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過去と今。魔法と魔法陣。

 





 50年前、その時には既にラファエルさんは大魔導士と世間から呼ばれていた。

 当時はこの国ではなく別の国の別の街で家族三人、仲良く暮らしていたそうだ。

 そんな幸せな家庭に不幸が降りかかった。


「妻が病魔に蝕まれていた」


 気付いた時には既に手遅れ。

 どれほど権威のある医師に見せても答えは同じだった。


「それが何故…?」

「理由など知らぬ…奴は…あの悪魔は先が短い妻の命を…」


 僕が未だに思い出せる前世の事は『記憶』ではなく『知識』のみ。

 その知識から、この世界で不治の病と呼ばれそうなものにあたりをつける。


「奥様の症状は?」

「妻の?…いきなり血を吐いたのじゃ。その後は食べる事もままならず、次第に痩せ細っていった……くっ」

「すみません。辛い事を思い出させてしまいました。最後に一つ。その血は赤かったですか?それとも黒かったですか?」

「クリス様っ!!」

「アリス。これは必要な事なんだ」


 辛そうに話すラファエルさんに追い討ちをかけるかの様な僕の言葉をアリスが咎めようとする。

 優しいアリスが好きな僕だけど、今は我慢してほしい。


「…赤かったと思うのじゃ。それが?」

「…恐らくですが奥様は胃癌という病気だったのではないでしょうか?」

「む…確かに誰か同じような事を言っていた医師がいたような…」


 この世界の医療は基本魔法や魔法薬、普通の薬に頼ったモノだ。

 前世の知識にある外科的なモノは存在しない。似たようなモノはあるけど、似て非なるもの。

 むしろ病名を言い当てられた医師は相当に知識があったのだろう。


「胃癌ですが…いえ、癌と呼ばれる病気の殆どの最期は耐え難い痛みが襲ってくるそうです。

 もしかすると、ジャンヌさんはその知識をどこかしらで入手して…それで奥様に手を掛けたのではないのでしょうか?」

「…だからといって家族が死にそうになっているのに助けるほうではなく、命を絶つなど…儂には到底理解できんわっ!!」


 僕も同じ意見だ。アリスがどんな病気になったとしても助かる道を自らの手で終わらせるなど考えられない。

 でも……


「本人からそれを得て、本人がそれを望んでいたとしたら?」


 そう。知識の中に『安楽死』というモノがある。

 これはどうやら僕の前世でも少ない地域でしか行っていなかったことのようだけど、それでも存在するのは、それを本人が望んだから。


「ば、馬鹿な!!妻は家族を愛しておったわっ!!家族を…儂を置いて死ぬ様な弱い女ではないっ!!貴様の様に知らんものに妻を侮辱される謂れはないっ!」


 その言葉と共にラファエルさんの体が真っ赤に発光する。


 拙い!魔法だ!


 怒りに震えるラファエルさんは何をするかわからない!アリス…そうだ!アリスを守らないと!


 僕がアリスを守ろうと動く前に、アリスが僕とラファエルさんの間に立つ。


「アリス!ラファエルさんは魔法を『わかっています』…」


 アリスは僕とラファエルさんの間に立っている。

 だけど僕ならどうとでも出来る。が、僕は何もしない。アリスはちゃんとわかっているから。


「どけいっ!どかぬならお前も!『Stun』!」

「『Magic invalid』!」


 ラファエルさんが一際輝くも、何も起こらなかった。

 ラファエルさんが使ったのはStun(気絶)の魔法。どうやら僕を殺す気はなかったようだ。

 アリスが使ったのはもちろん魔法無効の魔法陣。僕には使えないモノだけど、アリスは早くも使って見せてくれた。


「ラファエルさん。貴方も気付いたのではないのですか?」


 人が怒る理由はいくつかある。恐らくラファエルさんは受け入れたくなかったのではないのだろうか。


「……」

「癌の痛みは人を変えるといいます。奥様は助けようと奔走するラファエルさんを見て、貴方にだけは言えなかったのかもしれません」

「それで娘であるジャンヌ様に…」


 どちらにしても自分の子供に言えることではない。

 だけどそれは、それほどまでに癌の痛みが人を変える事の証左なのかもしれない。

 それでも僕はアリスには死んでほしくないけれど。


「これはラファエルさんのせいでも、ましてやジャンヌさんのせいでもないのではないでしょうか?全ては病気のせい。

 ラファエルさん。僕も同じ状況であれば受け入れられません。

 なのでそれでも妻の仇を討つと言うのであれば止めませんが、協力も出来ません。お力になれずすみません」


 これは本心だ。

 ジャンヌさんはあくまでも取引相手。彼女の秘密を無闇矢鱈に広げない事の代わりにアリスの脚の強化を頼んだ。

 魔法はもっと万能だと僕は思っていたけど、大魔導士と呼ばれる人でさえも愛する者を助けられなかった。


 でも、僕は魔法よりも凄いモノを知っている。

 それなら同じ状況になってもアリスを守れるんじゃないか。

 そう思わせる魔法陣を。










「済まなかったな」


 翌日、僕らの旅立ちの前にラファエルさんが謝ってきた。


「いえ。もしかしたら余計な事をしたのかもしれません……色々と教えて頂き、ありがとうございました」

「ありがとうございます」


 他人の家庭に口出ししたんだ。余計な事だっただろう。しかし、そんな僕にラファエルさんは首を振った。


「確かに受け入れられる事ではない。だがのう。もしそれが本当なら…儂は娘に謝らねばならん。

 いや、謝って済む話ではない」


 これは難問だ。結果がどうあれ、答えのない話に思える。


「50年…漸く人の声が聞こえた。それまでも諭す声は多かったように今なら思えるのじゃが、どれも矮小な存在。クリスの様な強者から初めて言われて気付かされたわい」


 ぼ、僕が強者?それは気のせいでは…

 アリスの方が余程強いと思うのだけど。


「これまでは仇を討つ為に探しておったが、これからはまず、話をする為に探してみる事にする。

 二人も達者でのう」

「はい。ラファエルさんも」

「ご自愛ください」


 僕らは様々な知識を得て、人類最高峰の魔法使いの元を去った。











 ラファエルさんの元を発ってから十日の時が流れていた。

 僕達は今、この国で初めて訪れた街の宿にいる。


「出来た…」


 ここで行っていたのは、魔法無効以外の魔法陣の作成だ。


「お疲れ様でした。不思議ですね。魔法陣と魔法が全くの別物とは…未だに信じられません」

「そうだね。でもラファエルさんが知らないだけで、もしかしたら同じ魔法かもしれないよ?」


 ラファエルさんも魔法陣の存在は知っていても、実物を見た事がなかった。

 唯一見れる僕からしたら、魔法も魔法陣も同じに見えるけど。

 ラファエルさんが使った魔法も魔法陣と同じく英単語が使われていたし。


 恐らく過去に誰かが伝えた魔法は言葉だけで使う事が出来たから遺ったけど、魔法陣みたいに形あるモノは失われたんじゃないかな?

 と言うのが僕の持論だったりもする。


 むしろその二つとは異なる魔導具こそが別物のような気がしてならない。

 流石に魔導具の知識までは欲しないけど。これ以上は寿命が短い僕達人間には無理だからね。

 僕は僕だけの魔法陣で手一杯。


「さて。これで一通りの魔法陣は作れたから、この街に用はもうないね?」

「はい!subspace(亜空間)の魔法陣のお陰で荷物はないので移動も楽になります!」

「じゃあ明日の朝に旅立とうか」

「はいっ!」


 魔法陣を見つけ、調査も進んでいる。

 以前の僕は喜んでくれるだろうか?

 ふと、そんな想いが過る。


「案外どうでもいいって思っていそうだね…」

「?なにか?」

「ううん。なんでも。じゃあ寝よっか?」


 僕の独り言にアリスが律儀に応える。

 僕は一人じゃない。それだけがこんなにも嬉しいのは、以前の僕が寂しがり屋だったせいに違いない。

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