12
2021年5月29日18:29 永葉県大桑村大桑研修センター
「なんかっ、変なのが来てるっ!」
正門前に辿り着くと、即座に異変が目に入った。
包囲する暴徒達が道を開けている。
2メートルを優に超える背丈と、極端に膨張した筋肉質の肉体を持つ巨躯。
頭部で光る眼球は極端に大きく、ひとつしかない。
人とは思えない一つ目の巨人が、そこにいた。
「なっ、なんだありゃっ?!」
ついてきた獄介も思わず声を上げた。
顔馴染みの村人達に襲われ、続いて化け物の登場。
理解が追いつかなくなるのも当然だ。
「一匹だけじゃないのかよ……」
既に異形と遭遇していた栄輔だが、混乱を避け脱出に専念させるため、敢えてその存在は伏せていた。
百聞は一見に如かず。実際に見せた方が早いし、理解も得られるというものである。
ただ、複数存在するのは想定外だった。いや、考えないようにしていたという方が正確か。
巨人は包囲の内側へ差し掛かる。
ここまで接近すると、包囲とは別に巨人の後を歩く村人の存在が明らかになった。
松明の灯りを背に、巨人がその口を開いた。
「下等生物! そこにいるな!」
驚いたことに、日本語だ。
一同が面食らって返答出来ずにいると、彼は続けた。
「言葉など必要ない! お前達は、これから死ぬのだからな!」
状況がきな臭くなってきた。
咄嗟に栄輔は振り返ると、余所者の三人に離れるようジェスチャーを送った。
弥生が頷く。獄介は頷くまでもなく逃げ出した。
「男と老人は悉く、惨たらしく殺す!」
だろうな。
栄輔は拳銃をホルスターから抜いて撃鉄を起こした。
「若い女には、俺の子を孕む義務がある!」
ならば、彼女達が人であるうちに死なせてやるべきだろうか。
最悪の状況を想定した。
ふと、疑問が浮かんだ。
───なんで、そんな事を宣言する必要があるんだ?
そんな事をせずとも、やるならさっさと攻めればいい。
悪趣味で片付けてもよかったが、何かが引っかかった。
しかし、状況は思考を許さなかった。
巨人が手を掲げると、研修センターに向けて振った。
「中級魔将軍デミノが、奴隷共に命ずる! 下等生物を引きずり出せぇっ!」
始まった。
巨人に従う暴徒達が走り出した。
「デミノ様ばんざぁい!」
「殺せぇっ!」
「目玉を抜き取っちゃるぅ!」
見知った顔が、化け物の走狗となり襲い掛かる。
相手が誰かを認識しないように、栄輔は拳銃を構えた。
「それ以上近づいたら撃つぞ!」
「撃つぞぉ! うちゅぞぉ! ギャハハハハ」
やはり、対話は成立しない。
───相手は化け物だ、相手は化け物なんだ。
心の中で念じると、先頭を走る暴徒の眉間を撃ち抜く。
走った姿勢のまま地面に崩れ落ちた。
相手は足を止めない。即座に標的を切り替える。
撃鉄を起こさない発砲において、精密な射撃は厳しい。
起こした状態でのシングル・アクションならば、引き金を撫でるだけで弾が出るため力は必要ない。
一方でダブル・アクション、起こさない状態では撃鉄を起こす動作まで引き金で行う分、人差し指に力を込める必要がある。
端的に説明するなら、必要以上に力まなければならないのだ。
劣悪な精度でも当たりやすい胸部へ2発。
驚くべき事に、それでも動きが止まらない。
血を流しながら、走り続けている。
座学で学んだことがある。
極度の興奮状態の人間は、心臓や脳髄などの急所を撃ち抜かれても数分は生きている。
そして、最初の数十秒は走って攻撃も出来る。
その数十秒で、命を失う警官はいる。
「くそったれ!」
ついに暴徒が正門に縋りついた。
乗り越えようとした男の口腔を意識して1発。
すると即座に脱力し、敷地内に転がり落ちた。
───よかった。不死身じゃない、ちゃんと死ぬ!
脳を破壊されても、人は数分は生きる。
では、人間の中枢である脳幹を破壊されたら?
さすがに即死する。彼らも例外ではない。
頭のどこかにあった懸念が解消された。
「開かないよぉ、この権力の犬! 邪魔だよ!」
「目玉ァ!」
残りのふたりは門をこじ開けようとしていた。
しかし、こちらは鎖で固定してある。簡単には開かない。
どうも、彼らは柔軟性に欠けている。
この期に及んで、作戦を変えず逃げもしない。
冷静に、撃鉄を起こして照準。
頭部の中心を意識してふたりを撃ち抜く。
5発。リボルバーのシリンダー弾倉には、使える弾が残っていない。
最後のひとり、胸にふたつの穴を穿たれた女。
こちらは無理に動いた影響か、致命的な血痕を残し地面に伏せていた。
血を失っても、彼らはやはり死ぬ。
年齢や身体に無理をさせているだけで、結局は人間でしかないのだ。
「下等生物、使えんな! こうやるんだ!」
この叫びにあの巨体、これはまずい!
栄輔は踵を返して校舎へ走り出す。
数秒経たぬうちに、聞いたことのない破壊音が響く。
そして、頭上を何かが飛翔し、目前に転がる。
正門そのもの。
あれを持ち上げたうえ、数十メートル先に投げる膂力。
人間のものではない、見た目通りの化け物だ。
これで、この敷地を守るものはなくなった。
包囲も解かれず、人は散り散り。
状況は最悪の一途を辿っていた。
◆迫る絶望、これからどうなる?!




