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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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2021年5月29日17:38 永葉県大桑村『スピルバーグ』


 瓶詰めを終えると、今度は高圧洗浄機のタンクに無鉛ガソリンを注ぐ。

 火炎瓶を作る最終工程は、中にいるふたりが担当しているはずだった。


「これでよし、と……」


 ガソリンという物質は恐ろしく揮発性(気化)が高く(しやすい)、発火性も高い。

 慎重に扱わなければ、これを背負っている人間が火だるまになることだろう。

 とはいえ、扱いさえ問題なければ強力な武器だ。


 タンクに封をすると、ガレージに向けて歩き出す。

 その時、巨大な気配の接近に気付いた。


───あのカサンディ(ムシ女)みたいのか?


 咄嗟に給油機の陰に隠れると、散弾銃を抱える。

 ドシン、ドシン。カサンディと同じか、僅かに軽いか。

 それに混じって、人間大の足音も複数混じる。


 方角は北、自分達が向かう村の外へ通じる道だ。

 記憶が正しければ、北の道にはしばらく人里はない。

 そこから戻ってくるということは。


 行く先に何らかの工作を行った。

 そう考えるに難くない。


「んん〜? ……臭うなぁ」

「どうしましたぁ、デミノ様ぁ?」


 また新しい化け物が現れた。

 デミノと呼ばれた青い肌をした巨人は、鼻をひくつかせると辺りをうかがった。


「さっきまではしなかった、妙な匂いが漂っている……なんだこれは」


 よろしくない。

 行ってきた帰りならば、ここの真横を既に通っている。

 そこでガソリン臭が漂っているのに気付いたのなら、戦いの中では警戒に値する。


 すぐ背後では、状況を把握しているかすら怪しいハルと徹がいる。

 加えて、地形的に逃げ道はない。

 逃げることはできない。


 ならば、戦うしかない。

 たとえ相手が詳細のわからない異形であっても。

 散弾銃の安全装置(セーフティー)を解除した。


「これはガソリン……車の燃料ですぅ」

「ふん」


 暴徒の補足に対して鼻を鳴らすと、デミノ一行は移動を再開した。

 まるで、この程度は一瞥する価値さえない些事だ。そう言わんばかりに。


───見逃された。


 視線は合わず、互いの顔すら知らない。

 しかし知樹は確信していた。

 あのデミノとやらはこちらの存在を確信し、無視したと。


「その判断、後悔させてやるぞ」


 巨大な背中が消えると、知樹は立ち上がった。

 このことをふたりにも報告しなければならない。


「いまの、気付いたか?」

「ああ。あいつは初めて見た」


 知樹が戻ると、徹は戦闘態勢のまま出迎えた。

 既に火炎瓶の準備は整い、肩提げ鞄に3本。即応用として用意された。

 残りの持てない分は知樹のリュックに収められていた。


「こいつは俺が背負う。お前は火炎放射器を持て」

「えー、あんたの発案なんだから自分で背負えよ」

「銃は3挺もいらん。お前の手札が増えるんだ、嬉しいだろ?」


 実際、徹は既に小銃と散弾銃の2挺持っている。

 これに火炎放射器を追加すれば手が足りない。

 ただでさえ足りていないのに。


 しかしこれには事情があった。


「俺に投げさせたいんだろ? 素直にそう言えよな」

「うるさい。投げ損ねて全滅するよりマシだ」


 棚田を突破する際、発煙缶を上手く投げられなかった失敗は本人が思っていた以上に堪える(・・・)事態だった。

 加齢という現実。気に入らないのは当然だが、ヘソを曲げて無理をしても死ぬ確率が跳ね上がるだけ。

 ここは荷物持ちに徹して、信用出来る投手に託そうというわけだ。

 彼が抱える苦悩を理解出来ないほど、知樹は鈍くない。


「火炎放射器の発火は俺がやる。一番危険な役だ、これなら文句ないだろ」

「しくじんなよ、じいさん」


 ふたりは拳を重ねた。

 その様子を見て、ハルがクスクスと笑い出した。


「仲がえぇな、ふたりとも」


 その言葉に、知樹は呆気(あっけ)にとられた。

 全くそのつもりではなかったが、客観視してみればそうとしか捉えられない。

 忌むべき、父を追放した一部だというのに。

 だというのに、憎めなかった。


「それは……今だけだ。終わったら覚悟してもらう」

「そうだな」


 気を引き締め直した知樹の表情を見て、徹は寂しげな笑みを浮かべた。

 あの時、自分が彼の父の問題に積極的に介入していれば。

 もしかしたら、あのような事にならずに済んだかもしれない。


「生きて帰れたらな」


 これは単なるエゴだ。

 それでも、この生き方を定められた少年に別の生き方を教えてやれれば。

 あの怨嗟(えんさ)の道を歩く父親と、違う道を。

 心のうちで密かに、そんなことを考えていた。

◆現実で真似をすると危険です。絶対に真似しないでください

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