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2021年5月17日 00:13
「……ここは?」
ハンナが気付くと、周りは狭い部屋の一室だった。
明かりに視線をやると、内窓から先ほどの工場が見えた。
どうやら事務室のような場所に移されたらしい。
視線を下ろすと、自分の乳房が視線に入った。
服は全て剥かれているが、それ以上のことをされた気配はない。
そこは一安心。しかし、そう長くもたない安心だ。
そのためにも逃げ出そうと考えたが、両手両足は横たわっているベッドに鎖で拘束されている。
外せる隙間がなければ、当然引き千切る力もない。
「ねぇ、なんでおかあさんは来ないの?」
不意に、くぐもった声が聞こえてきた。
なにか情報源があるかもしれない。
耳を凝らし、内容の判別に努めた。
◆ ◆ ◆
「もうすぐっ、もうすぐです!」
土下座する加賀津谷の叫びに反して、テレグラムの画面に既読の表示は出ない。
誰もがその可能性を脳裏に浮かべている。
加賀津谷の放った刺客は失敗したのだ。
「あのさ。僕は確かに言ったよ。おかあさん連れて来たら、周りの女をママにしてもいいって」
少年がナイフの切先で爪垢をほじくり出した。
その表情はかつてないほどに苛立ちを露わにしている。
「でもさ。スケベ心出して、肝心なとこでしくじるって、どういうこと?」
「違うんですっ、あと二日っ! 二日下さればっ……」
「ねぇ、おにいちゃん」
少女が兄に近寄ると、そっと耳打ちした。
「だったら、えっち禁止でいいじゃない」
「それいい! 罰として、あの女は僕達がもらうね! 連れてくるまでえっちも禁止!」
「そっ、そんなぁっ」
「あとね」
少年は這いつくばる加賀津谷に歩み寄ると、その手のひらをナイフで貫いた。
「あっ、がああっ?!」
「お仕置きだよ」
骨を避けて貫通する刃を見て、加賀津谷は喘いだ。
死の恐怖。痛みを上回るその感情が、彼の脳内から生殖本能を遠ざけた。
「これはお前のためを想ってやってるんだ。逃げちゃダメだよ」
「う、ぎいいっ」
追い討ちのように捻られたナイフが傷口を広げる。
人差し指から、中指まで。
骨の変形する痛みで、ようやく終わった。
「次はもっと酷くするからね。じゃ、もう帰っていいよ」
「ぐ、ううっ……」
「返事は?」
「はいいっ、二日、以内にぃ……」
「17日までだよ」
傷口を押さえながら、加賀津谷が逃げるようにその場を去った。
その場に残る二人はかつての事務室へ視線をやった。
「今晩は楽しもうか」
「うん。外人は初めて」
耳を立てていたハンナにも、タイムリミットが明確に感じられた。
急がなければ、あの得体の知れない何かが来てしまう。
鎖を引っ張り、手枷を捻る。
ベッドが揺れるばかりで、拘束は緩まない。
「なんでっ、なんでこんな目にっ」
泣きたい気分だが、泣いて喚いたところで仕方がない。
本当はわかっている。もう、他には何も出来ない。
泣いて、喚いて、祈る。今の彼女には、それしかないのだ。
「それはね、あなたが女だから」
答えなどない独り言に、無慈悲で、理不尽な答えが降りかかった。
瓜二つな顔立ちの男女。少年と少女、無垢の象徴である幼い子供にしか見えない二人だった。
「なっ、なんなのよそれっ」
「知らないの? 女は女の喜びを受け入れるのが正しいの」
声を震わせるハンナに、二人は悍ましい笑みを浮かべた。
部屋の敷居をまたぐと、漂ってくるあの匂い。
抵抗を弛緩させ、思考を鈍化させるあの匂い。
下腹部を収縮させ、濡らすあの匂い。
一歩進むごとに、覚えたことのない感情が湧き上がってきた。
「僕達はね、正しいことを広めてるんだ。それが使命なんだ」
「わかんない。あんた達の言ってること、全然わかんない」
ハンナの脳内は、口にした事のない言葉で埋め尽くされていた。
それでもなお、わずかな理性が率直な感想を口にさせた。
ふぅ。少女がわざとらしくため息をついた。
「そのレベルに達してないからね。でも大丈夫、すぐわかるようになるから」
ツインテールの少女が、そのスカートをたくし上げた。
◆32.5話は後日公開予定の『異常少年が陵辱ゲーヒロインを救うようです(仮題) 外伝またはif伝』に収録予定です(成人向け確定)




