男の浪漫。
「うげぇ…」
リザードマンを見た俺の第一声がこれだ。
想像は出来ていたけど、なんかもう少しどうにか出来なかったのか?
というのが感想。
爬虫類だからか奴らは温度を感じさせない見た目をしていて、氷の受付嬢も裸足で逃げ出す程の冷たい眼差しをしている。
ミミズとヘビとトカゲを足しまくって出来上がったフォルムは、俺に忌避感を持たせるには十分な存在だった。
「4、5体の集団で生息しているな。情報とも当てはまる。なるべく近寄らずに倒したいなぁ…」
俺がいる所はまだ普通の地面だけど、奴らがいる所は沼地だ。
基本ビビ……ごほんっ。慎重派の俺は、地の利が向こうにある状況は喜べない。
どうにか誘き寄せるか、遠距離で仕留めたかった。
「食らいやがれっ!!」
ビュンッ
思いついたのは原始的な方法でした。
ドガッ
ザバーンッ
俺が投げた石は、リザードマンに命中した…けど…
「身体バラバラやんけ…うえっ…」
元々爬虫類に耐性のない俺には、この後どうすれば良いのかわからなかった。
「やるか…」
始まってしまったモノは仕方ない。とりあえず、生き残りの三体も片付ける事にした。
「ふぅ…倒すのは簡単だけど、事後処理がなぁ…」
靴は一足しかない。仕方なく靴を脱いで沼地へと入った俺は、リザードマンの死体を回収した。
ちなみに二回くらい吐いた。
アイツらバラバラになっても暫く動いてるんだよな……それがまた…なんとも…うぇっ…
「魔石が四つに逆鱗が三つか……硬いって聞いてたのに、石が当たったくらいで壊れるなよな」
100m程離れたところからの投石だ。当たるだけ凄いって思われなきゃやってられん!
首なんか避けれるかよ…
「まぁ高々200ダレーだ。端金だよ」
魔石は値段の通り相応に大きく、逆鱗は逆に小さかった。
「これならいくらでも運べるし、変な噂もされないだろう……完璧な作戦だ!」
今日泊まる予定の宿に荷物を預けて、俺は革袋のみを持参していた。
革袋はもちろん素材を入れる為のもの。
臭いが移らないように念入りに洗ってから仕舞ったのは言うまでもないだろう。
俺クラスになると、リザードマンの臭いだけで二回は吐けるからな!
「はい?もう戻ってきた上にこの数ですか…?」
可愛い子の未知のモノを見る目は堪らんな…
いやいや!!俺にそんな性癖はなかった筈だっ!!
まぁ可愛いは正義なのは間違いないけど。
「ああ。走ればすぐだった。それよりもリザードマンは街を襲わないのか?かなり多かったぞ?」
「リザードマンは湿地帯…沼地を自ら出ることはありません。なので人が襲われるとしたら水辺などの近くだけなので、増えても脅威にはなりません」
なるほど。それにあの見た目だからな…
お陰でリザードマンは増え続けているってわけか。わかるぞ!
「リザードマンの討伐数が少ないのは、ご存知の通り沼地だからです」
「えっ?見た目がキモいからじゃないのか…?」
「は?…失礼しました。つい心の声が…」
おいっ!えらくドスの効いた心の声だな!?
寿命が二分くらい縮まったぞ!!
まともに戦っていないから強さはよくわからんけど、てっきりキモいから敬遠されていたんだと思っていたな……
「とにかく!こちらはお預かり致しますね。暫くお待ち下さい」
「あ、ああ。頼むよ」
可愛い子が取り乱す所を見えたんだ。これはきっとご褒美だろう!
何のご褒美か、だって?
俺にもわからんよ。良い子には神様がご褒美をくれるモノなのさ。
「お待たせしました。魔石が22個で8,800ダレー。逆鱗が18個で3,600ダレー。全部で12,400ダレーになります」
番号が呼ばれて受付に行くと、これまでで最高額の収入を得た。
俺は初めて持つ大金に手が震えそうになるが、可愛い子の前で情けない姿は見せられない!気合いで手の震えを抑えた。
「あ、ありがとう」
「?…逆鱗の数が少なかったのですが、どうされましたか?」
「ん?ああ…」
大金に緊張して吃った俺を不思議に思うが、どうやらギルドとしては聞いておかなければならない事のようだ。
そりゃ魔石や素材が商売道具だもんな。
「遠距離で倒していたからいくつか破損させてしまってな…俺もショックだったよ…」
怒られるかもしれないから先手を取って『私も被害者ですよ?』作戦を遂行した。我ながら完璧だ。
「えっ…もしかして高名な魔法使いの方でしたか?無知なもので申し訳ありません!」
俺の遠距離攻撃が魔法によるものだと勘違いしている受付嬢さんは、身を縮こまらせて謝ってきた。
「いやいや!俺に魔法は使えないよ。遠くから投石で倒したんだ」
「は?」
今日一番の視線いただきました!ありがとうございますっ!
受付嬢さんの誤解を解くことは出来なかったが、遊んでいるわけにもいかず、俺は宿へと戻ってきていた。
「ふぅ。食った食った…」
安い宿だけど、料理も美味く、一人部屋だ。一泊300ダリー。
「あのまま引き止められていたら夕食に在り付けなくなるところだったな…」
あの転移魔法陣の場所からここまで凡そ二ヶ月。BBQとは名ばかりのただ肉を焼いただけの食事と漸くお別れすることが出来た。
「とりあえず明日は…豪遊するぜっ!」
財布の中身が潤沢になった事で、俺は自分へのご褒美タイムを取ることにした。
「何もしなくても飯が食えるぞ…」
よくよく考えると悪い事をしているように思えてきた。それ程、これまでの生活が荒んでいたんだ。
何はともあれ、明日は転生して初めての休日だ。それも見た事もない街。
「悪い事をしている感じなのはもう仕方ないな。それでも!それでも俺は休むっ!!」
その後めちゃくちゃ寝た。
「と、言ってもする事がないんだよな…」
金はある。少しだけど…
時間はある。ある意味無限に…
街をぶらついてはいるが、目的はない。確かにここは大都会ではあるんだけど、前世の記憶がある俺から見たら途上国のそれにしか思えなかった。
「ん?何の店だ?」
看板にはこの世界の文字で『ダゾン正規店』と書かれてあった。
ダゾンは…よくある人の名前だ。何の店か入るまでわかんねーな。
時間を持て余している俺はその店に入る事にした。
虎穴に入らずんば虎子を得ずって言うしな!!違うか。
「いらっしゃいませ。当館のご利用は初めてでしょうか?」
「は、はい…」
ヤバい…場違いだ…
外は普通の商店の様に見えたけど、内装は豪華だった。
シャンデリアこそないが、真っ赤な絨毯が敷き詰められたそこは、どう見ても金持ちが来るところだ。何の店か知らんけど。
「失礼ですが、討伐者様でしょうか?」
凄い!俺の職業を言い当てるとは!
俺は自慢じゃないが、ロクな装備を持っていない。見た目は普通の…貧乏な村人ルックだ。
「はい…」
「では戦闘用をご所望でしょうか?」
ん?戦闘用?なんじゃらほい?
「い、いえ…」
何の事かわからん!
ここは前世でもよくあった『街で名前を呼ばれるが、相手の事が一向に思い出せない時の無難な対処法』を使うしかないな!
「ほほぅ…では愛玩用か身の回りの世話をするモノですな?どうぞこちらへ。当館は全てのお客様のニーズにお応えできる品揃えです。必ずやお客様の期待にお応え致しましょう」
えっ…客じゃないです…冷やかしです…
俺はこの男性について行った。もう引き返せない…
「どうでしょうか?素晴らしい品揃えでしょう?」
男に案内された部屋で待つ事十分。男は大勢の女性を伴って戻ってきた。
流石の俺でもわかる。
ここは奴隷商だ。
「す、すばらしいですね。見た事もない美人揃いで目移りします」
ええいっ!こうなったらやけだ!楽しんでやる!!
男の言う通り、みんな美人なのは間違いないしな!
「…ちなみに価格はどのくらいで?」
「ここにいるのはこのモノが15万ダレーで最安で、このモノが100万ダレーで最高級品になっておりますぞ」
た、高い…絶対買えん…
「ほ、他の奴隷で最安はいくらくらいですか?…すみません。何分初めての奴隷商なもので…」
「誰しも初めての事はあります。お気になさらず。そうですな。安い奴隷は年寄りの男になりますな。次いで年寄りの女。高いのは成人後の美女。次いで成人前の美少女になります。特例としては…お勧めしませんが、戦闘力の高いモノが価格も高いですな」
「ん?お勧め出来ない理由は?」
「強いモノは我が強く、奴隷と言っても融通が効かないプライドを持っているモノが多いのです」
なるほどな…
奴隷自体の存在はしっている。
俺も危うく借金奴隷になるところだったし。
奴隷は専用の魔導具を身に付けられ、それにより所在が明らかになる。
それは一度つけると二度と外せない代物らしく、しかしそれ以上の効力はない。
つまり、奴隷の躾は主人の器量によるもの。強い奴隷はいう事を聞かないと…
まぁ俺には関係ないけど。買えないからなっ!
「すみません。どうやらまだ資金不足のようです。出直してきます」
いい店主っぽいから、冷やかしもここまでにしよう。俺はそう切り出して一人ポツンと座っていた椅子から立ち上がろうとした。
「はははっ!わかっていますとも。ですが、しばしお待ちください。私は最初に言いました。どの様なお客様のニーズにも必ず応えると。では失礼します」
「えっ!?ちょっ!?」
俺の制止の声を無視して男は部屋を出て行ってしまった。
「えっ!?この展開は……読めん」
もう少し異世界モノを読んでおけばよかったな…