ようやく謎が解けました
しばらくして、歴史の講義を受けていたところへ予告通りにウィル様が迎えにきた。
これから何が起こるのか聞いてみたけれど、「ついてからのお楽しみ」と誤魔化されてしまった。
そして今、謁見の間には王族全員の他に、宰相や大臣たちが勢揃いしている。
私が驚いて目を瞬かせていると、ウィル様が声を張り上げた。
「陛下、このようなお時間をいただき、誠にありがとうございます。」
国王陛下が仰々しく頷き、周りを見回した。
その視線に釣られて周囲を見ると、私と同じように驚いているのは数名だけで、ほとんどの者はこれから何が起こるのか分かっているような顔をしていた。
「本日、皆様を招集いたしましたのは、他でもありません。私の呪いについてご説明をするためです。」
ウィル様の言葉に数名からどよめきが起こった。
そちらに目をやると、顔色の悪い宰相と、顔を扇で隠した王妃殿下がいた。
「私は幼少期、母と護衛とともに王都の外れへ散策へ出かけておりました。その際に呪術師が召喚した狼たちに襲われ、私を庇った母は帰らぬ人となりました。そして、私は呪術の瘴気に当てられて定期的に狼へと変身しなければならない身体となりました。」
そうしてウィル様が腕を捲ると、そこには真っ黒な呪詛の文様が腕に巻き付くように描かれていた。
私はウィル様の境遇に胸が苦しくなった。
ウィル様のお母様は不幸な事故でお亡くなりになったと聞いていたけれど、まさか庇って亡くなっていただなんて…。
幼かったウィル様には相当辛い思い出だろう。
「呪術師はその場で自決をして亡くなり、その首謀者は長年分からず仕舞いでしたが……。」
そこで言葉を切ると、殿下はダリウス様に目配せをした。
素早くダリウス様が資料を持ってやって来る。
「私は、今回その首謀者を見つけ、弾糾することにいたしました。」
謁見の間を静寂が包む。
私はただただ固唾を飲んでその様子を見つめた。
「これは、事件が起こった年に王城へ提出されたフェニクシュ侯爵家の会計書類です。一見するとおかしくないのですが、ここ。」
ウィル様は会計資料の一部を指さす。
「この年、フェニクシュ侯爵家では灌漑事業を実施したことになっていますが、そのような事実はありませんでした。このお金はどこに消えたのか、ご説明いただけますか?宰相殿。」
「え…いや、それは。」
「それと、こちらは亡くなった呪術師が拠点としていた場所に残されていた依頼書です。こちらの金額は、消えた灌漑事業費とぴったり一致します。」
宰相であるフェニクシュ侯爵の言葉を遮り、もう一枚の書類を示したウィル様は、今度は王妃殿下に詰め寄った。
「さらに、依頼書に押されている薔薇の印が、王妃殿下が使っていたものと一致しました。また、当時王妃殿下に仕えていた侍女が、王妃殿下とフェニクシュ侯爵が男と密会していたと証言しています。」
宰相と王妃殿下の顔色がどんどんと悪くなっていく。
「ああ、そういえば、あの日、あの場所に散策に行くことになったのは王妃殿下からのお誘いでしたね?当日になって兄上が風邪を引いたからと私たちだけで行くことになりましたが。王宮の侍医に記録を確認してもらいましたが、あの日にレオナルド殿下の診察はしていないそうです。さて、どういうことでしょうか?」
冷たい視線を向けるウィル様に対し、王妃殿下の表情は扇に隠れてよく分からない。
しかし、持っている扇は微かに震えていた。
「叔父上と母上が、そのようなことをする訳がないだろう!」
静まり返る謁見の間に響いたのは、第一王子レオナルド殿下の声だった。
その声は怒りを含んで震えている。
それに対し、まるでゴミを見るような目で視線を向けたウィル様は小さくため息をついた。
「兄上、いい加減に現実を見てください。証拠がこれだけ揃っているのです。」
「し、しかし!これまでの十二年間、証拠が見つからなかったわけがないだろう!なぜ今になってこんなに証拠が出てくるんだ?偽物なんじゃないのか?」
「それは、私が父上に言って止めてもらっていたからです。兄上が王になるのに、余計な噂は必要ないと思っていたので。」
淡々とウィル様は語った。
その言葉に衝撃を受けたのはレオナルド殿下だ。
「ち、ちうえ、は、ご存知だったのですか。これは、事実なのですか。」
縋るような顔をして国王陛下を見つめるレオナルド殿下だったが、返ってきた返事はとても冷たいものだった。
「お前は私が愛する妻を失って何もしなかったと思うか?すぐに影に調査をさせ、側妃が関わっていたと分かった。捕えようとしたところで、ウィリアムがやって来たのだ。その段階で、ウィリアムは私と同じだけの情報を持っていた。」
レオナルド殿下の目が見開かれる。
それもそうだろう。国王陛下が影を使って調べさせたのと同じだけの情報を六歳のウィル様が持っていたのだから。
「私はウィリアムこそ王に相応しいと考えた。しかし、ウィリアム本人がそれを拒んだ。そして、影で王となるレオナルドを支えることの条件として提示されたことが、襲撃事件の真相を闇に葬ることだったのだ。」
そう語る国王陛下の表情は苦しげだ。
「な、なぜ…。」
「なぜ?呪いを受けた王など、王に相応しくない。それに、存外私はあなたを兄として慕っていたのですよ。だからこそ、国にいらぬ混乱をもたらしたくなかった。でも、それは間違っていたようです。」
ウィル様の瞳は、はっきりと憐れみの色を浮かべている。
それに気がついたレオナルド殿下は怒りを顕にした。
「父上も、お前も、僕を馬鹿にしているのか?僕は、お前の憐れみのおかげで王になる予定だったと??そんな馬鹿な話があるか!!大体、どうして今更…!!」
「あなたが私の愛しいスーザンを貶めたからです。」
突然名前を呼ばれてびくりと肩が震える。
ウィル様とレオナルド殿下の間に視線を彷徨わせると、レオナルド殿下がきっと私を睨んだ。
「なぜあの女に執着する?生まれも後ろ盾も、なにもないのに!」
「彼女は私の希望だからです。」
「どういうことだ?」
「兄上、私は呪いを受けたあと、王城に居場所がなかった。まるで隠されるように端に追いやられた。だから、気を紛らわすために、王立公園の森へ赴いていました。……」
そこから話されたウィル様の想い出話は、私がずっと知りたかった私たちの婚約理由だった。
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