですね…てっきりその腰のナイフで戦うのかと…」


 アレ?なんだか思っていた反応と少し違う……アリスは少しガッカリしてる?

 痛ぶる趣味もないけど、奴隷を喜ばせる趣味も持っていないからいいけど。


「これは解体用だ。とりあえずあの三体を回収してくるよ」

「それなら私が向かいます!!」

「ダメだっ!!機械部が故障したら(怪我でもしたら)困る!!」


 俺にはあんなに複雑なモノを直すスキルなどないんだぞ!!壊したら本気で泣くからな!!


「は…はぃ。お待ちしていますぅ」


 ん?どこに顔を赤くする事があるんだ?


「まぁその服を汚すわけにもいかないしな」


 俺の服の10倍以上の値段はするだろうな。奴隷商のサービスだから実際のところは知らないけど。


 俺はいつも通り裸足で沼地へと入っていった。






「凄いな。完璧だ」


 奴隷なのに何もしないわけにはいかないとアリスが頑なになったから、とりあえず剥ぎ取りをさせてみたところ、綺麗に魔石と逆鱗を切り取っていた。


 何この切り口の小ささ…俺とか魔石を取るのにバラバラにしてたよ?


「いえ。単純な解体なので……ですが、もう少し難しくても出来ます!なので…」

「なので?」

「…また討伐に連れていってくれますか?」


 何このあざとさ全開の生き物…


「あ、あぁ…」

「やったぁあっ!」


 べ、別に可愛いとか思ってないしっ!!解体が便利だから連れて行くだけなんだからねっ!!


 俺のツンデレとか誰得なんだよ…









「何ですか…これは?」


 リザードマンを時間一杯討伐した後、ギルドに納品して、今は宿に帰ってきていた。

 ちなみに宿代はちゃんと二人分取られている。奴隷は持ち物ちゃうんかいっ!?


「何って、働いたら報酬があるのは普通だろ?」

「!!い、いただけませんっ!私は着いて行くだけで…いえ、それもままならず足を引っ張っていました……」

「なぁ。俺の話を聞いてくれないか?」


 この子は昔の俺だ。俺と違うのはしっかりと役目を果たしているということ。


 俺は過去(魔法陣に出会う前)の話をアリスに聞かせた。




「信じられません。…が、奴隷が主人を疑う事はあり得ません。わかりました。では有り難く受け取らせて頂きます」

「そんなに堅く考えなくていいから。自分のお金は好きに使ってくれ。但し、買い物に行きたい時はちゃんといってくれ。遠慮はなしだ」


 俺の過去話が今の俺と結びつかなかったようだな。

 うん。俺も何でこんな風になったのか、今でも不思議です。


 買い物は一人で行かせても良いけど、トラブル防止の為になるべくなら付き添いたい。

 あっ!そうだ。


「休日はどうする?五日に一度…は少ないか。三日に一度でどう?」

「えっ……私って、そんなに邪魔ですか…?」


 えっ!?何で!?なんで泣いてるのっ!?


「ち、違う!邪魔じゃないっ!でも休みが必要なのは本当だ!休みがないと人はどんどんパフォーマンスが下がって、逆に効率が悪くなるからなっ!」


 何で休みを与えて俺が狼狽えないといけないんだ…


「そ、そうですか…ぐすんっ。わかりました。ですが、休みは必要ありません。

 私に出来ることは少ないですが、必ずお役に立ちますので、見捨てないで…」

30万ダレー(捨てるわけないだろ)!!」


 誰が払ったと思ってんだ!!


「は、はぃ…着いて行きます…」


 泣いたり笑ったり忙しい奴だな。


「そ、そういえば、沼地にいた人は誰だったのでしょう?」

「ん?そんな奴いたか?」

「はい。クリス様が沼の中にリザードマンを回収に向かっている時に、話しかけられたのです」


 初耳だ。

 ちゃんと報告してくれよな…


「どんな奴だった?」

「綺麗な女の人でしたよ…まさかクリス様の追っかけ…?」


 うん。そんな奇特な人がいるわけがない。

 沼地の女ね…心当たりは全くありません。


「その人は私の足を見て『ガラクタね』と、一言告げると何処かに行ってしまわれました」

「なんだと…?」

「ひぃっ!?」


 俺の浪漫を貶す奴だと…?万死に値する!!

 ん?何でアリスは俺から離れたんだ?

 まさか臭いか!?

『お父さんと洗い物一緒にしないで!』って奴か!?


「ごほんっ。そいつはどんな格好をしていたんだ?」


 俺は怒りを抑えて事情聴取を行った。










 翌朝、俺たちはまた沼地へとやって来ていた。


「あそこです」


 アリスが示したのは、前日の最後に解体を行った場所だった。


「もし、今日もその女が話しかけて来たら…いや、見かけても教えてくれ」

「はい。見かけに騙されないで下さいね?女性の美しさは内面です!」

「あ、ああ」


 美少女が言っても説得力ないな。

 それを言うなら俺みたいなモブ顔じゃないとなっ!


 まぁ心配しなくてもハニートラップに掛かる俺ではない。むしろ違う魅力がその女性には有りそうなんだよな…






 昨日と同じように、俺がリザードマンを倒す、拾いに行く、アリスが解体する、その間にまたリザードマンを倒す。とルーティン化していた作業に待ったの声が掛かる。


「いました!あの人です」


 アリスの白く細長い指先が示す所に、沼地とは思えない格好をした性別不明なナニカが立っていた。


「あの黒い帽子に黒いローブを纏った人か?」

「はい。どうされますか?」

「とりあえずアリスはここで待っていてくれ」


 危害は加えないだろうが、相手の素性がわからん。

 俺だけなら逃げられるだろうから、アリスには離れたここで待っていてもらおう。


 俺は目測で200m程離れた場所に佇むナニカに向かう。


「青白いのは魔法陣だけじゃなかったんだな」


 そのナニカは青白く発光していた。

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