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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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2021年5月29日09:32 永葉県大桑村城下中心地


「トモくん、よーけ重い荷物背負(しょ)っとるのによー歩くわ」

「俺、鍛えてるんで」

「ほうだわなぁ」


 自身のリュックを背負い、老婆の籠を前に抱える。

 距離としては大したことのない道のりでも、無造作に伸びる藪や荒れた凹凸の激しい獣道が足を重くした。


 そして老婆の家から30分ほど。視界が開かれ、城下の中心地に到着した。

 南の坂の上には大桑山城があった。その下にあるため、城下というわけである。


 城下は大桑山東部の南北に伸びる細長い集落だ。

 田畑の多さはもちろんだが、知樹の目には住宅の古さが目についた。

 大多数が茅葺き屋根の木造建築。新そうなものも、工事現場に設置されるプレハブ小屋だ。


「ほれ。ここが城下」

「なんか、建物が古いっすね」

「そらこんなとこ、業者も来んし、呼ぶ金もあれせんでな。ほんだもんで、噂の東海地震? とか、羅宮凪地震とかあったら、みんなあっという間に死んでまうわ」


 集落東には棚田が広がっており、並ぶ緩やかな坂は軽トラックが一両通過するのがやっとな道幅。

 なるほど、工事の類は難しいに違いない。

 やるにしても現代の業者はいい顔をしないし、料金も高くなる。


 棚田の向こうには、川に沿って敷かれた県道と路沿という集落が見えた。

 路沿の坂の頂点に位置するのは、学校だろうか。


「へぇ、学校なんてあるんすね」

「あれ? 昔はそうだった。ほんでもう、廃校になった」

「なんで?」

「そら、通う子がおらんようになったでだわ」


 通う児童がいなければ、学校など無用の長物。

 当然の結果である。


「今はよーわからん、研修とかやっとって、怪しい宗教みたいな集まりをやっとるな」

「それはそれは……」


 知樹の目が険しくなった。

 その瞳が持つ輝きに恐ろしいものを感じた老婆は、彼の背を叩いた。


「ほれ、他事(ほかごと)考えとらんと、はよ行こまい」

「うっす」


 道を進み、集落北端の民家へ。

 南側が縁側で、最低限の柱以外壁のない家。

 確かに、地震には弱そうな設計だ。


 玄関の戸を開くと、そこは薄暗い土間だった。

 電気は通っているはずだが、照明はひとつもついていない。


「おーい、道代ちゃん! 来たったよー!」


 老婆が呼び掛けるが、返事はない。

 静まり返った民家には、人の気配がなかった。


「いないんすかね?」

「それはおかしい。道代ちゃんはもうよう歩けんし、病院に行ったなら救急車のサイレンが聞こえるもん」


 まさか、何かあったのではないか。

 そう考えた老婆は敷居を跨いだ。


「いいんすか?」

「ふたりとも、倒れとったらかんもん。道代ちゃん! 郁夫さん! 入るよー!」


 ここでボーッと見ているわけにもいかない。

 知樹も彼女の後に続き、民家へ足を踏み入れた。


 外が静かなら、中はさらに静か。

 床の軋みと呼吸、そして心拍以外に鼓膜を揺らすものはない。


 老婆が今を調べているため、知樹は南の縁側に回った。

 縁側の外側にある雨戸ひとつが開いている。


───玄関に靴はあった。縁側には、ない。


 この家の住民が、縁側にサンダルのひとつも置かないのなら。

 それならば、知樹の推測が外れているだけだ。


 しかし、もし合っているのなら、こうなる。

 朝起きて、縁側の雨戸を開いて外に出る。

 そこで歩けると思われる夫に“なにか”が起きた。


 仕舞われた雨戸を引き出すも、こちらに異常はない。

 となると、病気の類ではない。


 思い過ごしならいいのだが。

 知樹がそう考えていると、老婆がこちらにやって来た。


「トモくん、そっちはどう?」

「ばあちゃん。ここの人、縁側にサンダルみたいなの置いてた?」

「え? あぁ、庭に出る時に履いとらっせたわ」


 そして、知樹の視線と外の様子を見て、同じ結論に達した様子だった。


「えぇ……誘拐?」

「言っちゃなんだけどさ、攫ってなんか得ある?」


 本当に言ってはなんだが、この家の住民に身代金を出す相手がいるとは思えない。

 どちらかと言えば、要求される側だ。


 では、臓器目当てか?

 こんな田舎の、恐らく老夫婦では金にならない。

 危ない橋と海を渡って売り捌くにも、コストが掛かり過ぎる。

 臓器売買組織はビジネスマンの集まりだ。出来の悪い臓器を売るタイプは現地調達する。


 となると。

 強盗に武器を使って脅迫され、家の外へ追いやられたか。

 その割に、家の中に荒らされた痕跡は見受けられない。


「……そういや、地方で強盗団が暴れてるって聞くな」

「こんなとこに? とにかく、他の家も見てかなかんわ」


 手掛かりが得られない以上、そうするしかない。

 ふたりは民家を後にすると、最寄りの家へ向かった。


 改めて道を歩くと、村から人の気配が感じられない。

 東の県道を見るとパトカーが集落から出る様子が見受けられたが、城下では一切の物音がない。

 ただ、風で木が揺れるばかり。


 今度の家は比較的新しい、昭和初期ごろといった印象を受ける家だ。

 敷地を生垣で覆う瓦屋根。車庫には軽トラックが停まっている。


「ここは、この辺の地主さんだった家だわ」

イマ風(・・・)って感じ」

「へへっ。やかましいわ」


 互いに笑い合うが、その不安は消えていない。

 窓張りの玄関の戸を叩く。


「田作さん! いらっしゃる?」


 やはり、返事はない。

 さらには戸がわずかに開いていた。

 錠が掛かっていないのだ。


「錠も()っとらんと、どうなってるん……?」


 老婆が戸に手をかけたその時、知樹は背後に気配を感じた。

 余裕がなかったのだろう。足を止めた知樹に気付く事なく、老婆は家の敷居を跨いだ。


 振り返ると、誰もいない。

 ただ間違いなく、大きな何かが後ろを通過した気配を感じた。


 敷地の外だろうか? 後戻りして外を見渡す。

 右にはなにもなく、左は元来た道が広がるばかり。


「気のせいか……?」


 それにしては、何かがおかしい。

 未だ経験したことのない違和感が、知樹の思考にこびりついている。


「なんでぇ、なんだあっ!」


 家の中から聞こえた叫び声。

 反射的に、彼は思考を放り投げた。

◆惨劇が始まる───!

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