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2021年5月29日16:03 永葉県大桑村鎮竜神社
カサンディと名乗った異形は姿を見せない。
しかし、あの羽音だけはどこからともなく響いてくる。
知樹は油断なく散弾銃を構え、向こうの動きに備える。
ここでひとつ気づいた。
あの化け物は、知樹の位置に気付いているのか?
銃撃したとはいえ、どこを見ても見当たらない。
あの巨体では、隠れて監視するなどという芸当は無理。
となると───大まかな位置しか把握していないと見るべきだ。
その状況で、ああいった手合いが何をするか?
目立つものを破壊する。それが知樹の推測だった。
「じいさんっ、そこを離れろっ」
暴風。
巨体を宙に浮かべるほどの浮力を生む翅と、大質量の移動が強い風圧を起こした。
そして、激突。
カサンディの巨体が中心部の本殿に突っ込み、建屋を破壊した。
そこの屋根には、徹がいたはずだった。
「じいさんっ、答えろっ」
「この世界の建物、意外と脆いのね。殺しちゃったかしらぁ」
まさか、あの古兵がこんなにあっさりと。
頭では理解していた。実体験もしていたはずだった。
人はどんなに強かろうと、金を持とうと、運が良かろうと───
死ぬ時には死ぬ。
銃を握る手に力が籠る。
思うところはあれど、間違いなく互いに命を預けあった仲間。
それを殺されて、黙ってなどいられない!
───だからこそ、落ち着くんだ。
死ぬことで成される復讐などない。
死ぬべき者は並んだ死体を見ても、鼻を鳴らすだけだ。
殺しの報復は、殺しでやらなければ。
法で裁く手段がない以上、自らやるしかないのだ。
心臓は適度に炎を燃やし、頭は流水のように涼やかに。
戦いに最適な心拍数を維持し、判断を誤らないよう平静を維持するのだ。
神社の構造は三方向を高い壁で覆われ、北に棚田に続く道がある。
カサンディが鎮座する拝殿一体型の本殿は境内南端に位置し、知樹の現在位置である社務所は本殿北西に位置する。
社務所の東には倉庫があり、その間には参道と両端に竜神像がある。
無線機は反応がない。
時折、ぷつぷつと信号が聞こえてくるばかりだ。
「確か、三人? いまので全滅ってことはないわよねぇ?」
やはり。
相手はこちらの正確な位置を把握していない。
銃で撃たれてもこの質量だ。
痛いがどうにかなると判断したのだろう。
社務所から移動し、起伏に隠れながら東の倉庫へ向かう。
ついでにカサンディの様子を伺うと、撃ち抜いたはずの腕と翅は健在だった。
散弾の破壊力では、衝撃と痛みで怯ませることは出来ても、負傷にすら至らない。
絶望的な戦いだが、まだ手札は尽きていない。
散弾銃の弾倉から装填していた弾を取り除くと、新しい弾を装填した。
「おいっ、ハエ女!」
倉庫の陰から、挑発と同時に散弾を発砲した。
今度は人のような垂れ下がった虫のような腹部を狙った銃撃だ。着弾点から血飛沫が上がったが───
「ッ……! いたねっ」
健在に見えるその実、声を掛けた瞬間に庇った。
その腹部の柔らかそうな内側を、その固そうな鎌で。
「なるほどなっ」
作戦は決まった。
倉庫の陰へ身を隠してカサンディの突進をかわすと、フォアエンドを操作して次弾を薬室に送り込んだ。
◆知樹の頭に秘策あり───!




