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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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2021年5月29日18:26 永葉県大桑村桑葉川


 大桑村を二分するように流れる桑葉川(くわはがわ)

 谷の底に位置するこの川は、日没間もない時間帯でも十分目立たない。

 東西を覆う山々が、日の光を早々に遮ってしまうためだ。


「離れるな、ここから深い場所が増えてくる」


 この川をその身をもって知り尽くす徹が先導し、ふたりは足を濡らす。

 ふと、知樹が見上げて道を見ると松明の火が県道を照らしていた。

 巡回している暴徒がいるのだろう。


「川の地形を把握している奴はそう多くない。連中も犬死にしたくないなら、避けるはずだ」

「じいさんみたいに、ガキの頃遊んでなかったのか?」

「悪ガキなら、遊んじゃダメと言われた場所で遊びたくなる。違うか?」


 不良住民は、若い頃から不良なのだ。

 呆れ半分で知樹が追従していると、足裏で空白を感じた。

 数センチずれていたら、河童に引きずり込まれたことだろう。


「っべ……」

「踏み外すなよ、この暗さじゃ助けられん」


 路沿が近づくにつれ、異様な気配が強くなっていった。

 濃厚な人の気配。大桑村では貴重な気配だ。

 さらにこの暗さで、燃え盛る炎は存在感を増す。


「じいさん、あれ見えるか?」

「馬鹿にするな」


 研修センターに続く唯一の道。そこに大量の暴徒が集まっていた。

 しかし、少し特殊な状況に見えた。

 彼らは殺到しているわけではなく、渋滞している。


「松明を設置して腰を下ろす。あれは、包囲だろうな」


 スコープで観察した徹はそう結論づけた。

 それ以上の詳細は谷の底からは伺えない。


「間違いない、生存者がいるぞ」

「なんで一斉に襲わない? あの数なら、ひとたまりもない」

「忘れたのか? 俺達も似たような状況だったはずだ」


 徹の家に逃げ込んだ時。

 暴徒達は家を包囲はすれど、積極的に攻め込みはしなかった。

 その状況と、研修センターの状況は合致していた。


「煽ってるんだ、絶望とやらを」

(クズ)どもめっ」


 害意ある人間達に逃げ場を奪われれば、常人は心が壊れる。

 そうする事で何を得られるのかはわからないが、間違いなく望んでいる。

 それだけは確かだ。


「ああ、時間もなさそうだ」


 青い大きな背中。

 知樹も忘れていない。デミノと呼ばれる巨人が、坂をゆっくりと登っている姿が目に入った。


 暴徒達は思考能力を奪われ、恐らく化け物に従わされている。

 その化け物が最前線に出るという事は、何かをさせるということだ。


「急ぐぞ」

「ああ」


 足早に川を進み、路沿の橋の下へ到達する。

 そこで徹が手を組み、知樹の足場となった。


「様子はどうだ?」

「誰もいない、上げてくれっ」


 左足を組んだ手に置き、右足を肩に置き。

 続いて知樹の合図で手を掲げ、昇るための足場とする。

 先行して安全を確保し、残った徹を引っ張り上げる。


 包囲に動員されたのか、路沿からひと気は完全に消え失せていた。

 時折血溜まりと死体が転がるばかりで、戦場のような様相を呈している。

 その死体のひとつに、徹は違和感を覚えた。


「見ろ、こいつは銃でやられてる」

「散弾とか小銃弾じゃないな、拳銃?」

「駐在がひとりいるんだ。あいつも無事だといいんだが」


 特別仕事熱心ではないが、金に転ぶような悪徳ではない。

 一目置いていた人間の無事を祈りつつ、徹は研修センターと書かれた看板とは違う道を進み始めた。


「こっちじゃないのか?」

「あの軍団に正面から挑むつもりか? 迂回だ」


 住宅の隙間を抜け、裏庭を通り、民家を通過する。

 そこに現れたのは補強工事が施された(擁壁)

 出っ張りはあったが、それでも高さ20メートル近くある。

 落ちればひとたまりもない高さだ。


「ここが近道だ。昔と比べて登りやすいが、落ちるなよ」

「とんだ元異常少年(クソガキ)だ」


 命綱はなく、下に緩衝材もなく。

 自分を守るのはコンクリートを掴む腕と、出っ張りに掛ける足だけ。

 地獄の半歩隣を進む。

 目的地は、地獄のど真ん中。

◆こいつらいつも命懸けてんな───

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