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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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2021年5月29日18:18 永葉県大桑村県道32号線


 幸いにも、道中誰かに会う事はなかった。

 一方で、あの巨人が行って戻った理由がすぐにわかった。

 途中の電柱はことごとく横倒しにされ、道路に横たわっている。

 犯人は言うまでもない。


「これじゃ、車は簡単に近づけないな」

「電力も通らなくなるわけだ」


 道路の封鎖と通信・電力網の寸断が出来る。

 まさに一石二鳥の工作だ。

 しかし、破壊工作はこれだけに留まらない。


 道を北上し、山に隠れた行く先を見やる。

 目につくのは薙ぎ倒された電柱。続いて、軽い土砂崩れ。

 岩や引っこ抜かれた木で道路が塞がれていたのだ。


「連中、この辺りを完全に陸の孤島にしやがったな」

「これ、出れぇせんのと違う?」

「多分大丈夫だ。人が通る分には問題ない」


 土砂崩れと距離が近づくにつれ、三人はエンジン音に気付いた。

 反対側で車が立ち往生しているのだ。


「そこに誰かいるのか!」


 徹が呼び掛けると、声が返ってきた。


「すみません、日本車両協会(JVF)の者ですけどぉ!」


 JVFは車両の事故やトラブルに対処する事故被害者の味方だ。

 それが大桑村に向かっていたとは、とんだ不幸の持ち主もいたものだ。

 そして、知樹達にとっては幸運をもたらしていた。


「どうにかなりませんかねぇっ? この先に自走不能の車があるそうなんですが!」

「ああ、そうだな……」


 今、大桑村は化け物と洗脳された人々に占拠されている。

 正直に告げれば、向こうにいるJVFの人間は踵を返して帰るだろう。

 警察を連れてきてくれるかもしれないが、数人の警官で対処出来る事案ではない。


 ならば、少々の嘘が必要だ。

 徹は機転を効かせた。


「この土砂崩れはどうしようもないが、村で熊が複数暴れてる!」

「えっ、熊っすか?!」

「そうだ! 俺は村に戻らなきゃならんが、保護が必要な人がいる!」


 そう言うと、徹はふたりを振り返った。


「研修センターは俺がなんとかする。ふたりは脱出しろ」

「何言ってんだよ、物もろくに投げられないくせに」

「黙れ、命令だ」

「俺はお前の部下じゃない」


 知樹を同行させるのは、ただ脱出させたいだけではない。

 もしJVFの車が敵に狙われていたら。

 頭に血が上っている知樹は、その可能性に至っていない。


 しかしこれは、テコでも動かないな。

 半ば諦めた徹は乞うような視線をハルに送った。


 そこにいた彼女は、知らない表情をしていた。

 悔恨と憤怒。穏やかな彼女が見せることのなかった感情。

 それが、ありありと顔面に浮かんでいたのだ。


『情けない』


 先ほど彼女が吐き捨てていた言葉が脳裏を過ぎる。

 嫌な予感を覚えたその時、彼女が動いた。


「あたしは一人でも、このぐらい行けるでね」

「おいハルさん……」


 そう言って土砂の山を越え始めた。

 ここで徹は確信した。


 福塚ハルは、自分の故郷を破壊した化け物どもに復讐したいのだ。

 彼女自身は歳の割に動けるだけで、この状況において無力な人間だ。

 故に、徹と知樹に同行していても足手纏いになるだけ。


「トモくん、ごめんね。あたし、何の役にも立てんで……」

「いいさ、気にすんな」

「あたしに出来ること、するでね」


 ならば、自分は離れて情報を外部にもたらせば。

 ふたりは思う存分暴れて生存者を救い、警察やら自衛隊やらの介入が早まる。

 それが連中を一匹でも多く地獄へ葬るための手段。一人でも多く救うための手段。

 ハルはそう考えたのだ。


「ふたりとも、頑張ってっ。死なんでねっ」


 涙が一筋、頬を伝って土砂へ流れ落ちた。

 土砂の向こうで、JVFの職員が手を貸す気配を感じた。


「えっと、俺どうしたらいいですかね?」

「その人を朝津川まで。通報は電波が入ったらやってくれる」

「わかりましたっ」


 彼もなんとなく、とんでもない事態が起きていると察したのだろう。

 多くを語ることなく、エンジン音が遠ざかっていった。


 陽が傾き、夜の気配が忍び寄る。

 ふたりは視線を交わした。


「馬鹿な真似をしたな。帰ればよかったものを」

「そっちこそ、車にしがみついてでも帰りゃよかったのに」

「お前ひとりで残ってどうするんだ? 研修センターへ行く道も知らんだろうに」


 さっきよりもずっと速い駆け足で、来た道を戻っていく。


「そうだ、伝え忘れてた。村の辺りに熊がいるのはマジだぞ。ヒグマだ」

「この辺りにいるのって、ツキノワ系列だろ?」

「色々あってな。マジでいるから気をつけろよ」


 ひとりは自分の正義を貫くため。

 もうひとりは、故郷を取り戻すため。


 ふたりの戦いが、遂に幕を開けた。

◆反撃開始───!

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