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TUONI ~闇を被った死神~  作者: 穀潰之熊
At Doom's Gate

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61/214

8

 獄介の足はそう速くない。

 瑩が軽く駆け足をはじめて1分と経たぬうちにトボトボと歩く背中が見えてきた。


 彼女の気配を察知すると、獄介はギョッとした表情で振り返った。


「わっ! き、来たんだ……」

「少し気になることがあったので」


 横に並んだ瑩の手には木刀。

 それを見て、さらに肝を冷やした。


「な、なんで木刀? ここ、そんなに物騒な土地じゃないよ?」

「念のためです。最近、地方で強盗団が出てるって話じゃないですか」

「それはまあ……そうだけどぉ」


 坂をくだり、大桑村の中心である集落、路沿に入る。

 そこは来た時と変わらず、ひと気がなく静まり返っていた。


 通りを歩く人や車はなく、民家からは生活の気配すら感じない。

 郵便局が十字路にあったが、こちらの中では照明ひとつ点いていなかった。


「あれっ? 変だな」

「私達が来た時から、こんな感じでしたけど」

「えぇ? それは……おかしい。いくら人口が少なくても、ここまで静かなんて……」


 ひとまず、郵便局を訪ねれば間違いはないだろう。

 ふたりは豆腐のような見てくれの建物の扉を開いた。


 全国どこでも見られるATMの正面を横切り、窓口へ。

 村の規模と比べると大きすぎる内部は、なんてことのないものだった。

 券を口に咥えている整理券配布機、ペンが転がったままの記入コーナー、鞄が置きっぱなしになっている長椅子。


 異様なのは、そこに人がいないことだった。

 カウンターの向こうにも、やはり誰もいない。


「どうしたんだろう……」


 この村に長年住んでいる獄介すら、人のいない郵便局は初めてだった。

 奥の扉が開いているのが気になるが、それはカウンターと対強盗用のパネルの向こうにあった。

 調べに行く? そんなわけがない。いくらなんでも、それはやり過ぎだ。


「そこの扉、開いてる」

「ちょっ、ちょっと?!」


 しかし、瑩は違った。

 カウンターに乗り、やすやすとパネルを越えてみせた。


「そこまでする必要、ないだろ!」


 局員以外、立ち入れない区域。

 獄介の存在を無視して、開かれた扉をくぐる。


 簡素なロッカーに、椅子と机。

 バックヤードというやつだろうか。


 窓からはブラインド越しの柔らかな陽射しが差し込み、部屋の一角を照らしていた。

 床に滴る液体と、同じぐらい赤い皮膚。

 四肢は長く、背中は猫背気味。脂肪らしきものが見受けられない、毛のない骨と皮だけの躯体。


 ごとり。

 大きな物体が床を転がった。


 頰肉のない、人間の頭部。

 生気を失った瞳が、虚空を眺めていた。


「産めもせず、食うにもまずい人間ばかりと思っていたが……僥倖(ぎょうこう)だ」


 呟くと、瑩を振り返る。

 光る眼球に、頭部と比して大きな牙。

 異形の存在が、そこにいた。


「退屈していたんだ。ここにいるのは、ジジババばかり……」


 身長は140センチほど、高くはない。

 しかし、この世に存在しなかった生物に油断は出来ない。


「お前は、どう楽しませてくれるんだ?」


 血と唾液の混ざった咆哮。

 戦いの基本、相手の思考に混乱と硬直を植え付ける戦術だ。


 その手には乗らない。

 瑩は真っ直ぐ見据えたまま、木刀で異形の拳を捌いた。


「こいつっ、まさかぁっ」


 眉間に柄頭を叩き込む。

 頭部へ直接衝撃を受けたことで、脳髄が揺さぶられる。

 相手の動きを封じたところに、瑩は気を集中させた。


 木刀。せいぜい人の尻や地面を叩いて威圧する道具。

 何の力もなく、神秘もない。

 単なる長い木塊(もっかい)


 それが、青い光を放ち始めた。

 人からしてみれば、単なる無害な光。

 手品と大差ない。


 しかし、彼ら(・・)にとっては滅びそのものだった。


「ま、まさか……まさかぁっ」


 木刀を八相に構え、光の刃を袈裟懸(けさが)けに振り下ろす。

 斬られた(・・・・)異形は音もなく絶命し、その肉体は灰となって消えていった。

◆この異能は───?

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