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正門をくぐると、左手にはかつて体育館だった多目的ホール。
正面には、宿舎兼会議室となる旧校舎があった。
「へー、意外とオシャレだったっぽいね」
「うん。昭和に建てられたって言うから、アニメとかに出てくるやつだと思ってた」
ところどころ色の落ちた黒い外壁に、赤茶色の瓦屋根。
木造といえば木造ではあるが、“いかにも”といった風体ではない。
残された塗料は、立地の割にそこそこ洒落た外観をしていた時代を想起させた。
「管理人室どこー?」
「職員室を使ってるって話だから、入ってすぐでしょ」
まずは管理人に挨拶し、宿舎とホールの下見をしなくてはならない。
昇降口でスリッパを借りると、管理人室はすぐ隣だ。
「えーちゃん。あれ見てみ」
春香の指す看板を見上げる。
元は職員室と書かれていたであろう看板。
管理人室とあるが、見るからにシールを上から貼っただけのものだ。
「雑じゃない?」
「重箱の隅突かないの」
合宿に乗り気でない春香を宥めつつ、瑩は戸を叩いた。
トントン。少し待つが、反応はない。
「いないのかなぁ?」
「まさか。先生が昨日連絡したって……」
宿舎にするにあたって、校舎では多少改築が行われていた。
その最たる例が、廊下と教室の間にある窓を壁にした点だろう。
プライバシーの保護と耐震強度補強を理由とした措置だが、これは管理人室も例外ではない。
廊下から部屋の様子を伺うことが出来ない。
さてどうしようか。瑩は何気なく引き手に指を掛けた。
すると、思いの外簡単に戸が動いた。
「開いてる……」
このまま立ち往生するのも癪だ。
ふたりは視線を交わすと、管理人室の戸を開いた。
そこは管理人室というより、一個人の居室だった。
ベッドに机や椅子、電子レンジと冷蔵庫。それにエアコン。
生活に必要な家具が一通り揃っている。
「ふぎぃっ……」
そして、男が一人。
机のラップトップパソコンと向かい合い、唸りながらキーボードを打ち込んでいた。
耳にはヘッドホン。なるほど、娯楽も揃っているというわけだ。
「はぁー……」
呆れた様子を隠さない瑩はずかずかと男に歩み寄り、ロックの旋律が漏れるヘッドホンを取り払った。
「わっ、あっ?!」
「あの! 今日見学に来た永葉南学園の者ですけど!」
覗くつもりはなかったが、PCの画面はツリッターだった。
それに興味はない。彼女はすぐに管理人へ視線を戻した。
「ああ、申し訳ない。少し議論が……白熱してて」
「遅れてすみません。車が故障してしまって」
互いに過ぎたことは仕方がないと、瑩は謝罪した。
そもそもの話、車のトラブルでパニックを起こし、連絡を怠った彼女達にも非はあるのだ。
「僕はここの管理人をさせてもらってる、腹谷獄介。よろしくね」
「永葉南二年の鬼武瑩です。それでこっちが……」
「伊藤春香でーす……」
なにやら、さらにテンションが低くなった春香。
違和感を覚えたが、それで話の腰を折るわけにもいかない。
瑩は髪の薄い中年に頭を下げた。
「えっと、車が壊れたんだって? 大変だったねぇ、JVFには連絡した?」
「はい。夕方になるかも、とか」
「実はこの村、小さいけど修理工場があるんだ。もしかしたら、何か出来るかも」
実にありがたい話だ。
春香はもちろん、瑩も現代人。
この時代から見捨てられた土地に、意味もなく長居などしたくはない。
「本当ですか? 先生の車だから何とも言えないんですけど……」
「先生は車にいらっしゃるのかな。このまま待つのもアレだから、先に下見済ませておくかい?」
獄介は明らかに不慣れな笑みを浮かべてみせた。
◆怪しいおやぢ───




