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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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2021年5月29日21:32 永葉県大桑村腹谷裏庭


 痕跡を残せば、跡を辿られる恐れがある。

 最後に降下する知樹はそう考えると自らロープを切り落とし、擁壁に掴まって降下した。

 登れるのだから、下りるのも不可能ではない。


 手を放して落下し、空中で次の出っ張りを掴む。この繰り返しだ。


 落ちて来た縄に困惑した一同だったが、崖を掴んで降りてくる彼の姿を見るとドン引きした。

 意図は理解出来るが、ここまでやるのかと。


「なっ、なにこの畑?」


 暗がりで気付けなかったが、腹谷家の畑は花畑になっていた。

 しかし一見してこれを花と判断することは出来ない。

 茎の先に何やら丸い、果実のようなものが成っている。


 花が咲く前のもの、一般人の分析ではこれが限界だろう。

 一方、知識のある人間が見れば、これが何なのか一目でわかる。

 わかる人間が、飛び降りて来た。


「おい、これはなんだ」

「はっ、花だよっ。それよりも、ウチへ避難をっ」

「これはなんだっ!」


 明らかに激昂した知樹が、ライトで畑の花を照らした。

 ここで初めて、ところどころに咲いた個体があることに気付ける。

 薄紫をした4枚花びら。


 さらに追い討ちをかけるように、知樹が実に刃を入れた。

 すると、白濁とした液体が漏れ出す。


「これっ、芥子(けし)の花っ?!」

「それって、アヘンの?!」


 日本史教諭の弥生も、流石に気づいた。

 そう、腹谷獄介の裏の顔。

 アツミゲシが日本中に野草として存在しているのを良いことに、畑の一角で芥子を栽培していたのだ。


「ちっ、違うんですっ! こ、これは単なる雑草で……」

「雑草にしては随分と多いな」

「そっ、そりゃねっ。雑草はすぐ増えるから……」


 鋭い右ストレートが獄介の顔面に突き刺さった。

 瞳に宿った炎が、さらに激しさを増す。


「この……(クズ)めっ」

「待ってぇっ、アツミゲシから採れる量なんて、大した量じゃないっ。友達と楽しむためだけでぇっ」

「薬品を使えば効率的に成分(アヘン)を抽出できる」

「ぼっ、何で僕だけぇっ。みんなやってるのにぃっ」

「商売じゃないってのは認めてやるよ」


 獄介はあっさりと、聞いてもいないのに周囲に同業者がいると口を滑らせた。

 違法なビジネスに関わる人間で、口の軽い者は長生き出来ない。

 身内に情報漏洩源と見做され、排除されるからだ。


羅宮凪島(この辺)じゃ、昔からアヘンが流通してたけど……お前らの仕業か」

「違うんだっ。僕はただ、金剛寺家の奴から種を譲ってもらってっ」


 突如現れた島の大地主の名に一同は凍りついたが、知樹にそんな言い訳は通じない。

 次に出てきたのは拳や足ではなく、銃だった。

 栄輔から拝借した、38口径のリボルバーだ。


「まっ、待ってぇっ……殺さないで……」

「お前のような(クズ)は死んだ方がいい」


 撃鉄を起こす。迷いなく、彼は本気だ。

 人差し指を止めているのは、弾の無駄遣いになる。

 それに、銃声で存在が露呈するかもしれないという打算だけだった。


───なら、刃物に切り替えよう。静かで弾も無駄にならない。


 戦いの理性が合理的に囁いた。

 その通りだ、そうしよう。

 拳銃を納めて鎧通に手を掛けた。その時だった。


「待てっ! やめろっ!」


 偵察に出ていた徹が異変を察知し、慌てて戻ってきた。

 怒りを滲ませた表情のまま、知樹は彼を迎えた。


「銃は使わない」

「そうじゃないっ。今はそんな真似をしてる場合ではないと言ってる!」

「こんな(クズ)ッ、生かしておいたら寝返りかねない!」

「落ち着け、こいつは小心者だ。殺しに来てる相手と交渉する度胸はない」

「そっ、そうっ。そんな度胸ないって。それよりも……」


 自己弁護を横から入れた獄介だが、矢のような睨んだふたつの視線に口を閉ざした。


「それよりも、今は家の確保に集中しろ」

「放っておくのかっ? この(クズ)をっ」

「こんな小物の相手より、もっとやるべき事がある。違うか?」


 研修センターのホール。

 男の声で何かを強く拒絶する声が聞こえた。

 デミノの声で、処刑の宣言が聞こえた。


 あれは、何かの強要を獄介が突っぱねた場面だったのではないか?

 少し冷えた頭で、知樹は分析した。


「こいつは事が終われば相応の罰を受ける」


 人を狂わせる悪党を許す気はない。

 化け物も獄介も、そういった意味では同類だ。


化け物(やつら)と違って、法に基づいた罰だ。俺達(ひと)は遊び半分で殺したりはしない。違うか?」


 自分達は侵略者ではない。虐殺者ではない。

 それに対抗する(正義)だ。


 呼吸し、精神を落ち着かせる。


───俺は、化け物ども(あいつら)とは違う。


 人である事を証明するため。怪物ではないと証明するため。

 知樹は鎧通(殺意)を鞘に納めた。


「妙な真似をしたら……殺す」

「しませんっ、しませんともっ」


 鋭い視線を送ると、知樹は行く先へと意識を向けた。

◆今は争っている場合ではない───

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