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2021年5月14日
放課後。知樹が帰りの準備をしていると、ショートメッセージの着信が入った。
『モイ♪日曜日に遊びに行かない?』
ハンナのメッセージ。素直に解釈すれば、デートか何かの誘いだった。
デートとはなんたるものか、全く想像がつかない。
しかしわかることもある。例えば、そこら辺を歩いたり食事をしたり……
とどのつまり、トレーニングではない。
彼は渋顔を浮かべた。
「どうしたの?」
「いや、なんかハンナから誘われちゃってさ……」
「なんでそんな顔してるのさ。普通、喜ぶべきだろ?」
「だって、俺らそんなに親しくないだろ?」
あっけらかんと答える知樹を見て、慶太は彼女の困難を理解した。
どうも彼は『自分を助けてくれた相手に惚れる』というシチュエーションにピンと来ないようだ。
ハンナがこのベタな状態にあるのは、誰の目から見ても明らかだった。
友人、そして従姉妹の友人の恋路を助けたい。
その一心で、彼は慣れない提案をした。
「じゃあ、さ。僕と姉さんも一緒に行くよ」
「えっ、なんで」
「僕だって、たまにはショッピングモールとかで服とか買いたいよ」
「いやー、俺は別に……」
この期に及んで、まだ言うか。
記憶の中では、ポケットの財布はあまり厚くない。
それでも、彼を舞台に引きずり出すためには犠牲にしなければならなかった。
「来たら、ご飯奢るよ」
「……しょうがねぇなぁ」
幕内知樹。ただ飯は嫌いではなかった。
◆ ◆ ◆
2021年5月16日
一面に敷き詰められた真新しいアスファルト、垢ひとつない白と茶の塗装。
外壁にはそれぞれの店名を描いた大きな看板が並び、目前の国道を往く車にその存在を誇示していた。
「へぇ。こんなとこ出来てたんだ」
「マックって、この市に住んでるのよね。知らなかったの?」
「あんまこっちには来ないからなぁ」
知樹は市の南部に住んでいる。
基本が徒歩での移動となるうえ、流行りにまるで興味がない彼にとっては、同じ市でも生活圏が異なっているのだ。
国道から敷地内に入り、正面出入り口に横付けする。
ややおいて、ドアを開いた。
「お気をつけてお降りください」
「うす、ありがとうございました」
運転手に礼を告げると、カートの擦り跡が残るコンクリートに着地する。
そこは、家族連れやカップル達が闊歩する世界。
「へぇ。この辺にも若い人間がいたんだなぁ」
「そりゃ、日曜日だからねぇ」
マイクロバスを降りた一行はひとまず、入ってすぐの場所で集合した。
知樹・ハンナ・慶太・文華の四人組。間違いなく揃っていた。
「点呼よし。で、なにすんだ?」
「えーっとね……」
発起人のハンナに視線が集中する。
思えば、行く以上の予定を彼女から誰も聞いていない。
知樹はその点について尋ねていたが……
『秘密♪』
の一言ではぐらかされていた。
して、どうするか。
ハンナが笑みを浮かべた。
「コンクールで着る衣装、買いましょ」
「制服で良くね?」
知樹のマジレスにハンナはずっこけた。
「えー! なんで制服なのよ!」
「だって、学園の制服は礼服として扱われんだぜ? それに学園生コンクールなら、そうするのがスジじゃねーの?」
「うん。私も去年は制服で演奏したけど」
「そういうのじゃないのよ! ほら、日本語で箔がつくって言うでしょ!?」
一応、コンクールでは制服以外の着用も認められていた。
もちろん、場に相応しいものという前提がある。
「美濃先輩は毎年すごい格好で来てるね……」
「ほらっ、私達も対抗した方がいいのよ!」
「達って……私は」
「フミフミも買うの! 見るだけでいいから!」
元からそういった傾向のあるハンナだったが、今回は妙に押しが強い。
───また、へんなことを企んでるのね。
男の趣味も大概だが、本人も割と変人な面がある。
それでも、乗り掛かった船だ。文華はため息を吐きながら三人の後に続いた。
なるべく、知樹と距離を置きながら。
◆まあ、そうなるわな───




