43
余裕というカバーに覆われた不安は、その力を増していた。
時事系まとめサイトの記事一覧をスクロールさせると、見覚えのある文字列ばかりが目につく。
『乱交パーティーの裏に隠された処理場』
『東川湖の別荘で複数の遺体発見』
『被害者には羅宮凪県警幹部も』
『東川郷にダーク・ステートの武器庫か!? ミサイル含む兵器複数発見!』
ニュースサイトでは自分達の別荘について、事細かに報道されていた。
なかには的外れな記事もあったが、少なくとも大手メディアがこの秘密を報じてしまった。
「まずい……」
少年は背中に流れる汗を感じた。
ゴミ捨て場の存在は、妹の持つ力よりも秘密にするべきものだった。
まだ不可思議な力は誤魔化しが効くが、こちらは現行法で対処されてしまう。
唯一の救いは、報道が自分達の存在を知らないという一点のみ。
いつ嗅ぎつけられるか。
あるいは、もう既に捜査の手が及んでいるか。
頬が強張った。
「大丈夫よ、お兄ちゃん」
暖かさが少年の背を覆う。
心地よい心臓の鼓動が互いの体内で共鳴する。
「怪しくなったら逃げちゃえばいい。いつもみたいに」
「……そうだね。でも」
「うん。おかあさんも一緒にね」
そのためにも、今は待たなければならない。
スマートフォンの画面を睨むと、ホップアップ通知が。
加賀津谷。待ち人の名だった。
『お待たせしました。菅原文華を捕まえました』
即座に通知をタップし、テレグラムを起動。
入力を始めた。
『いまどこ』
『91号を北上しています。警察にも追われていません』
待ち望んだ情報。
無茶な要望だったが、警察にも追われていない。
理想的な展開だ。
『オーラルゲートで合流ね』
国道91号線に近いラブホテル。
ここは頻繁に加賀津谷が利用している場所だ。
都合がいいのはここしかない。
しかし、その目論見は外れた。
『自分もそう考えていたのですが、なにやら救急車がいて騒ぎが起きています』
それは、望ましくない。
人が多い場所では、妹の力で余計な混乱が起きかねない。
場所を変更する必要があった。
『オーラルゲートから少し東に行くと、車の処理場があります。車両の処分ついでに、こちらはどうでしょう』
車の処理場、スクラップヤードだ。
少年の記憶では、確か外国人の出入りが多いヤードが付近にあった。
加賀津谷が言っているのは、そこの事なのだろう。
なぜ車の処分に付き合わなければならないのか。
苛立ちが顔を覗かせたが、少し考えた。
あの周辺はラブホテル以外にまともな施設はない。
それこそ、件のヤードぐらいなものだ。
もし、加賀津谷がそこと交渉出来る───それこそ犯罪に使った車の処分を頼めるぐらい───関係ならば妥当なのではないか。
渋顔が、少しだけ緩んだ。
「ねぇ。こいつ本当に加賀津谷?」
「え?」
突如、画面を覗いていた妹が口を挟んだ。
言われてみれば、加賀津谷にしては言葉が丁寧すぎる。
本人はもっと、下手な敬語で下品だったはず。
「……きっと、誘拐が初めてだから緊張してるんだよ」
「ふぅん。それもそっか」
偽物だとして、誰がそんな真似をする?
警察はそんな手段で捜査はできない。
今までもそうだった。
それ以外の第三者? 有り得ない。
多少不審な点があったとしても、加賀津谷は妹が虜にしている。
ある程度の正気を保っているが、彼はパパだ。
どう考えても、逆らうことは出来ない。
そう、裏切りはあり得ないのだ。
なぜなら、今までなかったから。
「でもそうだね。一応、保険は用意しておこっか」
「おかあさんも、いっぱい気持ちよくなって喜んでくれるよ」
適当に返信すると、音声通話の準備をする。
通話先は、パパ達F。
「もしもし、僕だけど。今すぐ手伝ってね」
スマホに耳をあてながら、部屋を後にした。
ここで、写真の一枚でも要求していればあるいは。
彼らはわずかな間だけ、逃げ延びることが出来たかもしれない。
◆狩人から獲物へ───




