表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

66/214

13

 昇降口の戸を閉ざすと、錠を閉め、パイプ椅子で動きを阻害した。

 どれほど時間稼ぎが出来るか怪しいが、それでもただ扉を閉めるのとでは効果が違う。


 間もなく、暴徒達が到着して扉を押し始めた。

 中にはバットを叩きつけて窓を破壊する者もいたが、一般的な校舎と違い設計が古く窓が小さい。

 腕を入れるのが精一杯の隙間に上半身を突っ込んだまま、この暴徒は動けなくなった。


 憎悪の言葉が、風に乗って漂ってくる。


「なんだあっ、この隙間っ! 動けんぞぉっ!」

「おいこらあっ、死ねよぉっ! 開けて死ねっ!」

「ガアアアアッ!」


 強烈なストレスを浴びながら、栄輔はリボルバーの装填を始める。

 シリンダー弾倉を引き出し、銃身下のエジェクター(排出)ロッド()を押して弾倉内の全てを捨てた。

 そして、生じた弾倉の空席にひとつひとつ、弾を込めていくのだ。


「あっ、くそっ」


 彼が拳銃を扱う機会は年数回。いや、一回あるだろうか。

 駐在所に勤める人間には銃を用いた訓練の機会はあまりない。

 だからこそ、起きた事故だろう。


 指が滑り、つまんでいた38口径弾が床に落ちた。

 運命を分ける貴重な一発だ。


 転がる実包を視線で追うも、その姿は下駄箱の下に消えていった。

 腕を突っ込んで探す時間すら惜しい。

 諦めて、手に包んだ4発に意識を戻す。


「なんでリボルバーなんだよぉっ」


 もしこれが、署で勤務する刑事が持つようなオート式の拳銃だったら。

 箱型弾倉(マガジン)でまとまった弾なら、こんなミスはない。

 空になった弾倉を落として、新品を押し込むだけ。


 栄輔はリボルバーが廃れた意味を実感した。


───実戦の最中で扱うには、拳銃の弾一個は小さすぎる!


 震える手を精神で抑え、4つ目の殺意を装填する。

 その頃には上半身を突っ込んだ男が錠を開き、昇降口の戸を持ち上げようとしていた。

 落とした分を埋める時間も惜しい。何もかもが惜しい。


 戸を持ち上げる男に銃を指向し、発砲。

 狙いが僅かに逸れ、銃弾は頬を掠めた。

 頬肉を切り裂かれた顎が、だらんと垂れ下がる。


 常人なら、その壊滅的な被害に恐怖する。

 しかし、彼らは違う。


「あがっ、あがあああっ!」

「やったなぁっ! 殺してやるっ、同じ目に遭わせてやるっ!」


 知っている顔をした、未知の異形が憎悪の視線を向けた。

 恐怖が狙う手を震わせ、注意力を掻き乱す。


 だからこそ、致命的な見落としに気付かなかった。


 ガシャン。破滅の粉砕音が背後で響く。

 校舎の大きな窓には手が入っていない。

 拳大の石を持った暴徒がガラスを割ったのだ。


「がははははっ、後ろをとったぞぉっ!」

「わっ」


 間もなく破られようとしている戸、背後では既に窓から暴徒が入り込もうとしている。

 前門の虎、後門の狼とはこの事だ。

 さらに、他から侵入する可能性は高い。


 前後左右、敵だらけだ。


「くそったれぇっ!」


 もはや、この場から逃げるしかない。

 逃げる。どこへ?

 裏口は恐らく無駄。ならば、敵がいない空間。


 階段、上へ。

 外からの助けはなく、包囲を突破できる見込みもない。

 天に続くこの段が、死へのカウントダウンなのは明白だ。


「バァカ! そっちに逃げ場はないぞお!」

「目玉を取り出してやるぅ!」


 それでも、足掻かなくてはならない。

 この抵抗に少しでも意味があるのなら。


 階段の途中で振り返り、迫る暴徒を射殺する。

 残り3発。


「絶対、殺すゥッ!」

「やれるもんならやってみろ、クソジジイども!」


 段を駆け上り、それでいて自身の存在を誇示する。


「そうだ、どんどん来いっ……」


 2階、これ以上は望めない。

 廊下の隅まで駆け抜け、振り返る。

 暴徒が3名、この階に到着していた。


 警告の暇はない。

 撃鉄を起こすと一発、即座に二度発砲。


 当たったのは最初の一発のみ。しかも、胸部左。

 肺から鮮血と空気が噴出するも止まらない。


 弾倉は空、装填の暇もない。

 こうなれば、銃は頑丈な石と変わらない。

 拳銃から手を離し、伸縮する警棒を抜いて展開させる。


 極限状態ながらも、栄輔の脳は驚くほど冷静に判断していた。

 先頭は鎌を持った男。2番目は1メートルほどある物干し竿の女、最後はナタを持った負傷中の男。


 振り上げられた鎌。

 下ろされる前に武器を持つ手首を打つと、衝撃で鎌が吹き飛んで壁に刺さる。


 返す棒で首を打つと、ピンと体を伸ばした状態でうつ伏せに倒れた。

 確かな手応え。首を砕いた自信があった。


「ギャアアアッ!」


 咆哮と共に物干し竿が突き出される。

 身を捩ってかわすも、先端が防刃ベストの隅をかすめた。


 衝撃が体勢を崩す。

 なんとかうつ伏せに倒れまいと身を捩り、相手と対峙する形で倒れ込んだ。


「ギャァーハハハハッ!」


 老婆が歯を見せて笑みを浮かべる。

 突き下される竿を警棒で払い、脇でガッチリ挟み込む。

 引き抜かれる前に一撃、二撃。警棒の先端を叩き込んだ。


 一度の打撃で頭蓋がへこみ、二度目の打撃で警棒が大きくめり込んだ。

 脱力した身体を足で跳ね除けると、今度はナタの刃が迫る。


 咄嗟に警棒で受け止める。

 この判断は間違いだ、本当なら回避すべきだった。

 しかし、それをするには自身の身体能力に自信が無さすぎた。


 判断ミスを咎めるように、事態は悪化した。

 複数の気配、増援がやってくる。

 逃げようにも、目前に迫る刃が離れない。


「ひーっ、ひーっ……」


 失血で顔面蒼白だというのに、相手の力は全く緩む気配がない。

 詰み。その一言が、脳内を過ぎる。


「クソめ……」


 彼が流す血をまともに浴びながら、栄輔はその時を待つしかなかった。

◆どうあがいても、絶望───

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ